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井上尚弥戦から復活を遂げたロドリゲス リング誌バンタム級ランキング1位に浮上

杉浦大介スポーツライター
Stephanie Trapp/TGB Promotions

10月15日 ニューヨーク ブルックリン

バークレイズセンター

WBA、IBF世界バンタム級エリミネーター12回戦

元IBF同級王者

エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ/30歳/21-2-1NC, 13KOs)

10回負傷判定3-0(100-90, 99-93, 99-91)

ゲリー・アントニオ・ラッセル(アメリカ/29歳/19-1-1NC, 12KOs)

 新鋭相手に見せた珠玉のパフォーマンス

 10月第2週はニューヨーク、ロンドン、メルボルンなど世界各地で主要試合が行われ、デオンテイ・ワイルダー、ケイレブ・プラント、デビン・ヘイニー(すべてアメリカ)といったトップボクサーたちがリングに立った。そんな中にあってやや地味ではあったが、質的に最高級のボクシングを見せたのは、ブルックリンで世界バンタム級エリミネーターを戦ったロドリゲスだった。

 ボクシング一家として知られるラッセル家が送り出した無敗プロスペクト、ゲリー・アントニオを相手にした一戦。戦前は勢いのあるラッセルが優位とみなされていたが、蓋を開けてみればロドリゲスの独壇場だった。

 初回に早くも右で相手をぐらつかせると、4回には左右のカウンターを面白いようにヒット。以降もペースを譲り渡さず、8回に右パンチで痛烈なダウンを奪った。この際のダメージは深刻で、レフェリー、セコンドがどちらも試合をストップしないのが不思議なくらいだった。

 「試合を支配しているのはわかっていた。(9回に)ダウンを奪ったとき、彼は正常な状態ではなかったから、コーナーは試合を止めるべきだと思った」

 試合後、ロドリゲスが残したそんなコメントからも、完全にペースを握っていたものの冷静な余裕が感じられた。

リング誌のランキング選定委員からも高評価

 9回、偶然のバッティングで右目下をカットしたロドリゲスは続行不可能になり、結果的にはわずか16秒で無効試合になった両者の第1戦同様に“痛い幕切れ”となってしまった。ただ、負傷判定での採点はロドリゲス勝利で問題なし。こうして無敗プロスペクトにほとんど完璧な“レッスン”を施した戦いは、近年は不遇を囲っていたプエルトリカンの評価を改めて高めるのに十分だった。

 この試合後、筆者がランキング選考委員を務めるリングマガジンのランキングにも変化が生じた。先週まで、同ランキングのバンタム級部門の王者&トップ5は以下の通りだった。

王者 井上尚弥(大橋)

1位 ジェイソン・モロニー(オーストラリア)

2位 ノニト・ドネア(フィリピン)

3位 ロドリゲス

4位 ラッセル

5位 リー・マクレガー(イギリス)

 それまで4位だったラッセルを文句のない形で下したパフォーマンスを見て、アンソン・ウェインライト記者が最新ランキングではロドリゲスをドネアの上の2位にすることを提案。その後、筆者を含む複数のパネリストは、2位に止まらず、ロドリゲスを王者・井上に次ぐ1位に据えることを進言したのだった。

 「ロドリゲスが1位でいいと思う。リングマガジンのランキングで4位の選手への勝利とはそいういう種類(それだけの価値がある)のものだ」

 トム・グレイ(同誌マネージング・エディター)

 「ロドリゲスをバンタム級1位に推すというトムに同意する。彼はラッセルに格の違いを見せつけた。レイマート・ガバリョ(フィリピン)戦も判定勝ちを収めてしかるべきだったし、過去にモロニー、ポール・バトラー(イギリス)にも勝っている。井上に粉砕されたのは恥ずかしいことではない」

 ダグラス・フィッシャー編集長

 「ロドリゲスには驚かされた。ラッセル戦では序盤にいい戦いをしても、フェイドアウトしていくと思ったからだ。ところがラッセルは解決策を見つけられず、ビッグパンチを浴び続けた。ロドリゲスが1位でいい」

 マーティン・マルケヒー

 「もう付け加えることはほとんどないが、ロドリゲスの1位に同意する。先週末は多くの試合が行われたが、その中でも、上り調子の無敗コンテンダーを相手にしたロドリゲスのパフォーマンスは最高級のものだった」

 杉浦大介

Stephanie Trapp/TGB Promotions
Stephanie Trapp/TGB Promotions

 今後、2度目のピークを迎える可能性も?

 IBF同級王者時代の2019年5月、井上にはわずか2回でKOに討ち取られたロドリゲスは、以降、様々な形での不運を味わって来た。ルイス・ネリ(メキシコ)戦は相手の体重オーバー、ドネア戦は相手のコロナ感染で中止。WBC暫定王座をかけて戦った2020年12月にガバリョ戦は、フィッシャー編集長の言葉通り、疑問の残る判定を失った。

 ただ、同階級の多くの強敵と拳を交えながら、負けは事実上、全階級最高のボクサーである井上に喫した1敗だけである。それだけの実力を持ったテクニシャンが、ここでインパクトの大きな1勝を挙げて健在ぶりを示した意味は大きい。

 同じく井上に完敗後、地道に4連勝を続けて来たモロニーのキャリアもリスペクトに足るものではあるが、それでもここでロドリゲスを上にランクすることに異論のあるファン、関係者は少ないはずだ。

 「今後は少し休み、世界タイトル戦を行いたい」

 そう語ったロドリゲスは井上がスーパーバンタム級に昇級後、空位となる王座決定戦に臨むことになる可能性は高い。誰が相手になろうと、そこでの王座復帰も有望だろう。30歳になったプエルトリコのベテランが、これから先に第2のピークを迎えても驚くべきではなさそうではある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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