薬剤師が教える「防災用品」 災害時の病気やケガはどうすればいい?

常備薬の備蓄いざというとき足りますか? 被災時に役立つお薬や衛生用品の準備は?(写真:アフロ)

普段は薬局内で調剤し薬の説明をするというイメージの薬剤師かもしれませんが、災害時には避難所のトイレの清潔を保ったり、体育館の湿度や温度の管理をしたりするなどの公衆衛生の管理も担い、避難者の健康を守るために力を尽くします。この記事では災害医療の一端を担う薬剤師の立場からいざというときの備えについてお伝えします。

災害時「ケガした」「具合が悪くなった」どこへ行けばいい?

地震や豪雨などの自然災害、それだけでも不安なのに、もし自分や家族が体調を崩してしまったら……。しかも、かかりつけの病院や薬局も被災していて医療を受けられる状況ではなかったとしたらさらに不安が募ります。

そんないざというときに役立つのが、災害時の医療供給の体制を頭の片隅に入れておくことです。東京都を例に、災害が発生してから1週間までの「急性期」と呼ばれる期間の医療体制をみてみましょう。

災害医療に携わる医療機関は大きく「病院」「診療所」「薬局」の3つがあり、それぞれ割り振られた役割を果たしています。

病院は役割に応じてさらに3つに分類されます。主に重症者の治療を行う「災害拠点病院」、主に中等症者の治療を行う「災害拠点連携病院」、それ以外の「災害医療支援病院」です。

災害拠点病院等の近くには区市町村によって「緊急医療救護所」がすみやかに設置されます。殺到した患者さんが適切かつ効率的に治療を受けられるようにするためです。重症者や中等症者は災害拠点病院等で、軽症者は緊急医療救護所でそれぞれ治療を受けます。

避難所にも「医療救護所」が立ち上がります。ここでも診察、歯科診療、お薬の交付と服薬指導、健康相談などが受けられます。

災害拠点病院に指定された病院の一覧は厚生労働省のホームページで確認することができるので一度確認しておくと安心です。

保険証や現金を持ち出せなかったら医療は受けられないの?

もしも保険証や現金を持ち出すことができずに避難した場合、医療はどうなるのでしょうか。

「保険証や医療証は大切なものですが、命を天秤にかけて自宅に取りに行くほど必要なものではないです。まずは身の安全の確保が第一と考えてください」

教えてくれたのは自らも熊本地震の被災者でありながら、避難所救護所で地域住民のために献身的に支援活動を続けた薬剤師の大森眞樹さんです。

これまでに起こった大規模な災害をみると、保険証や現金がなくても医療を受けられる措置が行政によって講じられてきました。

たとえば東日本大震災では「被用者保険」の被保険者の場合は「氏名」「生年月日」「事業所名」を、「国民健康保険」と「後期高齢者医療制度」の被保険者の場合は「氏名」「生年月日」「住所」を申し出ることで、保険証の提示なく医療を受けられるよう厚生労働省から事務連絡が出されました。

熊本地震や今年7月の豪雨で被災された方に対しても保険証の提示なしで医療が受けられる対策がなされています。自己負担金についても所定の要件を満たす場合は窓口での支払いが不要になったり、猶予されたりする等の措置が講じられています。

このように、これまでに起こった大規模災害時には保険証や現金のない被災者が医療を受けられずに困ることがないよう、行政による対策が講じられてきました。

いざというときの「常備薬」何日分用意する?

持病があって薬を飲んでいる方の常備薬、いざというときの備えは「3日分」です。

なぜなら災害が発生してから3日間の「超急性期」は、外からの支援を望むことが難しい場合があり、発災した地域に残されている薬や衛生用品などの物資だけでなんとかやり繰りをしないとならないためです。

なお、首相官邸のホームページでは「大規模災害発生時には”1週間分”の備蓄が望ましい」とされています。たとえば喘息や心臓の発作予防に用いる命にかかわるような大切な薬を使っている人は、特に常備薬を切らすことがないよう大規模な災害に備えて7日分備蓄しておくとより安心です。

常備薬以外で用意しておきたい薬は?

慣れない避難生活で体調を崩してしまったときに自分で対処できるように用意しておくと役立つ薬もあります。

飲み薬

痛み止め・熱さまし、総合かぜ薬、胃腸薬、下痢止め、便秘薬など

避難所での慣れない食生活やストレスでお腹の調子を崩すことがあります。胃腸薬、下痢止め、便秘薬のお薬があると安心です。避難所で夜中に咳き込んで周りの人に迷惑をかけたくないという理由で「咳止め」にニーズがあったといいます。咳止めの薬も持ち出す薬のなかに入れておくと良いかもしれません。

外用薬

目薬、湿布、殺菌消毒剤、かゆみ止めなど

「避難所の救護所には薬剤師がいて、服装に“薬剤師”と記載して活動しています。薬のことなどで心配があったら何でも相談してください」(大森さん)

備蓄薬の保管2つのポイント

準備した薬は、非常用持ち出し袋にポイと入れておけば良いのかというとそうではありません。保管方法にはルールがあります。

1、薬は冷暗所で保管

薬は遮光性がある色のついた密封できる袋や、クッキーの空き缶のような箱に入れて保管します。ちょうど良い袋や箱がなかったら、凍らないように気をつければ冷蔵庫で保管してもOKです。100均などに行けば旅行時の携帯に使う小さなピルケースを手に入れることができます。

2、数カ月ごとに備蓄した薬を入れ替える

備蓄していた薬の期限切れによる廃棄を防ぎ、無駄なく薬を使うため定期的に薬を入れ替えます。

保管に際して1つ注意したいのは、薬のなかには糖尿病の治療に使うインスリン製剤のように冷所保管が必要なお薬や、使用期限が短いお薬などの保管方法や交換時期に注意が必要なものがあるということです。薬を備蓄するときには遠慮なく薬剤師に相談して注意事項を確認してください。

「薬を持ち出せなかったうえに飲んでいる薬の名前が分からない」に今すぐ備える方法

外出先で被災したために手持ちの薬が全くない。そうならないためには、普段からカバンの中にも備蓄分の薬を入れておくのが一番です。ところが、避難する際にカバンを持ち出せないことも災害時にはあり得ます。

そこであると便利なのがスマートフォンや携帯電話で撮影したお薬手帳の写真です。お薬手帳には薬品名と用法・用量が記載されているので、救護所などで薬を処方してもらうのがスムーズになります。スマートフォンや携帯電話が充電切れになったときの対策として、お薬手帳の現在飲んでいる薬のページをコピーし、小さく折りたたんでお財布などに入れておけばさらに安心です。

便利な写真ですが活用には2つの落とし穴があります。1つはせっかく写真を撮ったのに文字が小さかったりブレていて読めなかったりすることです。写真を撮ったら必要な情報が読みとれるかをその場で必ず確認してください。

もう1つは写真が昔飲んでいたお薬のままで最新のお薬の情報に更新するのを忘れていたという場合です。処方内容が変わったときには写真の情報も併せて更新するようにしましょう。

「かかりつけの薬剤師さんがいたら、一緒に撮影確認するなどのサポートをお願いしておくのもいいかもしれません」(大森さん)

これを機にいますぐお薬手帳の写真を撮りましょう。ものの数秒で備えることができます。

いざというときにあると便利な8つの「衛生用品」

健康を守り、できるだけ清潔を保って過ごすには衛生用品も欠かせません。熊本地震の避難所で実際に役に立った衛生用品を大森さんに教えてもらいました。

・マスク

のどの保湿・保温の役割を果たし、カゼなどの感染症予防に役立ちます。

・おむつ

避難所には避難者の数に対して十分な量のおむつが備蓄されていない場合があります。超急性期を乗り切るための3日分ほどのおむつをストックしておくと安心です。

・生理用ナプキン

おむつ同様、避難者の数に対して十分な量の生理用ナプキンが備蓄されていない場合があるので非常時持ち出し用荷物に入れておくと安心です。

・汗拭きシート、ウェットティッシュ

お風呂に入れない間の体の清潔を保つために役立ちます。

・ドライシャンプー、液体歯磨き

水が自由に使えないときの頭髪や口内の清潔を保つために役立ちます。

・保湿クリーム、ハンドクリーム

避難所は意外と乾燥しています。皮膚の保護のために保湿クリームやハンドクリームがあると役立ちます。女性の場合は基礎化粧品もあると良いでしょう。

・空のペットボトルとペットボトル用シャワーヘッド

断水している際の手洗い時にシャワーヘッドがあると便利です。専用のものではなくキャップに穴を開けたものでもOK。寒い時期でなかったら洗髪にも使えます。

・手指用の消毒スプレーなど

手指などを消毒することで感染症を予防します。

そろえるものが多くて少し大変ですよね。でも、いざというときに自分や大切な人たちの健康を守るため、防災の日を機に薬と衛生用品を備えましょう。また、自宅や職場の近くの災害拠点病院をあらかじめ確認するなどしておけば、災害時に万が一ケガや病気をしても落ち着いて行動することができるはずです。