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ベルチェルトとの大一番が内定したバルデス 前哨戦を鮮烈なフィニッシュも残る不安

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams/Top Rank

7月21日 ラスベガス  

MGMグランド ボールルーム・カンファレンス・センター

スーパーフェザー級10回戦

オスカル・バルデス(メキシコ/29歳/28勝全勝(22KO))

TKO10回2分43秒

ジェイソン・ベレス(プエルトリコ/32歳/29勝(21KO)7敗1分)

不安定な前哨戦

 不安定な試合展開と、鮮烈なフィニッシューーー。バルデスの魅力と欠点の両方が露呈された“世界前哨戦”ではあったのだろう。

 21日、ラスベガスの通称“バブル”で行われたノンタイトル戦で、バルデスはベテランのベレスに最終的には見事なKO勝ち。5、10回に得意の左フックでダウンを奪い、最後は右で3度目のダウンを追加したところでトニー・ウィークス・レフェリーがストップをかけた。

 これまで売り出し中のライアン・ガルシア、IBF世界スーパーフェザー級王者ジョセフ・ディアス(ともにアメリカ)、WBA世界同級王者レネ・アルバラード(ニカラグア)といった強者たちを相手に判定まで粘ったタフガイに、初のKO負けをなすりつけた。だとすれば、一見すると胸を張って良い勝利のように思える。

 ただ・・・・・・最後は鮮やかであっても、全体的には評価を上げる種類の戦いぶりではなかったのも事実ではある。左フックを打つ際にパンチをため過ぎ、ディフェンスが甘くなる癖は相変わらず。ダウンを奪った以外の時間帯では被弾も多く、ジャッジの1人は9回終了時点で85-84とバルデスがわずか1ポイント差でリードと採点していた(あとの2人は89-80、88-81と大差)。

 番狂わせの匂いこそ最後までなかったが、必要以上に試合を面白くしてしまった感は否めない。様々な意味で、最近のバルデスを象徴するような試合だったのだろう。バルデスは次戦でWBC 同級王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)に挑むことが内定しているが、今回の勝利の後でも、厳しい予想でメキシコ人対決に臨むことになりそうである。

クイッグ戦がターニングポイントか

 ロンドン五輪後にトップランク傘下でプロ入りし、期待通りに無敗のままWBO世界フェザー級王座に就いたバルデス。気風の良い性格も好印象で、もともと好戦的なメキシカンは商品価値が高いだけに、当初はトップランクからの期待も大きかった。ところが、最近は上昇期の勢いを急激に失ってしまった印象がある。

 台頭期から打ちつ打たれつのタフファイトが多く、まだ20代ながらフィジカルが消耗している部分があるのではないか。中でも2018年3月、スコット・クイッグ(イギリス)戦のダメージは大きかったのだろう。

 元王者のクイッグは前日計量にフェザー級リミットを2.8パウンドも上回る体重で現れ、失格となった。クイッグが罰金を払った上で試合は強行され、激闘の末にバルデスは判定勝ち。明らかに体格で上回る相手にマチズモを誇示し、バルデスは多くのファンから称賛を浴びる結果になった。

 しかし、顎を骨折し、歯も折り、2ヶ月も食事が取れなかったというバルデスが支払った代償も小さくなかった。このクイッグ戦以降も勝ち続けてはいるものの、不安定な試合続き。スーパーフェザー級に上げてからはパワーと馬力の効果がやや目減りしたこともあり、評価自体は下降傾向にある。

 自身のスタイルに危機感はあったのか、クイッグ戦後は守備指導に定評があるエディ・レイノソ・トレーナーに師事して新境地を目指してきた。それでも昨年11月30日、スーパーフェザー級転向初戦では代役対戦者のアダム・ロペス(アメリカ)に7回KO勝ちしたものの、2回にダウンを喫してしまう始末。今回のベレス戦ではまたもKO勝ちを飾りはしたが、ディフェンス面の欠点が改めて指摘される結果になった。

 「僕は学ぶことを止めない。ジムに戻り、また上達するよ。レイノソ・トレーナーとの間に良いリズムが生まれているからね」

 ベレス戦後にバルデスがそう述べてはいたが、レイノソとのパートナーシップの相性を疑問視する声が出ているのも仕方あるまい。

レイノソ・トレーナーの指示を聞くバルデス Photo By Mikey Williams/Top Rank
レイノソ・トレーナーの指示を聞くバルデス Photo By Mikey Williams/Top Rank

バルデスにとってベストのスタイルとは

 もともと精力的なオフェンスがバルデスの魅力であり、武器にもなっていた。レイノソと組んで以降はバックステップが増え、得意ではないスタイルで戦うことで攻防が中途半端になった印象も受ける。サウル・アルバレス(メキシコ)とは一枚岩のレイノソのトレーナーとしての技量に疑問の余地はないが、バルデスに関しては攻撃の精度を増すことこそが“最大の防御”になるのではないか。

 バルデスが停滞してもボクシング界は動き、ベルチェルト戦は年内にも挙行される方向という。同じトップランク傘下ということで、マッチメイクはスムーズなはずだ。

 「ベルチェルトと戦いたい。僕が望むWBCのベルトは彼が持っている。ミゲールと僕が戦えばすごい試合になるよ」

 バルデス自身もすでにそう意気込んでいる。アマチュア時代から旧知の2人は噛み合わせも良さそうで、本来ならかつてのマルコ・アントニオ・バレラとエリック・モラレスのようなライバル関係を築いても不思議はなかったのかもしれない。ただ、これまで述べてきた通り、ここでのビッグファイトはタイミング的にバルデスにベストとは言えまい。

 ベレス戦中、ESPNの解説を務めたアンドレ・ウォードが「オスカルは私が予想していたものをみせてくれていない」と述べれば、ティモシー・ブラッドリーも「バルデスがベルチェルト戦でもこんな出来なら、判定までいかないぞ」と指摘していた。実際に今まさにピークにいる感のあるベルチェルトにぶつければ、バルデスはさらに大きなダメージを溜め込む可能性がある。百戦錬磨のトップランクもちろんそれに気付いているに違いない。

 それでもベルチェルト戦を強行するのは、苦戦したロペス、ベレス戦でも最後はKO勝利を手にしたバルデスの勝負強さとポテンシャルを信じているからか。それとも、もうこれ以上の伸びしろはないと見て取った上で、ここで勝負をかけさせるのか。

 バルデスは依然として魅力のあるタレントだけに、再びキャリアの分岐点になるであろう一戦に興味はそそられる。リスクは大きいが、絶対不利の下馬評を覆して勝つようなことがあれば得られるものは大きい。そんなビッグファイトに、バルガスがどういったスタイルで臨んでくるかも見どころの1つになるのだろう。

不倒のベレスを最後は倒し切った勝負強さは依然として魅力だが Photo By Mikey Williams/Top Rank
不倒のベレスを最後は倒し切った勝負強さは依然として魅力だが Photo By Mikey Williams/Top Rank
スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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