“モンスター”のラスベガス第2戦が間近に迫っている。WBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(大橋)は現地6月19日、米ネバダ州ラスベガスのバージン・ホテルでIBF指名挑戦者のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)と防衛戦を行う。

 デビューから20戦全勝(17KO)の快進撃を続ける井上は、2021年最初のリングでどんな姿を見せてくれるのか。アメリカでもスターの座に近づけるのか。一方、30勝(20KO)2敗1分という戦績のダスマリナスは井上攻略の糸口をどこに見出すのか。

 今回、アメリカに本拠を置き、軽量級に精通する5人の記者に3つの質問をぶつけ、楽しみな一戦の行方を占ってみた。

パネリスト

ダグラス・フィッシャー(リングマガジンの編集長。ロサンジェルス在住。ビッグファイトではリングサイドの常連 Twitter : @dougiefischer)

マルコス・ビレガス(Fight Hub TVの創始者、インタヴュアー。FOXのボクシング中継で非公式ジャッジを務める Twitter @heyitsmarcosv)

ディラン・ヘルナンデス(ロサンジェルス・タイムズのコラムニスト。メキシコ系アメリカ人。語学に堪能で、英語、スペイン語、日本語を流暢に話す Twitter : @dylanohernandez)

ライアン・オハラ(リングマガジンのライター。コロラド州在住。丁寧な取材に裏打ちされた流麗な記事を執筆する Twitter : @OHaraSports)

ショーン・ナム(Boxingscene.comの通信員として活躍する韓国系アメリカ人ライター。精力的な取材で構築したネットワークによるインサイダー情報に定評がある Twitter : @seanpasbon)

1. 井上がダスマリナスに勝ち、米リングの新スター候補としてアピールするためにやるべきことは?

フィッシャー : アメリカで呼び物になっていくためには、井上は派手な形で相手をKOし続けなければならない。ESPNで放送される興行での豪快なKOには莫大な価値があり、特に看板番組のスポーツセンターで繰り返し流されるようなフィニッシュであればなおさらだ。ただ、ダスマリナスが相手であれば、井上は慎重にならなければいけない。ダスマリナスは頭を前に突き出して前進してくるため、バッティングが懸念される。それを避けるためにも、井上は距離をとってアウトボクシングし、サウスポーの相手の顔面に右ストレートを打ち込むべき。相手のジャブに対するカウンターのフックも有効だろう。フィリピン人挑戦者をロープに詰め、ボディを攻めるのも良い。それらをやり遂げれば、ダスマリナスを中盤までに仕留められるはずだ。

ビレガス : マニー・パッキャオ(フィリピン)がなぜあれほどのスーパースターになったかといえば、強敵をKOし続けたからだ。アメリカのファンはKOが大好き。今回のダスマリナス戦でも井上には鮮烈なKOが求められる。米リングでスターダムに突入するためにあと2つの条件を挙げておくと、メディアの取材に対してオープンでいること、英語を喋ること。井上には間違いなくスターのポテンシャルがあり、この3つの条件を満たすことでその座に近づくことができる。

ヘルナンデス : 井上はゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、フェリックス・“ティト”・トリニダード(プエルトリコ)と同様に“デストロイヤー”のようなイメージで売り出されているだけに、毎試合、KO勝利が義務付けられる。今回もとにかくKOすることが第一。ダスマリナス戦はまず間違いなくその結果に落ち着くだろう。

オハラ : 井上はダスマリナスよりも遥かに格上であり、実力差は歴然としている。ファンを喜ばせるために、可能な限り早くフィニッシュするべきだ。私は井上がそれをやり遂げると思っている。

ナム : 今回の試合に関しては、井上は単に自分らしくありさえすれば良い。ダスマリナスに勝つために特別なことをやる必要はない。全国区のスーパースターになるために、何か方程式が存在するわけではない。その選手のスター性や性格面によるところが大きいのも事実だ。ボクサーが1つだけコントロールできることがあるとすれば、それはリング上でのパフォーマンス。ボクシングというスポーツにおいて、KO以上に魅力的なものはない。魅惑的なKO劇を頻繁に生み出してきた井上は、眠くなるような試合をして200万ドルの報酬を要求する現在の多くの選手たちとはすでに一線を画している。まだ英会話が得意ではないこと、ボクシングビジネスは一筋縄ではいかないことといった障害はあるが、KO街道を走り続けることは間違いなく井上の知名度アップの助けになる。

2. ダスマリナスが井上を苦しめるためにやるべきことは?

フィッシャー : ダスマリナスはテクニックと才能で井上に劣っており、中間距離以上の距離での戦いでは太刀打ちできない。可能な限り、ラフで見苦しい戦いにする必要があるだろう。距離を詰め、身体で押していき、その距離でのパンチの交換の中で放ったパンチが有効打になることを願うしかない。

ビレガス : 井上が苦戦する可能性があるとすれば、2019年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦で負傷した右目が悪影響を及ぼした時だけではないか。一般的に、眼窩底骨折を負った目というのはそれまでと同じではなくなり、腫れやすくなるもの。去年のジェイソン・マロニー(オーストラリア)戦では影響は感じられなかったが、今回、右目に強烈なパンチをもらったときにどう反応するかが気にかかる。

ヘルナンデス : ダスマリナスは広いスタンスで放つ際のパンチは強いが、足を動かさなければいけない状況では強打が打てなくなる。左右の違いはあるが、対戦相手のレベルが上がると同時にKOできなくなったキース・サーマン(アメリカ)を彷彿とさせる。井上が押していった場合、ダスマリナスはパンチに力が込められなくなり、反撃の手段はなくなるはずだ。ダスマリナスのパンチが当たったとしても、井上が威力を感じなかった瞬間に試合が終わる。正直、何らかのアクシデントがない限り、井上が負ける姿は想像できない。

オハラ : ダスマリナスの勝機を見出すのは容易ではない。動きはスローで、意外性もない。挑戦者がチャンスを掴む前に、井上のカウンター一撃で勝負は決まってしまうのではないか。

ナム : 左ストレートを当てるのが絶対条件になる。問題はダスマリナスには井上に対抗し、適切な距離を測るために必要な基礎的な要素が欠けているように思えること。適応能力に秀でた井上はジャブを多用することでダスマリナスを切り刻み、強烈な右か左フックにつなげていく可能性が高い。ドネアが示したように、井上に一発でも当てるにはまずは集中砲火をかいくぐる必要があり、そのためには標準以上の打たれ強さが必要。それらの要素を考えれば、攻め込んでくる井上にダスマリナスが左をクリーンヒットできたなら、その時点で挑戦者の成果は期待以上と言って良い。

3. 試合予想

フィッシャー : 中盤までに井上がKO勝ちを収める。

ビレガス : ファンからの期待に応え、井上がKOで勝利を手にするはずだ。

ヘルナンデス : 4ラウンドくらいに井上がKO勝ちする。その気になれば、1、2ラウンドで勝負を決めることも十分に可能だろう。

オハラ : 2ラウンド以内での井上のKO勝ちを予想する。

ナム : 井上の6回KO勝ち。

米メディアも揃って井上のKO勝ちを予想。モンスターに死角はなさそうだ 撮影・杉浦大介
米メディアも揃って井上のKO勝ちを予想。モンスターに死角はなさそうだ 撮影・杉浦大介