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伊藤雅雪を撃破した世界王者が陽性 米ボクシングのコロナ予防策は機能しているのか?

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams/Top Rank

世界戦の約10日前に王者の感染が発覚

 6月23日、ラスベガスではコロナショック以降では初めてとなるボクシングの世界タイトル戦が開催されたが、この日、その試合以上に話題になったのは、7月2日に防衛戦を予定していたWBO世界スーパーフェザー級王者ジャメル・ヘリング(アメリカ)が新型コロナウイルス陽性反応を示したというニュースだった。

 ヘリングは昨年5月、伊藤雅雪(横浜光)に判定勝ちでタイトルを奪った選手。本人がツイートで感染を公表し、ジョナサン・オケンド(プエルトリコ)を相手に行われるはずだった防衛戦はもちろん延期となっている。コロナで世界戦に直接の影響が出たのはこれが初めてのケースだった。

 先週中に発熱を経験したというヘリングだが、幸いにも現在の体調は良好という。23日にはESPNの放送中にもリモートで登場し、元気な姿を見せていた。今後、大きな問題がなければ、オケンド戦は早ければ7月14日にも仕切り直しで挙行される方向と伝えられている。

ジムメイトへの影響は?

昨年11月、初防衛戦前のヘリング。ナイスガイとしても知られる Photo By Mikey Williams/ Top Rank
昨年11月、初防衛戦前のヘリング。ナイスガイとしても知られる Photo By Mikey Williams/ Top Rank

 気になるのは、今戦に向けて、ヘリングはネブラスカでテレンス・クロフォード、ロブ・ブラント(ともにアメリカ)といったトップファイターたちと一緒にトレーニングを続けていたこと。もちろん濃厚接触していただけに、感染の広がりがないかが懸念されるところではあった。

 ESPNに出演した際のヘリングと解説者のコメントによると、ネブラスカのジムは感染者が発覚直後に一時閉鎖。ジムに出入りしていたものたちは検査を受け、結果が出るまでオープンしない方向だという。まだ全員の結果が返ってきたわけではないが、今のところは揃って陰性だと報道されている。

シリーズ開始以来、相次ぐ陽性反応

 トップランク/ESPNのシリーズ開始以降、コロナが原因でメイン、セミの試合が流れたのは9日のミカエラ・メイヤー(アメリカ)対ヘレン・ジョセフ(ナイジェリア)、18日のホセ・ペドラサ(プエルトリコ)対ミケル・レスピエール(アメリカ)に続いてのことだった。

 中でもペドラサ対レスピエール戦は、試合当日朝にレスピエールのマネージャーから陽性反応が出たためにキャンセル。当の選手たちは陰性だったが、トップランクとネバダ州アスレチック・コミッションのプロトコールに従った上での変更だった。こういった結果からは、パンデミック下でボクシング興行を行う難しさが示されているのだろう。

 現在のシステムでは、期日に向けて調整を進めても、何らかのアクシデントで試合が流れてしまう可能性は低くない。たとえ自身が原因ではなくても、戦わなければ選手は報酬がもらえず、経費も戻ってはこない。

 下積み、中堅の立場の選手はそんな条件でも試合を承諾するだろうが、高額報酬がほぼ約束されているトップファイターの中には、早期のリング登場を躊躇う選手も少なくないかもしれない。

それでもシステムは機能している?

 もっとも、選手、スタッフが各地から集まってくるというスポーツの性質上、陽性反応を示す選手が出るのは仕方ないと考えられていたのも事実ではある。完全にウイルスをシャットアウトするのは難しくとも、大切なのは早い段階で発見して広がりを食い止めること。その点でトップランクとESPNがラスベガスに作り上げた“バブル”では、検査を徹底し、陽性になった人物を隔離し、その後に方向性を決めるというシステム自体は確立されている。

 陽性反応者は出ても、拡大は防げているという意味で、トップランク、ネバダ州アスレチック・コミッション、ESPNが定めたプロトコールは効果を発揮していると考えることもできるのだろう。

 おかげで前述したヘリングだけではなく、ペドラサは7月2日、メイヤーも7月14日という早い段階で一度は流れた試合を再挙行予定という。そんな事実こそが、システムが機能していることを示しているのではないか。これらのプロセスと結果は、これから興行を再開する他のプロモーターたちが参考にできる材料だと言えるに違いない。

 まもなく6月は終わり、7月後半以降にはPBC、ゴールデンボーイ・プロモーションズも再開興行を予定している。ここまでマッチアップの弱さが指摘され、視聴率が低迷してきたトップランクも徐々に好カードを増やしていく。ボクシングが少しずつ本格化する中で、安全対策を可能な限り充実させ、業界全体が存在感を増していくことが今後の課題になっていくはずである。

Photo By Mikey Williams/Top Rank
Photo By Mikey Williams/Top Rank

7月に米国内で予定される主要カード(まだ未確定のものも含む)

7/2 ESPN

スーパーライト級10回戦

ホセ・ペドラサ(プエルトリコ)対ミケル・レスピエール(アメリカ)

7/7 ESPN

スーパーライト級10回戦

イワン・バランチク(ベラルーシ)対ホゼ・セペダ(アメリカ)

7/9 ESPN

ヘビー級10回戦

ジャーレル・ミラー(アメリカ)対ジェリー・フォレスト(アメリカ)

7/14 ESPN

WBO世界スーパーフェザー級タイトル戦

ジャメル・ヘリング(アメリカ)対ジョナサン・オケンド(プエルトリコ)

7/16 ESPN

カード未定

(予定されたエレイデル・アルバレス(コロンビア)対ジョー・スミス(アメリカ)は中止と報道)

7/18 SHO

カード未定

7/21 ESPN

スーパーフェザー級10回戦

オスカル・バルデス(メキシコ)対ジェイソン・ベレス(プエルトリコ)

7/24 DAZN

ウェルター級10回戦

バージル・オルティス(アメリカ)対サミュエル・バルガス(コロンビア)

7/25 FOX

WBA世界ウェルター級タイトル戦

トーマス・ドゥローメ(プエルトリコ)対ジャマール・ジェームズ(アメリカ)

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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