Yahoo!ニュース

カネロか、ウシクか、それとも…。2020年世界ボクシング年間MVP独自選出

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 2021年も終わりに近づき、12月25日にニュージャージー州ニューアークで行われたFOX/PBC興行でアメリカ国内の主要ファイトは終了した。今回は今年度の世界ボクシング界を振り返りつつ、“年間最優秀選手”を独自に選出してみたい。

 大晦日には日本でWBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔(志成)が福永亮次(角海老宝石)と対戦する防衛戦があるが、当初に予定された統一戦ではなくなったこともあり、その結果が今回の選考に影響することはなさそう。だとすれば、この時点で“Fighter of the Year”を選んでも問題ないはずである。

年間最優秀選手

サウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ/世界スーパーミドル級4団体統一王者)

2021年 3戦3勝(3KO)

2月 アブニ・イルディリム(トルコ)  TKO3 

5月 ビリー・ジョー・サンダース(イギリス) TKO8

11月 ケイレブ・プラント(アメリカ) TKO11

 トップファイターは1年2戦かそれ以下が通例となった現代において、カネロはパンデミック下でも3試合を行い、うち2戦は無敗王者との統一戦だった。その3戦すべてでストップ勝ちを飾り、鋼の強さをアピール。昨年末からわずか11カ月間でスーパーミドル級の王座統一を果たしたこと、パウンド・フォー・パウンドNo.1の座を足固めしたことまで含め、今季に成し遂げた業績は際立っている。

 サンダース戦ではテキサスの大スタジアムに73.126人の大観衆を集め、プラント戦では久々のPPV興行を成功させたことも特筆されてしかるべき。依然としてアンチが多い選手ではあるが、様々な意味で、2021年のMVPにはカネロが誰よりも相応しいことに依存のあるファンは少ないのではないか。

プラント(右)との4冠戦でもカネロの強さは際立った
プラント(右)との4冠戦でもカネロの強さは際立った写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

1位

オレクサンダー・ウシク(ウクライナ/WBAスーパー、IBF、WBO世界ヘビー級王者)

2021年 1戦1勝

9月 アンソニー・ジョシュア(イギリス) 判定

 “現代最高のロードウォリアー”はヘビー級王者のジョシュアを敵地ロンドンで明白な形で下し、見事に2階級制覇を達成した。最重量級では小さすぎるという見方を吹き飛ばし、現代最高級のタレントであることを改めて証明してみせた。

 今年は1戦のみで終わったためにやはりカネロの上には据えづらいとしても、ジョシュアへの勝利は2021年、すべてのボクサーが挙げた中で最大の勝ち星だろう。クルーザー級、ヘビー級の両方で統一王者になった業績は語り継がれる。2022年、ヘビー級でも4団体統一を果たすようなことがあれば、現代の拳豪はまだ現役にして“レジェンド”と呼ばれるようになるはずだ。

ジョシュアを下してヘビー級3本のベルトを手に入れたパフォーマンスは見事だった
ジョシュアを下してヘビー級3本のベルトを手に入れたパフォーマンスは見事だった写真:ロイター/アフロ

2位

タイソン・フューリー(イギリス/WBC世界ヘビー級王者)

2021年 1戦1勝(1KO)

10月 デオンテイ・ワイルダー(アメリカ) KO11

 7月に計画されたジョシュアとの4団体統一戦が実現しなかったのは残念ではあったが、代わりに義務付けられたワイルダーとのラバーマッチはインパクトが大きかった。巨漢ファイターたちは合計5度のダウンを応酬し合う大激闘を展開。最後はフューリーが前王者をねじ伏せた迫力満点の一戦を、今年の年間最高試合に挙げる関係者も多い。

 206cmという長身、フットワーク、スキル、カリスマ性をすべて備えた“ボクシング界のユニコーン”は、母国だけではなく、過去5戦を戦ったアメリカでも”業界の顔”の1人として確立された印象がある。

ワイルダーとの決着戦は重量級の醍醐味を感じさせる激闘だった
ワイルダーとの決着戦は重量級の醍醐味を感じさせる激闘だった写真:ロイター/アフロ

3位

ジョシュ・テイラー(イギリス/世界スーパーライト級4団体統一王者)

2021年 1戦1勝

5月 ホセ・ラミレス(アメリカ) 判定

 2つのタイトルを持ち寄って行われたラミレスとの4団体統一戦で、2度のダウンを奪って勝ち取った劇的な1勝が燦然と輝く。2019年のレジス・プログレイス(アメリカ)戦に続いての実力者相手の勝利で、テイラーはパウンド・フォー・パウンドでも高い評価を受けるようになった。

 年内に予定されたジャック・カテラル(イギリス)とのWBO指名戦は延期になり、今年1戦のみで終わったのは残念。それでも2022年、一部で噂されるウェルター級進出が実現すれば、さらに大きな注目を浴びることになるだろう。

テイラーはエリート王者であるのと同時に、気取らないナイスガイでもある
テイラーはエリート王者であるのと同時に、気取らないナイスガイでもある写真:ロイター/アフロ

4位以下

 ここまで年間最優秀選手と1〜3位までを選んだが、4番手を挙げるとすれば10月下旬、ライト級の4冠王者テオフィモ・ロペス(アメリカ)を破る金星を挙げたジョージ・カンボソス Jr.(オーストラリア)か。11月、ショーン・ポーター(アメリカ)を他の誰よりも明白な形で下したテレンス・クロフォード(アメリカ)の強さも印象的だった。

 WBC世界バンタム級王座を奪取した試合を含み、39歳にしてタイトル戦で2勝2勝2KOのノニト・ドネア(フィリピン)も素晴らしく、MVP候補ではなくともカムバック賞の筆頭候補だろう。PPVイベントの顔役を2度も務めたジャーボンテ・デービス(アメリカ)も存在感はあり、人気、興行力の確かさを示したが、そろそろ対戦相手の質を上げて欲しいところだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事