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女性記者はなぜ「タダで遊べるキャバ嬢」になるのか?

橘玲作家
(写真:アフロ)

仕事場の近くの住宅街に、玄関脇に警察官の警備ボックスが設置された家があります。路上に黒のスーツ姿の若者が5、6人立っていて、黒塗りの車が家の前に停まると、一斉に走り寄って下りてきた人物を取り囲みます。自民党重鎮の東京の自宅で、憲法改正問題で強い影響力をもっているため、メディア業界で「夜討ち」と呼ばれる取材対象になっているようです。

夜の散歩の途中にこうした場面に何度か遭遇したことがありますが、政治家は記者たちに軽く手を振るとさっさと家に入ってしまいます。すると記者は、それ以上なにをするでもなく、スマホを取り出してなにごとか話しながら駅へと向かいます。「話すことはないよ」といわれ、それを社に報告しているのでしょう。

こんな「取材」になんの意味があるのかさっぱりわかりませんが、なにごとも横並びで、他社に「抜かれる」ことを最大の汚点とする日本のメディアは、この奇妙な風習を一向にやめようとはしません。

早朝や深夜にアポなしで自宅にやってこられては迷惑以外のなにものでもありません。こんなことを毎日やれば、「ストーカー行為」として逮捕されてもおかしくないでしょう。それなのに警備の警官が黙認しているのは、彼らが「記者クラブ」というインナーサークルのメンバーだからです。

日本は「先進国の皮をかぶった身分制社会」なので、あらゆるところに「身分」が顔を出します。記者クラブ制度もその典型で、そこに加入している大手メディアの記者だけが政治家や官僚、警察幹部などに特権的にアクセスでき、フリーのジャーナリストが同じことをすると「犯罪」になってしまうのです。

権力の側から見れば、これは特定のメディアに便宜をはかってやっている、ということです。便宜供与を受ければ、当然、返礼が求められます。このようにして、権力とメディアは癒着していきます。このことは、アメリカの法学者で、言論・表現の自由に関する国連特別報告者でもあるデイヴィッド・ケイ氏からも指摘されていますが、驚いたことに、日本のほとんどのメディアはこの記者会見を無視しました。

これまで日本の大手メディアは、「夜討ち、朝駆けは取材対象者との信頼関係をつくるのに必須」と主張してきました。しかし、大学を出たばかりの若者と、憲法改正のような重要な政治課題についていったい何を話せばいいというのでしょう。政治家の側から、「何も知らない記者を取材によこすな」とクレームが入ることも多いといいます。

記者クラブ制度の欺瞞は、財務省の前事務次官が、記者のなかから気に入った若い女性を選んで、「タダで遊べるキャバ嬢」として夜中に呼び出していたことから白日のもとにさらされました。女性記者からセクハラを相談された上司が揉み消そうとしたのは、権力との「特別な関係」を壊したくなかったからでしょう。批判が自分たちの特権に飛び火するのを嫌がる各社が、この問題の追及に及び腰なのも当然です。

ちなみに、私がこれまで見た「夜討ち」の記者は全員が若い男性でした。彼らは、官僚の頂点に君臨する財務省事務次官とタメ口をきく同世代の女性記者をどう思っているのでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2018年5月14日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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