Yahoo!ニュース

ドネアは「井上に勝つために何が必要かわかっている」 プロモーター独占インタビュー

杉浦大介スポーツライター
ドネアの右がシェイファー氏 Sean Michael Ham/PBC

 12月11日、4階級制覇王者で現在はWBC世界バンタム級王者を保持するノニト・ドネア(フィリピン)はカリフォルニア州カーソンでレイマート・ガバリョ(フィリピン)に4回KO勝利を飾った。2019年11月、日本で井上尚弥(大橋)と激闘を演じ、惜しくも敗れてから2年。39歳にして健在ぶりを誇示し続ける軽量級のレジェンドは、これからどこに向かうのか。

 11日の試合前後、ドネアのプロモーターであるプロベラムのリチャード・シェイファーにドネアの今後のプラン、ドネアとシェイファーの間にある信頼関係、プロベラムの方向性などに関してじっくりと話を聞いた。

 注)スーパーフライ級時代に獲得したWBA暫定王座を含めればドネアは5階級制覇

日本での再戦は「まったく問題ない」

――ガバリョ戦でのドネアのパフォーマンスをどう見ましたか?

リチャード・シェイファー(以下、RS) : 素晴らしかったですね。非常に辛抱強く、賢明に戦ってくれました。ベテランらしくまず相手に自信を与え、ミスを誘って仕留めるという狡猾な戦い方だったと思います。狙い通りにガバリョのボディが空き、そこにパンチを打ち込んで試合を終わらせました。

――今後を考えたとき、ドネアはあなたこそが対戦相手選別のキーパーソンだと繰り返し述べてきました。次戦の相手はどうなるのでしょう?

RS : 井上の交渉窓口になっているミスターホンダ(帝拳ジムの本田明彦会長)とはこれまでも話し合ってきましたし、今日も話しました。今後、日本の新型コロナウイルスの状況がどうなっていくか、しばらく様子を見る必要があるのでしょう。その後、交渉することになります。日本に行って戦うことはまったく問題はありません。日本の人たちは非常に信頼できますし、ファンはノニトを愛し、リスペクトしてくれますからね。ただ、39歳の偉大なファイターには適切な条件が必要だというのが私の考えです。

――井上選手が来年4月に統一戦を望んでいることはご存知ですよね?

RS : その件について、これまでも話し合いを続けてきました。

ガバリョ戦でもドネアの冷静な強さが光った Sean Michael Ham/PBC
ガバリョ戦でもドネアの冷静な強さが光った Sean Michael Ham/PBC

――あなたとドネアの間には固い絆があるように見え、それはボクシングビジネスでは希有なことです。ドネアはあなたの率直さが信頼関係の理由だと話していましたが、その意見に同意しますか?

RS : 私たちはすべてのことに同意するわけではありませんが、私は常に思ったことを正直に彼に伝えるようにしています。何が起こっているかだけではなく、なぜそれが起こっているかを話すのも大事なことです。ビジネスの関係だけではなく、友人同士でもあります。彼とその家族にリスペクトを持って接しているつもりです。2016年11月、ジェシー・マグダレノ(アメリカ)に敗れ、トップランクとの関係が終わった後、パートナーシップが始まりました。私たちの間には信頼があり、それに応えるだけの仕事を私もしてきたつもりです。

――ドネアがバンタム級でこれほどの強さを発揮していることに驚きはありませんか?

RS : 2018年4月、スーパーバンタム級でカール・フランプトン(アイルランド)戦に敗れた直後、リングに上がり、「まだバンタム級に下げられるか?」と彼に尋ねたのは私自身です。ノニトは私を見て、「大丈夫ですが、なぜですか?」と聞き返してきました。その後、バンタム級でワールド・ボクシング・スーパー・シリーズにエントリーし、また新しいキャリアが始まったのです。バンタム級の体重を作れるなら、そこでノニトに勝てる選手はほとんどいないという確信がありました。この階級でのノニトは大柄で、破格のパンチャー。2年前の井上戦ですら接戦であり、その後にまだ学び続けています。今、ノニトは「井上に勝つために何が必要かはわかっています」と私に断言しています。

カシメロはバンタム級に残るのか

――あなたが主催するプロモーション&メディア会社、プロベラムのドバイでの興行で計量に参加できず、11日の防衛戦が中止になったWBO王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)はどうなっていくと思いますか?

RS : 王座を剥奪されるのか、されないのか、まずWBOの裁定を待たなければなりません。指名挑戦者のポール・バトラー(イギリス)との対戦が再指令されることも考えられるのか、今の私にはわかりません。ただ、カシメロがウェイトに問題を抱えているのは誰もが承知していること。WBOにとって最善の措置は、スーパーバンタム級でのタイトル挑戦を確約して昇級を促すことなのかもしれません。私がカシメロのプロモーターなら、スーパーバンタム級に上げることを考えると思います。

――確認ですが、カシメロはプロベラム興行でメインに登場する予定になっていましたが、あなたの契約選手ではないんですよね?

RS : その通り、カシメロはプロペラム傘下ではありません。バトラーはプロベラムの契約下であり、私たちが興行権入札で勝ったためにカシメロ対バトラー戦はプロベラムの興行に組み込まれたのです。

8月に一度は対戦が決まりながらキャンセルになったドネア対カシメロの比国人対決は幻に終わる可能性が高まっている 写真撮影・杉浦大介
8月に一度は対戦が決まりながらキャンセルになったドネア対カシメロの比国人対決は幻に終わる可能性が高まっている 写真撮影・杉浦大介

――バトラーはプロベラム傘下ですが、同じくあなたの契約選手であるドネアとの対戦も将来的に考えられるのでしょうか?

RS : WBOのタイトルが空位となった場合、様々な方向性が考えられます。バトラーもノニトも契約選手ですから、そこでどんな試合が組めるのか改めて考えることになるのでしょう。

新会社プロベラムの方向性とは

――あなたは9月、プロベラムのビジネスをスタートさせました。数々のプロモーション会社が存在しますが、あなたの会社の特色とは?

RS : ボクシングではアメリカ、イギリスが2大マーケットと目され、実際にその通りではありますが、アフリカ、中南米、アジアにも多くのマーケットが存在します。それらの地域で開催される興行の中には、注目度が高いとは言えないものもあります。プロベラムの目的は、アメリカ、イギリス以外のマーケットにも投資し、スポンサーになり、提携していきたいということです。私たちはこの2ヶ月間で、メキシコ、プエルトリコ、カナダなど世界各国の25のプロモーターと提携契約を結んできました。そのようにグローバルな形で好選手たちを育てていきたいと考えています。その過程で敵は作らず、世界中のどんな会社とも一緒に働いていきたいというのも目標の1つ。団結してボクシングを発展させていきたいですね。

――誰とでも一緒にやっていきたいというスローガンを耳にしました。例えば同じくグローバル戦略を掲げるDAZNにとって、プロベラムは非常に魅力的だと思いますが、彼らとの独占契約などは考えていないということですか?

RS : 今回、私が親しくしているアル・ヘイモンのPBCと提携し、ドネアの試合はShowtimeで中継されました。また、ボブ・アラム(のトップランク)、エディ・ハーン(のマッチルーム)とも一緒に興行を行っています。DAZN、ESPN、Showtimeなど、誰とでも一緒に仕事をしていきたいので、1つの会社と独占契約を結ぶことはありません。プロベラムの所属選手には、テレビ局の違いによって対戦できなくなるような事態は起こって欲しくないからです。最強の選手同士の対戦を実現させるために尽力するつもり。テレンス・クロフォード(アメリカ)がビッグファイトに恵まれなくなったような事態は避けたいのです。今のサウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)はFA 選手としてDAZN、PBCと1戦ごとに関わっていますが、このスポーツにはそのような形が必要と考えています。私たちはその架け橋の1つになっていきたいですね。

――プロベラムはすでにドネアだけでなく、ドニー・ニエテス(フィリピン)、レジス・プログレイス、バドゥ・ジャック(ともにアメリカ)、リッキー・バーンズ(イギリス)とも契約を結んできました。早い段階からこれほど多くのトップファイターの興味を惹きつけたことに驚きましたか?

RS : 他にも多くの選手、プロモーターから売り込みを受けているので、まったく驚きではないですよ。私が選手を第一に考えるプロモーターだとみんな理解しているのでしょう。好意的に捉えてくれているのはノニトだけではなく、私に関してネガティブなことを言うボクサーはいないはずです。これからも選手のために尽力していきたいですし、最高の試合を組んでいきたいのです。過去にもフロイド・メイウェザー、バーナード・ホプキンス(ともにアメリカ)、カネロといった多くのビッグネームの注目ファイトに関わってきました。そんな実績を現代の選手たちが理解し、プロベラムとの契約を望んでくれるのは名誉なことです。他の会社とは違い、私たちは“選手を起用する”のではなく、“選手のために働く”。あくまで選手こそがボスなのです。

――日本の選手、プロモーターとはまだ契約していませんが、今後に話をしていくつもりですか?

RS : もちろんですよ。私はミスターホンダとは非常に親しい関係を築いてきました。ミスターホンダだけでなく、他のどんなプロモーターたちとも提携契約について話し合う準備があります。私は何度か来日し、日本のボクサーたちの勇敢さ、ボクシングファンの熱心さに感銘を受けてきました。これから日本ボクシングにもより深く関わっていきたいと願っています。

 リチャード・シェイファー

 スイス出身 1961年10月25日生 (年齢 60歳)

 2002年、オスカー・デラホーヤが設立したゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のCEOに就任。以降、フロイド・メイウェザー(アメリカ)、サウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)をはじめとする多くのスーパースターをプロモートした。2014年にGBPを離れ、2016年にリングスター・スポーツを設立。2017年7月にドネアと契約し、今年9月にはプロベラムの設立を発表した。

写真提供:Ringstar Sports
写真提供:Ringstar Sports

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事