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なぜWBA王者・京口紘人と契約したのか──英ボクシング界大手プロモーターが明かす

杉浦大介スポーツライター
Photo By Ed Mulholland/Matchroom

3月13日(日本時間14日) アメリカ・テキサス州ダラス

アメリカン・エアラインズ・センター

WBA世界ライトフライ級タイトル戦

スーパー王者

京口紘人(ワタナベ/27歳/14戦全勝(9KO))

挑戦者

アクセル・アラゴン・ベガ(メキシコ/20歳/14勝(8KO)3敗1分)

京口は「特別な選手」

 京口対ベガ戦は激しい戦いになることを期待している。ベガは信じられないほど小柄だが、タフで、好戦的。懐ろに入り込んで戦うことを好む選手で、京口にとっても危険な相手と言えるだろう。第1ラウンドからスパークする面白い試合になると思うが、私は京口が6ラウンド以内でKO勝ちすると予想している。 

 何かを売り出していこうと思うなら、信頼できるものでなければならない。そういった意味で、軽量級の選手たちには信頼が置けるんだ。彼らの試合はエキサイティングで面白いものになると保証されている。ミドル級やヘビー級ほどの集客力はないとしても、常に良い試合を見せてくれるという確証がある。

 ローマン・“チョコラティート”・ゴンサレス(ニカラグア)、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、シーサケット・ソーランビサイ(タイ)、フリオ・セサール・マルチネス(メキシコ)といった軽量級の選手たちは、DAZNを視聴するボクシングファンに好まれる。DAZNと契約するような目の肥えたファイトファンは、エストラーダ対チョコラティート戦はレジェンド同士のビッグファイトだと理解しているんだ。

 京口に関しては、私がその眼力を信頼するエディ・レイノソ(トレーナー&マネージャー)から「特別な選手だ」と推薦を受けた。また、世界戦略を目論んでいるマッチルームにとっても、日本マーケットの開拓に向けて京口との契約は良いスタートになると考えた。若く、ハンサムで、エキサイティングな世界王者であり、統一王者を目指している京口はイメージが良い。

 軽量級について私が気に入っているのは、統一戦が組み易いことだ。軽量級の選手たちはそれほど莫大な報酬を受け取っているわけではない。京口は良いファイトマネーを稼いでいるが、1試合ごとに300万ドルを手に入れているわけではない。だから高額を提示すれば、彼らは戦いたいと思ってくれるし、統一戦をしたいと望んでくれる。

井上尚弥の好影響も

 今戦の後、京口にも統一路線に乗り出してもらいたい。ライトフライ級を統一したら、フライ級に上げて欲しい。軽量級の好選手たちにとって、複数の階級を制覇することが最大の挑戦になる。エストラーダ、チョコラティートが成し遂げたように、複数階級で統一戦路線をいくことが京口にとってのチャレンジになるだろう。もちろん昇級は簡単なことではないが、もっとたくさん食べて、いずれフライ級にも上げることを望んでいる。

 私たちは京口に力を誇示するためのプラットフォームを提供し、プロモートする。私は彼のエナジーが好きだし、“マッドボーイ”という愛称、緊張感があって積極的なファイトスタイルも気に入っている。

 井上尚弥(大橋)に驚嘆させられた後で、欧米の人間はミステリアスな日本人選手たちに魅力を感じている。私はWBSSが行われたスコットランドで井上の試合を間近で見たが、本当にとつもない野獣で、あんな選手はこれまで見たことがなかった。ゴロフキンが東ヨーロッパの人間に門戸を開いたように、井上の成功によって他の日本人選手たちへの扉も開かれ、京口の助けにもなるだろう。

 あとは京口が実際にどんなパフォーマンスを見せるか次第。世界中の多くの人が視聴する3月13日の興行で良いファイトをすれば、人々は彼の試合をまた見たいと思うだろう。私は彼には頻繁に戦って欲しいと思っていて、できれば今年は4戦こなして欲しい。

 次は5月8日のサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)対ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)戦のアンダーカードに登場することだってあり得るかもしれない。今後、12ヶ月の間に私たちが日本で興行を打つことも考えている。順調ならば、京口の統一戦を日本で挙行することだって可能かもしれないんだ。

●プロフィール

エディ・ハーン。1979年6月8日生まれ(41歳)、イギリスのダゲナム出身。父バリー・ハーンの後を継いでマッチルーム・スポーツの総帥を務め、Skyスポーツ、DAZNとの独占放送、配信契約を締結するなど手腕を発揮。アンソニー・ジョシュア(イギリス)、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)など多くのスター選手のプロモーターを務める。昨年12月、WBA世界ライトフライ級スーパー王者の京口紘人(ワタナベ)との契約も発表した。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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