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空気が読める日本テレビと今も昭和のフジテレビ…10月改編から読み解くテレビの現在と未来

谷田彰吾放送作家
(写真:アフロ)

 差が開くのではないか…直感でそう思った。

 在京キー局の10月改編が出そろった。私は放送作家として15年以上テレビ業界で働いてきたが、今回の改編は特に「局の未来への方針」が色濃く表れたように感じる。時代に敏感な局とそうでない局が、ハッキリと分かれていたのだ。

 もはやテレビ局は安泰ではない。NetflixやAmazon Prime、YouTubeなどの台頭で、ユーザーの時間の奪い合いは熾烈を極めている。NHK放送文化研究所の調査では、10〜20代の約半数がテレビを見ないというデータも発表された。地方局はもちろん、在京キー局ですら淘汰されるかもしれない時代だ。今、何をするかで10年後が大きく変わる。そんな中、各局の改編の裏にどんな意図があるのか、「未来へつながる改編」をテーマに私が独断と偏見で考察していく。こんなことをすると各局からお叱りを受けそうだが、忖度なしに書かせてもらう。先に断っておくと、私は番組内容などを批判するつもりはないのであしからず。

■どこよりも謙虚だった王者・日本テレビ

 「さすが」と唸ってしまったのが、昨年度の個人視聴率3冠の日本テレビだ。今回の改編のコンセプトには、日本一のテレビ局とは思えない「危機感」が透けて見えた。

 「OFFからONへ、ONからFANへ」

 田中宏史編成部長が明かした意図はこうだ。「テレビを見ない方に刺激して、1人でも多くの方をONに、ONにして番組を見ていただいたらファンになっていただけるタイムテーブルを目指す」

 この発表がいかに勇気のいるものか。日テレは、テレビをつけるという昭和・平成では当たり前だった習慣そのものをリセットした。日本一のテレビ局が、だ。今やテレビを見ないという人は若年層のみならず増えている。テレビがついていないことを前提に、「どうしたらつけてもらえるか」という目線で改編したのだ。ライバルとなる動画サービスがひしめく今、フラットに自分たちの立ち位置を見つめ直した結果だろう。トップを走る局がここまで謙虚な姿勢を打ち出すとは…王者におごりはない。

 そんな日テレの改編で特徴的なのは、「できないことはやめる」という容赦のないアップデートだ。改編において、コロナ禍の影響は大きい。テレビ局の懐事情は厳しく、大物出演者にギャラを払う余裕はなくなってきた。さらには、ロケや収録体制にも制限がある。そこで日テレは、『有吉反省会』『おしゃれイズム』『アナザースカイ』『幸せ!ボンビーガール』『ウチのガヤがすみません!』などの人気番組を終了させた。視聴率的には打ち切りにならないような番組もあったが、スパッと切り替えた印象だ。

 そして、新たにスタートさせる番組には、フレッシュでコスパの良い出演者が並ぶ。『千鳥かまいたちアワー』(土曜23:30)、『超無敵クラス』(火曜午後23:59)でMCを担当するかまいたちは、トーク良し、ロケ良し、YouTubeの登録者数は100万人超、若者にも愛されていて、ギャラは大御所MCより割安。今、最もコスパの良い芸人ということだろう。

 また、『超無敵クラス』は10代の人気インフルエンサーを集め、気になったトピックをトークするバラエティ。インフルエンサーはSNSでパワーがある一方、テレビ出演のギャラはさほど高くない傾向にある。他局では見られない番組の一つであり、10代視聴者を「OFFからON」にさせる狙いと言えるだろう。

 他にも、「マルチプラットフォーム戦略推進の最大加速」というテーマも打ち出している。早くからHuluと連携したり、テレビ番組のネット同時配信にも取り組んできた日テレらしい。総合的に見て、テレビの将来を最も冷静に見つめている局と言える。

■ゴールデンの若返りをはかったテレビ朝日

 若返りの兆しが見えたのがテレビ朝日だ。改編のコンセプトは、「ファミリー層を中心に全年齢層に対応したタイムテーブルを目指す」。正直、漠然としていてわかりづらいが、それはさておき、テレ朝の課題だった若年層対策の狙いが新番組のキャスティングから見て取れる。

 まず主な終了番組と新番組を見てみよう。『日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館』が終了。新番組は、かまいたちと元乃木坂46の白石麻衣がMCを担当する『ウラ撮れちゃいました』(木曜19:00)が放送される。また、ネプチューンがMCの『あいつ今何してる?』もレギュラー放送終了。新番組はテレ朝の看板アナ・弘中綾香と千鳥・ノブの冠番組『ノブナカなんなん?』(水曜19:00)となる。

 テレ朝は近年、視聴率競争で王者・日テレの牙城を崩そうと、ゴールデンタイムに50代以上をターゲットにした番組を数多く放送してきた。その年齢層はテレビを習慣的に見てくれるため、視聴率に反映しやすいからだ。しかし、昨年から視聴率の測定方法が変わり、スポンサー受けの良い10〜40代に見てもらえる番組が重要になった。そこで、番組の顔となるMCの若返りに踏み切ったのだろう。

 中でも『ノブナカなんなん?』のゴールデン昇格は大胆な編成だ。弘中アナは今やオリコンの好きなアナウンサーランキングでトップを獲得した女性アナウンサーの代表格。とはいえ、局アナにゴールデンの冠番組を任せるのは近年にないのではないか(冠番組ではないがTBS安住紳一郎アナの『ぴったんこカン・カン』ぐらいか)。そこには若返り以外にもメリットもある。日テレの考察でも触れたが、コロナ禍で制作費が下がっていく中、ギャラのかからない局アナがMCを務めるのは大きい。

 一方でテレ朝が特徴的なのは、大物ベテラン芸人の番組をあえて深めの時間に編成していることだ。有吉弘行が一人の解答者としてクイズ対決に挑む『有吉クイズ』(月曜深夜0:15)がレギュラー化。くりぃむしちゅーの新番組『くりぃむナンタラ』(日曜21:55)、ネプチューン堀内健の新番組『ホリケンのみんなともだち』(火曜深夜1:56)もスタートする。一部、番組が終了したMCに対する配慮もあるだろうが、ゴールデンMCクラスの芸人に対する「好きにおもしろいことをやってください」という意思表示でもある。彼らにとっても深めの時間で自由に番組をやれるのは楽しいはずだ。同世代の視聴者も、この時間ならリアルタイムでじっくりと見ることもできる。この辺りが「全年齢層に対応したタイムテーブル」の一端かもしれない。

 改編ではないが、看板番組の『報道ステーション』もリニューアル。月曜〜木曜のメインキャスターに、元NHKの大越健介が就任する。総合的に見て、それなりにアクティブな改編となった。『アメトーーク 』がサブスクの新サービスを始めたり、ABEMA TVとの柔軟な連携を見せるなど、テレビをアップデートしているテレビ朝日。今後もより意欲的な編成を期待したい。

■正直ネタ不足?……のTBS

 TBSのコンセプトは、「“朝の大改編”と“金曜日の強化”」。どこよりも具体的だが、どこよりも目の前しか見えていない印象を受けてしまう。実際にどう変わるのか見ていこう。

 目玉はなんと言っても安住紳一郎アナ総合司会の朝の情報番組『THE TIME,』(月~金曜5:20)。月~木曜日を安住アナが、金曜日を俳優の香川照之さんが担当する。朝帯で苦戦が続いているTBSがついに切り札を投入し、他局に勝負を挑む。4月改編の『ラヴィット』(月~金曜8:00)に続き、朝を改編してきた。

 だが、これ以外にトピックが無い…というのが正直な感想だ。ゴールデン帯では安住アナが出演した人気番組『ぴったんこカン・カン』を終了させ、笑福亭鶴瓶と今田耕司がMCを務める『ザ・ベストワン』(金曜20:00)をレギュラー化。今一番見たいベストな芸人たちがベストワンのネタを披露するバラエティだ。大型特番並みの豪華なMCではあるが、あまり新鮮味を感じないのは私だけだろうか。

 全体的にアップデート感の薄い改編に感じられたTBS。攻めた番組をいくつも放送してきた局だけに、今後は停滞気味のテレビ界に一石を投じるような編成を期待する。

■固定概念を捨て新たなビジネスに挑むテレビ東京

 視聴率では最下位だが、将来へのアクションが興味深いのがテレビ東京だ。改編のコンセプトは、「テレビでもスマホでも『観ればハマる』テレ東式」。ネット配信の時代に合った「選んで観たくなるコンテンツ」を開発するという。テレビはテレビで見るものという固定概念を捨てる姿勢は素晴らしい。時代に合わせた感覚は、日テレと通じるものを感じる。

 具体的な改編としては、『モヤモヤさまぁ〜ず2』が土曜23時に移動し、早朝版の『あさモヤさまぁ〜ず2』(土曜5:30)がスタート。さらには、『有吉の世界同時中継~今、そっちってどうなってますか?~』(木曜19:58)のレギュラー化が話題になっている。

 そんな中、私が最も注目しているのは『~夢のオーディションバラエティー~ Dreamer Z』(日曜21:00)だ。オーディション番組はテレ東の御家芸。90年代後半に『ASAYAN』から誕生したモーニング娘。が一世を風靡した。しかもMCは、テレ東では初となる木梨憲武。近年ありがちな"置きにいったバラエティ”にはならない予感がする。

 オーディション番組には、視聴率以外の狙いがある。かつてのモーニング娘。、現在のNiziU(日本テレビ発)のように、テレビ局から生まれたスターはビジネスになる。サブスクの動画プラットフォームに番組を作れば課金も期待できる。テレ東はサブスク後発組なだけに、当たれば強化の目玉になる。広告以外の収入源の確立は、今のテレビ局にとって必須課題だ。地上波の影響力を利用して新しいコンテンツビジネスを仕掛ける。それこそが、テレビ局にとって必要な挑戦だと私は思う。NiziUの成功以来、各局が様々なオーディション番組を仕掛けているが、ゴールデンに持ってきたテレ東。そのチャレンジ精神を買いたい。

 余談だが、テレビ東京では現在、早朝の停波帯に10分間の映像作品『蓋』(全5話)を放送している。Netflixなどでも配信されている『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を手がけた上出遼平ディレクターが演出を務めており、言葉では言い表せない独特な内容が話題だ。このような実験的な編成もテレビ東京の良さだろう。

■思わず「昭和かよ!」とツッコミたくなるフジテレビ

 最後はかつての王者・フジテレビだ。昨年度の個人視聴率は在京キー局の中で4位と低迷しているが、10〜40代に刺さる番組が増えてきた。そんな中、今回の改編コンセプトがこれだ。

 「家族そろってフジテレビ ~DEEPなテレビ体験を!~」

 皆さんはどう感じるだろうか? 個人的には失礼ながら、「昭和かよ!」と思ってしまった。中村百合子編成部長はその意図を「テレビは個で見る時代と言われる今だからこそ家族そろってフジテレビを見ていただきたい」と語った。そう願いたいのはわかる。理想はそうだろう。だが、今は家族がそれぞれスマホを持ち、それぞれが好きなコンテンツを楽しむ時代だ。それをわかった上での発言だろうが、残念ながら説得力は「?」と言わざるをえない。

 改編の目玉は、金曜20時に放送中の『新しいカギ』の土曜20時への枠移動だ。今をときめくチョコレートプラネット、霜降り明星、ハナコらが出演し、コントやトーク・ゲームを繰り広げる総合バラエティ。いわば令和版の『めちゃイケ』や『はねるのトびら』を目指していく期待の番組だ。

 フジテレビにとって土曜20時は特別な枠だ。中村部長いわく「土曜20時はこれまで『オレたちひょうきん族』『めちゃイケ』というフジテレビの中で大ヒットした番組はすべてこの土曜から生まれているという、ブランドのある枠」。ここに『新しいカギ』を持ってきて令和の伝説を作りたいということだ。しかも、現在土曜20時に放送中の『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』を19時に移動し、21時からの2時間特番枠もお笑い番組に。さらに23時10分からの『さんまのお笑い向上委員会』も合わせて「笑いの土曜日!」としてブランディングするという。

 「楽しくなければテレビじゃない」の精神を持つフジテレビにとって、『ひょうきん族』はもはやプライドなのだろう。だが、若い視聴者にとっては遥か昔の知らない番組だ。それを引き合いに出されても…と思ってしまう。

 また、中村部長は「学校で話題になる、そこから社会現象になっていくという形で、『これを見ないと話題についていけない』となるように成長させたい」と語った。この発言にも、つい「昭和かよ!」というツッコミがよぎってしまった。もちろん今でも口コミは強い。実際に学校でそんな会話もあるだろうし、そうありたいのはわかる。だが、なんというか…今っぽくない。まさに昭和のテレビマンがしていたような話だし、一時的かもしれないがリモート授業など特殊な事情もあるこのご時世にマッチしているとは言い難い。

 フジテレビは、かつて自分たちが作り上げた理想のテレビ像から抜け出せていないように感じる。過去の残像ではなく、今の試聴スタイルの中でどう戦うかを示しても良かったのではないか。「テレビをOFFからONへ」と掲げた日テレと比べると、どうしても空気が読めていないように思えてならない。救いは日曜23時15分放送の超人気アニメ『鬼滅の刃』か。また、前述の『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』など、若年層に人気の番組が芽吹き始めている。私もフジテレビを見て育ち、業界に入った頃は憧れた局だ。復活を期待したい。

 各局の関係者の方々には失礼なことも書いてしまったと思うが、これが素直な感想だった。10年後、コンテンツビジネスはもっと激変していることだろう。ひょっとしたら「まだYouTubeなんか見てるの?」と話しているかもしれない。その時、テレビはどんなポジションにいるのか。エンタメ企業としてどう成長すべきか、考えなければならない時代に突入した。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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