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「誰も否定できない真実です」“大谷翔平の衝撃”を記者生活50年の重鎮が語る

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今季、大谷翔平がメジャーリーグの範疇を超えるほどの活躍を見せたことで、当然のように多くの米メディアの注目も集めることになった。今年の4月で75歳になったレジェンド記者、ピーター・ギャモンズも大谷に魅了された1人だ。

 1969年、ボストンを拠点に記者としてのキャリアをスタートさせたギャモンズは、以降、第一線で活動を続けてきた。現在もThe Athleticなどで健筆を振るい、MLBネットワークではコメンテーターも務めている。

 MLBプレーオフ中の10月、ギャモンズに2021年の大谷について意見を求めた。実に50年以上のキャリアを持つ重鎮ライターにとっても、“2ウェイモンスター(二刀流の怪物)”の快進撃は衝撃的だったようだ。

 ここでギャモンズが述べた言葉は、他のメディアが残したものとそれほど代わり映えがないように思えるかもしれない。しかし、「生涯のフェイバリット・プレーヤーはハンク・アーロン」と語る大ベテラン記者の意見には、やはり特別な説得力がある。大谷がこの人物をも震撼させたことには、重要な意味があるように思えてくるのである。

 ベースボールをより楽しいものに

 私はメジャーリーグを約50年にわたって取材してきましたが、大谷が今季やり遂げたことは本当にユニークだったと思います。彼は多くの人々から注目せずにはいられない何かを野球界にもたらしたのです。

 MLBネットワークに出演した際にもこの話をしましたが、高校時代には打者としてよりも投手として優れていたボストン・レッドソックスのアレックス・バードゥーゴは今秋、「二刀流をやりたい」と言い出しました。外野手兼リリーフ投手として出場したいというのです。もちろんバードゥーゴには大谷と同じような能力はないかもしれませんが、そんな選手が増えたら、ベースボールはこれまでよりも楽しいものになりますよ。

 振り返ってみれば、少年時代は誰もがそうでした。私も二塁手としてスタメン出場し、その試合中に投手を務め、さらにレフトも守ったことがありました。そうやって1試合で様々なことに挑めたら、ベースボールは最高です。

 今季もメジャーリーグでは素晴らしいことがたくさんありましたが、大谷以上に見ていて楽しい選手は他に存在しなかったと断言できます。大谷は間違いなくベースボールをより楽しいものにしてくれたのです。

 メジャーリーグで最も価値のある人物

 過去50年間で様々な選手を見てきましたが、今季の大谷が二刀流を1シーズンにわたって務め上げ、身体が悲鳴を上げなかったことには驚かされました。

 メジャーリーグでそれをやり遂げることで身体にかかる負荷は、カレッジなどとはレベルが違います。特に大谷は先発投手として、マウンドに立つたびに80、90球を投げ続けたことは驚異的と言わざるを得ません。能力的な問題ではなく、普通はフィジカル面で耐えられないものですから。

 大谷は日頃から健康を最大限にケアしているのでしょうし、投打ともに身体に負担がかかり過ぎないメカニックを確立しているのでしょう。

 メジャーリーグ全体を見渡しても最大の違いを生み出したのだから、大谷のMVP受賞は必然です。他にもファンが感謝すべき働きをした選手はたくさんいましたが、大谷の投打走の活躍は群を抜いていました。

 唯一、所属するロサンジェルス・エンゼルスの勝ち星が伸びなかったのは残念ですが、チーム内にケガ人などが多かったのであれば仕方ありません。たとえば彼がレッドソックスに属していたら、レッドソックスはダントツの優勝候補になっていたと思います。2021年、大谷こそがメジャーで最も価値のある人物(Most Valuable Person)だったことは、誰も否定できない真実のはずです。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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