1月22日 ニュージャージー州アトランティックシティ

ボーガタ・ホテル・カジノ&スパ

WBC世界フェザー級タイトル戦

王者

ゲリー・ラッセル・ジュニア(アメリカ/33歳/33勝1敗(18KO))

12回戦

マーク・マグサヨ(アメリカ/26歳/23戦全勝(16KO))

王者優位の掛け率が出ているが

 “1年を1戦のみで暮らすいい男”。2015年〜2020年は毎年1戦ずつゆえ、そんな風に揶揄されることも多かったラッセルだが、実力はエリートレベルのものがある。今回、2020年2月、タグ・ニャンバヤル(モンゴル)に勝って以来、約2年ぶりのリングで迎えるマグサヨは強打と旺盛な闘志を持った好選手ではあるが、それでも試合前の掛け率では王者が大差で優位と出ている。

 「錆びつきについては懸念していない。(試合がない間も)いつでもジムで練習していたからね。4、5歳の頃から2ヶ月以上、ジムから遠ざかった時期はない。ボクシングは単なる仕事ではなく、僕のライフスタイルなんだ」

 20日の最終会見でラッセルはそう述べていたが、実際にこれまでのキャリアを考えれば、久々のリングでも本来であれば心配はいらないのだろう。

ゲリーは5人兄弟のうち4人がボクサー、父がトレーナーというボクシング兄弟の長男であり出世頭 Amanda Westcott/SHOWTIME
ゲリーは5人兄弟のうち4人がボクサー、父がトレーナーというボクシング兄弟の長男であり出世頭 Amanda Westcott/SHOWTIME

 前述通り、過去7年で6戦しかこなしていないとはいえ、高速連打と標準以上のスキル、パワーを備えたラッセルは簡単に勝てる選手ではない。敗北はワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に喫した一戦のみ。2015年3月28日、日本でもおなじみのジョニー・ゴンサレス(メキシコ)をストップして現王座について以来、ジョセフ・ディアス(アメリカ)、ニャンバヤル、キコ・マルチネス(スペイン)といった強敵をすべて明白な形で下してきた。

 現役最高級のスピードスター、ラッセルがピークに近い力を保っていれば、今回も無敗のフィリピン人挑戦者に貫禄を見せつける舞台となる可能性が高い。

 しかしーーー。いつしか33歳になったラッセルのスピード面の衰え以外にも、不安要素がないわけではない。パンデミック開始直前に最後の防衛戦をこなして以降、ラッセルはリング外であまりにも酷な数々の悲劇を経験してきた。

ラッセル・ファミリーを襲った苦難

 2020年12月、26歳の弟ゲリー・ダレックが心臓発作で逝去した。ラッセル家の悲しみは大きく、特に年齢の近い28歳のゲリー・アントニオ(バンタム級プロスペクト/19戦全勝(12KO))は莫大なショックを受けたのだとか。

 また、先月には、ラッセル家の5人兄弟の父親であり、ゲリーにとってはトレーナーでもある62歳のラッセル・シニアが糖尿病の合併症で片足を切断。おかげでトレーニングキャンプ中は満足に息子を指導できず、今週末の試合に来れるかどうかもわからない状況だという。

 「多くのことが起こった。コーチであり、父親でもある人が足を切断せねばならなかった。父の健康状態は完璧ではない。ただ、だからといって不満を言うつもりはないよ。僕の準備は整っている。やり遂げてみせる」

 6度目の防衛を目指す王者は気丈にも言い訳を避けたが、シニアは片足切断後の生活に苦しんでいるという情報もある。息子たちもトレーニングに集中するのが容易ではない状況だったのは想像に難くない。ファイトウィークに入り、ラッセルは軽いケガを負っていることも明かしていた。

マグサヨ(右)の若さとパワーは決して侮れない Amanda Westcott/SHOWTIME
マグサヨ(右)の若さとパワーは決して侮れない Amanda Westcott/SHOWTIME

 ラッセルが万全ではなければ、26歳の挑戦者はなおさら危険な相手ではある。フレディ・ローチに指導を受けるマグサヨは、昨年8月21日、ラスベガスでのマニー・パッキャオ(フィリピン)対ヨルデニス・ウガス(キューバ)戦のアンダーカードで元王者フリオ・セハ(メキシコ)と対戦。5回に左フックでダウンを喫し、ポイントではリードされながら、10回に強烈な右を決めて戦慄的な逆転KO勝ちを飾った。ディフェンスに甘さはあるが、左右両拳に秘めたパワーは魅力がある。

 これが世界初挑戦の大舞台だが、マグサヨはパッキャオが主催するMPプロモーションズの傘下ゆえに4戦連続でアメリカでの試合となり、気遅れはないだろう。そんな背景から、ハングリーなフィリピン人挑戦者の番狂わせの可能性を語る声も一部から出ている。

 ラッセルは家族の悲劇を乗り越え、この強敵を撃破できるかどうか。少々地味ながらもファンの期待を集める好カードは、スリリングな展開になりそうな予感がすでに濃厚に漂ってきている。