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新卒一括採用という「年齢差別」はもうやめよう

橘玲作家

就活中のアルバイト学生から、「スマホを机の上に出しておいていいですか?」と訊かれました。なんのことかと思ったら、人気企業の説明会は参加人数が決まっていて、募集から30分以内に申し込まないと落選してしまうのだそうです。これではまるで、アイドルのコンサートのチケット争奪戦みたいです。

「大学生は学業を優先すべし」との政府の要請により、今年から就活時期が大きく繰り下げられ、採用情報や説明会情報の解禁が学部3年の3月からになりました(採用選考開始は4年生の8月から)。その結果、数少ない説明会に学生が殺到することになり、希望者全員を受け入れることができなくなって「先着順」になったようです。こんなことでは、学生は学業どころではなくなってしまいますから、かえって逆効果でしょう。

厚生労働省のホームページには、「雇用対策法が改正され、平成19年10月から、事業主は労働者の募集及び採用について、年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないこととされ、年齢制限の禁止が義務化されました」と書かれています。ところが新卒採用では、企業は堂々と「学部卒は24歳、修士修了は26歳」などと年齢制限をしています。なぜこんな違法行為が許されるかというと、厚労省が「日本的雇用慣行」を守るためと称して、新卒採用を法律の適用除外にしているからです。

日本以外のすべての国は、新卒採用も含め、労働市場におけるあらゆる年齢差別を人権侵害として厳しく禁じています。それなのに日本の司法や行政が差別を放置しているのは、彼ら自身の組織が新卒一括採用と年齢による序列でできているからです。これでは、民間企業に「年齢差別をやめろ」などといえるわけがありません。

正月やゴールデンウィークの旅行が大変なのは、同じ時期にたくさんのひとが一斉に移動するからです。これは交通機関や旅館・ホテル、観光施設にも大きな負担をかけますから、旅行時期の分散はすべてのひとにとって利益になります。

新卒一括採用もこれと同じで、採用期間を短くすればするほど採用市場は混雑し、学生も企業も重い負担に苦しむことになります。それにもかかわらず、なぜこんな非効率的で差別的な制度をいつまでも続けているのでしょうか。

近代というのは、それまで好き勝手に生きてきたひとたちを資本主義市場経済に合わせて訓育していく過程でした。そのためにつくられたのが、学校、軍隊、工場などの訓育施設です。こうした施設の役割は、雑多なひとたちを性別と年齢で分類し、閉鎖的な環境のなかで特定の思考様式や行動様式を「洗脳」していくことです。

日本人は個人と組織の契約関係をまったく理解できないまま、“近代的訓育”に過剰適応しました。日本型組織とは、同期や先輩・後輩が義兄弟となり、支配者に忠誠を尽くし、集団に滅私奉公することなのです。

その典型が軍隊ですが、第二次大戦の敗戦で国民の訓育機能を失ってしまいます。それに代わるように、学校と工場・会社への偏愛が異常なまでに高まりました。

差別だろうがなんだろうが、官民一体となって労働改革に頑強に抵抗するのは、彼らが大好きな「軍隊生活」を守るためなのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2015年5月11日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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