京都市民に愛されてきた文化拠点《立誠小学校》のフィナーレに惜しむ声

木屋町通から高瀬川を渡って入る玄関ポーチ

 京都一の繁華街、三条通と四条通の中間くらいの木屋町通沿に古い学校がある。正確に言えば「あった」。1869年に開校し、1928年に現在の場所に移転、93年3月までは普通に子供達が通っていた「京都市立立誠小学校」。夜ともなれば学生やお勤め帰りの社会人から観光客までが飲みに繰り出す賑やかなこの歓楽エリアで、今なおひときわ異彩を放っている重厚で洒脱な廃校校舎だ。

フィナーレを楽しむイベント《RISSEI PROM PARTY》のポスター
フィナーレを楽しむイベント《RISSEI PROM PARTY》のポスター

廃校後にレトロ建築として人気名所に

 この立誠小がにわかに話題になり始めたのは、むしろ小学校としての役目を終えてからのこと。ロマネスク様式をとりいれたその校舎は、高瀬川を渡って入る入り口のポーチ部分から、板張りの教室の柱、高い天井の階段の手すりに至るまで、実に丁寧な作りが施されており、秀逸なレトロ建築物として若い世代からじわじわと見直されるようになっていった。戦災をほとんど受けていない京都市内にはこうした古い建造物が今もいくつか現存している。だが、わけても立誠小に対しては、町のど真ん中にあるからこそ意味がある、春には桜が咲きほこり柳の大木も並ぶ高瀬川の風流な情緒に合っている、これこそ京都本来のモダニズムを象徴する建物ではないか…といった意見が少なくない。そこで、京都市の行政協力を得て、校舎をそのまま残していく目的で《立誠・文化のまち運営委員会》が2010年に発足した。

教室や廊下の風合いもやわらかい
教室や廊下の風合いもやわらかい

演劇空間、映画上映スペース、音楽イベント、フリマ、カフェとして有効活用

 そこから、あくまで町中の文化事業の一環としてフリーマーケットやイベントなどに貸し出される機会が増えていく。とりわけ、アンティークな風合いの講堂は、京都のバンド、キツネの嫁入りが音楽イベント《スキマアワー》を開催したり、東京や他のエリアからも人気アーティストがライヴを行いにやってくるなど京都の音楽ファンにはすっかりお馴染みの場所に。加えて、2013年には、教室をそのまま生かしたしつらえとこだわりの上映ラインナップで人気を集めることとなる《立誠シネマ》が校舎3階に誕生。さらには1階正面のカフェ《TRAVELING COFFEE》もオープンし、人の流れが活発になっていった。これらの企画、出店を名乗り出る人の多くが京都に暮らす若い世代であることも嬉しい、と、運営委員の一人である岡見弘道氏は言う。岡見氏の本業は立誠小の近くのお寺の住職だが、自身もお子さんも立誠小出身であることからとりわけ存続への思いが強い。飲食店が軒を連ねる木屋町界隈に文化ゾーンとしての側面も持たせていくべく、近隣や周辺自治体への理解を粘り強く呼びかけてきた。その結果、このプロジェクトは次第に認識され、京都のガイドブックなどにカルチャー名所として掲載される機会もグンと増えたのである。

 しかしながら、そんな現行の“立誠小プロジェクト”もいったんのフィナーレを迎えることとなった。不動産デベロッパーの株式会社ヒューリックの資本参入によってホテルとして再開発されることとなり、長らく愛されてきた講堂やプール、校舎の一部が解体されることになったためである。

中古レコード店などが多数出店
中古レコード店などが多数出店

まるで本当の文化祭のような活気あふれる3日間

 このままの状態での改修、存続を願ってきた多くのファンたちの手も借り10月7日~9日の3日間連続で開催された《RISSEI PROM PARTY》は、まさに文化祭さながらの盛り上がりを見せた。京都を中心に関西の中古レコード店、古書店、雑貨店、飲食店などがまさに模擬店のように多数参加した他、ワークショップや展示、マッサージ・コーナーも展開。連休とあって遠方から旅行がてらに訪れた方々も含め、連日、教室の一つ一つを見て回るお客さんで溢れかえった。大企業の資本参入のないハンドメイドな雰囲気を楽しんだ年配客もいれば、両手に抱えきれないほどのレコード袋を抱えて満足げに帰っていく若い音楽ファンもいる。そうした来場者たちが揃って口にするのは、解体を惜しむ声だ。「宿泊施設になってしまうなんて」「日本映画原点の地でもあるし文化拠点として続けてほしい」。

文化祭さながらの模擬店
文化祭さながらの模擬店

山下敦弘監督、くるり岸田繁らもフィナーレを惜しんで登壇

 親しまれた講堂では、バレーボウイズやshe saidといった京都のインディー・バンドらによるライヴやDJの他、《立誠シネマ》の最後として『リンダ リンダ リンダ』『シング・ストリート 未来へのうた』を上映。『リンダ リンダ リンダ』上映後には山下敦弘監督と《立誠シネマ》支配人・田中誠一氏が登壇し作品への思いをざっくばらんにトーク、劇中エンディングで流れるブルー・ハーツの「終わらない歌」そのままに、“立誠小プロジェクト”がこれで終わるわけではないことも強く印象づけた。そして最終日、9月に《京都音楽博覧会 2017》も成功させたばかりのくるりの岸田繁がトークで登場。子供の頃に京都の町中で映画を多く見たエピソードや映画音楽を手がけた時の裏話などを話した後、新曲も交えた弾き語りライヴを披露して3日間のイベントは幕を降ろした。

人気だった講堂では最終日にくるりの岸田繁のライヴも
人気だった講堂では最終日にくるりの岸田繁のライヴも

ホテル建設ラッシュに一矢報いたい

 建物はザ・ゲートホテル立誠京都(仮称)として2020年に開業予定。京都市歴史的建造物認定を目指していることもあり、正面玄関のポーチを含む高瀬川側の校舎は改修された末に残される見込みで、新たに併設されるホールや図書館などいくつかの企画運営には《立誠・文化のまち運営委員会》が継続して関わっていくという。また、地元の地域コミュニティ活動の場として一定のスペースは確保される予定であり、一方《立誠シネマ》は京都市上京区の商店街にて《出町座》として再出発(時期は未定)。《TRAVELING COFFEE》は休業することなく同地で続けられる。「やれる限りのことは続けていきたい」。運営委員会・岡見氏は力強い言葉を残して会場を後にした。

ありがとう、立誠小学校 HP