コロナ軽症者の受け入れは「渡りに船」か 無償提供への危惧、中小ホテルから漏れる本音

受け入れ先として名前の挙がった「東横イン」は全国最大規模のチェーン(著者撮影)

新型コロナウイルス感染が広がりを見せる中、ホテル業界の現状は厳しい。宿泊予約サイトでは一部のホテルの室料はかなりの下落を起こしているし、多くの人が行き交うその性質上、忌避の対象となり、宿泊客は激減している。一方で、“個室提供”というホテル特有の機能が見直され、軽症者受け入れの役割を担う感染症対策の施設としてもあらためて注目を集めることになった。厳しい業界に光明が差したように見えたものの、感染者の受け入れは、有償/無償という点でも議論を呼び、中小の独立系ホテルの現場では、困惑の声も上がり始めている。

怨嗟の声が上がったホテルの「無償提供」

先陣を切って名前の出た「アパホテル」(著者撮影)
先陣を切って名前の出た「アパホテル」(著者撮影)

楽天の三木谷浩史氏が自身で保有する大阪市内のホテルの無償提供を大阪府へ申し出たことが大きなニュースとなった。三木谷氏の申し出に対し吉村大阪府知事は自身のツイッターで「運営マニュアルに基づき一定の宿泊業務をお願いするのと、感染急拡大に備えて多く施設を確保する為にも、有償一棟借上です。お気持ちに感謝です。」と発信したが、無償提供についてはホテル業界から怨嗟の声が上がった。

宿泊施設の業界団体である一般財団法人宿泊施設活性化機構は三木谷氏の無償提供の申し出について「企業広報としては最適ですが業界としては最悪です(中略)このままホテルが客室を無償提供する社会的風潮が進めば、ただでさえ経営が厳しいホテル業は間違いなく倒産します。」と無償提供を是とする風潮を危惧する声明を発表した。

国や自治体からの要請に応える形で軽症者を隔離する施設として「アパホテル」や「東横イン」等の名前が挙がっているが、アパホテル、東横イン共に都市部を中心に多店舗展開するブランドだ。ゆえに数ある店舗の中から条件に合った施設の提供や、シングルルームが主体として構成されるホテルだけに受け入れ人数の点でも期待できる。また、有償一棟借り上げという点について経営面からいえば、稼働率の低下が止まらない中にあって“渡りに船”といった側面も指摘できるだろう。

低迷する利用率に慣れない対応、風評被害……大きな岐路に立たされるホテル現場

感染者受け入れについてこのような一部の動きはあるものの、多くのホテルではコロナショックによる低迷する利用率の中にあって、経営や運営を続行すべきか否かという大きな岐路に立たされている。都内にある某チェーン系ビジネスホテルの担当者によると「従前と同様のオペレーションは全く通用しない事態に日々困惑している」という。客室清掃ひとつにしても各所の消毒など慣れない対応で要する時間は倍増、スタッフの時差出勤、自宅待機、助成金の手続きなど現場では日々想定していなかった対応に迫られていると話す。

チェーン本部から指示されるマニュアルではカバーしきれない部分も悩みだというが、ホテルブランドの看板と実際の経営や運営が異なることはよくあること。こちらのビジネスホテルも同様でチェーンブランドなのは看板だけ。地元の不動産会社が所有するホテルでその子会社が運営を担う。感染者の受け入れについては全く想像できないという。

チェーン系ではない都下にある独立系ビジネスホテルの支配人は「もし一棟まるごと国や都が借り上げて入れるとしたら背に腹は代えられないし経営面では助かる」としながらも、「感染者何万人となったら別かも知れないが、大手さんが手を挙げたら我々が入り込む余地はないだろう」という。続けて「チェーンブランドならまだしも我々のような独立系ホテルで感染者の受け入れを行えば“コロナのホテル”といった直接的な風評被害も心配」と話す。

朝食ブッフェもすっかり影を潜めた(写真アフロ)
朝食ブッフェもすっかり影を潜めた(写真アフロ)

筆者は、緊急事態宣言の直前まで細心の注意を払いつつビジネスホテルを中心にコロナショックに関連したホテル取材を続けてきた。朝食についていえば、新型コロナウイルスの報道以降にブッフェ形式の供食を控える要請があったことから、それまでのブッフェ形式から定食形式への移行が見られた。中には朝食料金がブッフェ時と同じという施設もありゲストの反応は様々。「お代わり自由のブッフェならば納得できたが定食で同料金とはいただけない」といった声だ。ホテルの担当者に聞くと「効率の良いブッフェと異なる定食という点や業者に委託している契約の関係もあり・・・」と言葉を濁す。

これらはホテルが存続しているからこその悩みであるが、営業続行もままならないホテルは続出、特に緊急事態宣言以降休館する施設が相次いでいる。チェーン系であれば周辺ホテルをクローズし基幹ホテルへ集約させるケースも多く、休館するホテルは日々増加しており枚挙に暇が無い。ネットで“ホテル休館”と検索してこれほど多くの結果が表示されることは過去になかったであろう。

本格的「コロナショック」はまだ来ていない

休業ではなく廃業を選択する施設も散見する。政府が発表した緊急経済対策では、“感染終息後の回復を狙って国内旅行の半額補助など観光業の支援をする”方向というが、「ホテルは投資されるお金が半端なく、とにかくいまは耐えて頑張れと言われても限界がある」「それまでに残っている施設はホテル専業でない会社かよほど体力のある施設だろう」と前出の独立系ビジネスホテル支配人は話す。

新型コロナウイルスが大きなニュースになった当初、コロナショックでホテルや旅館が倒産というニュースはいくつか見かけた。コロナショック=倒産という図式であったが1ヶ月や2ヶ月の業績低迷で倒産するわけはなく、従前から体力のなかった施設、インバウンドの取り込みで成り立っていたケースなど先行きが見込めないゆえの判断であろう。

混迷深まる観光業界では「春休みは諦めたとしてもゴールデンウィークを乗り切れるかがひとつの山場」という見立てが一部なされていた。しかし、日々深刻化する中で長期戦を覚悟するムードが漂い始めている。また必ずやって来る観光ブームを期待しつつも、これから到来するまさに本格的な“ショック”にどう立ち向かうのか。

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「フロントスタッフでチェックインするお客様の体温を測定したいところですが・・・いまのところ申告に頼るしかありませんが、それ以前に不特定多数のゲストと対面するスタッフの感染にも日々怯えながらの仕事です」と第一線のフロントスタッフは心配そうな面持ちで答えてくれた。ハード・ソフトそしてヒューマンが重要といわれたホテルの現場は、もはや“ホスピタリティ”や“おもてなし”などとは言っていられない現実に直面している。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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