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松田浩新監督が率いるガンバ大阪は何が変わるのか。初陣で注目したい3つのポイント

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
片野坂体制では出番の少なかったレアンドロ・ペレイラ。新体制で輝けるか(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 「強いガンバを取り戻す」はずだった片野坂体制は8月17日、ピリオドが打たれた。ガンバ大阪が新たに選んだ指揮官は、コーチとして既に入閣していた松田浩新監督である。14日の清水エスパルス戦で敗れ、暫定順位ではあるものの降格圏内の17位からの立て直しを目指す松田監督だが、19日に行われた初めてのオンライン取材では40分にわたって、チームの課題や目指す方向性について熱弁を振るった。

初陣となる20日のサンフレッチェ広島戦では少なくとも3つのポイントに変化が見られるはずだ。

フォーメーションは4バックの採用が濃厚に

 試合前日のオンライン取材に応じた東口順昭は、非公開で練習が行われているだけに新監督が目指すスタイルについて、慎重に言葉を選び、多くを語ろうとはしなかったが、はっきりとこう言い切った。

 「ガラッと変わると思います。やり方もそうですし、進めて行き方というところも、どこまで言っていいのか分からないですけど、変わることは確かだと思います」

 最近の試合では3-4-3を基本布陣に戦ってきたガンバ大阪だが、目に見えて分かる最大の変化は用いるフォーメーションであろう。

 「前監督からの流れもありますし、そういうところも考慮に入れたい」と松田監督は話したが、「僕は3-4-3のシステムはあまり使う方じゃない」と言う言葉からも分かるように、松田監督がヴィッセル神戸や栃木SCでも用いてきた4-4-2の採用が濃厚とみる。

 シーズン序盤は4バックも併用し、比較的柔軟にフォーメーションを選択してきた片野坂前監督だったが、痛恨のドローに終わった京都サンガ戦では鈴木武蔵が不在にもかかわらず、1トップ向きではない食野亮太郎を配置したり、清水エスパルス戦では本職の韓国代表CB、クォン・ギョンウォンのコンディションに大きな問題がなかったにも関わらず、3バックの一角に藤春廣輝を起用。決して選手を適正ポジションで活かしているとは言い難いのが現状だった。

 4-4-2のフォーメーションに加えて、松田監督のカラーとして知られるのがゾーンディフェンスの採用である。相手の立ち位置を重視し、前線からハメにかかるのが片野坂前監督のスタイルだったが、ゾーンディフェンスで肝となるのは味方の動きに連動して守備組織の立ち位置が決まること。

 試合前日はセットプレー対策に時間が割かれたため、実質2日間のトレーニングで就任初戦に挑む松田監督だが「以前に比べると、育成年代で私がそういう趣向するサッカーなことは、経験してきている選手が多いので、比較的落とし込みは早く進んでいくという風に感じているし、戦術的な理解度の高い選手が揃っていれば、そんなに時間をかけずに、やっていくことができるのかなという感覚はあります」と自信を口にした。

プレー面でもメンタル面でもタフな11人がスタメンに名を連ねるはず

 もちろん、変わるのはフォーメーションだけではなさそうだ。

 J1リーグでの指揮は2008年以来、14年ぶりとなる松田監督だが、J1リーグのトレンドが当時と異なることは理解済みである。

 「J1だからJ2だからというよりは、サッカー自体が非常にインテンシティ(プレー強度)が上がっているというのが一番強い印象。選手自体もアスリート化しているというかそういう部分を感じる」(松田監督)。

 清水エスパルス戦では高卒ルーキーの坂本一彩が最前線で懸命にボールを収め、本来ならば攻撃へのギアを一気に上げるべき場面で、前線に絡んで来る選手の迫力も人数も少なく、結局バックパスでチャンスを潰すことも珍しくなかった。

 アスリート的な部分が一番チームに欠けている部分かもしれない、と清水エスパルス戦をコーチの立場で見た松田監督は語ったが、「攻撃は守備よりももっと、無駄走りがあったりだとか、囮の動きがあったりだとか、素早いサポートがあったりだとか、追い越していく動きがあったりとか、そういうところでものすごくエネルギーが必要なところだと思う」とも指摘した。

 攻守両面でダイナミックに動ける11人が、サンフレッチェ広島戦ではキックオフの笛を聞くことになりそうだ。とりわけ注目は、現状のチームで最も手薄なポジションであるボランチの組み合わせ。アスリート的な要素としては申し分のないブラジル人のダワンはファーストチョイスになりそうだが、その相方のチョイスは注目だ。

 ガンバ大阪も過去、苦い目に遭ってきたブラジル人FWのクリスティアーノ(現V・ファーレン長崎)が栃木SCでプレーしていた当時、ボランチでも起用した試合がある松田監督だけに、意外な抜擢があるかもしれない。

燻っているブラジル人FWの有効活用にも期待

 人材の再評価も、松田監督に課せられた喫緊のミッションである。結果的に得点力不足で苦しい試合展開が続き、残留争いのライバルにも勝ちきれなかった片野坂前監督ではあるが、最大のミスは守備のタスクにこだわるが故に、ブラジル人アタッカーたちを有効活用出来なかったことではないか。

 「自分なりの基準があるし、それを選手に求めている。その基準を満たすかどうかで試合に出る、出ないを判断したい」と頑なに言い続けた片野坂体制で、レアンドロ・ペレイラやウェリントン・シウバは出番が激減。0対4で惨敗した7月9日のアウェイ、川崎フロンターレ戦では2種登録のガンバ大阪ユース、南野遥海を先発で起用した一方で、レアンドロやウェリントンはメンバー外。南野は将来を嘱望される好素材ではあるが、フィジカル面を含めてJ1リーグで、しかも川崎フロンターレ相手に起用するのは、あまりにも酷だった。

 残留争いに巻き込まれるチームにありがちな、守備組織が崩壊している状態ではないガンバ大阪。残り10試合で不可欠なのは、手堅く勝点を積み上げていく戦いではあるが、松田監督は「タレントがいると思いますので、彼らが一つの絵を描いてやるようになれば、得点も増えると思っています」と攻撃活性化への自信も口にした。

 松田監督が過去に率いたチームで、FWに求めていた守備は最終ラインと中盤の計8人で構成するブロックに安易にボールを入れさせない守備。守備に多少、難があるFWだったとしても、最低限、相手のペナルティエリアの横幅を動き、サイドにボールを追いやればOKなのである。

 片野坂体制では出番のなかったブラジル人FWも、活かせるのではーー。

 松田監督にこんな質問を投げかけると、予想通りの答えが返ってきた。

 「彼らもハードワークが報われるような形の守備の仕組みとか、この範囲だけでいいからやってくれだとか、タスクみたいなものをしっかり与えていけば、最終的には良い形でボールを取れて自分たちが得点する機会が多くなるというようなロジックで説明をしていけば、やっぱり自分が最初に(攻撃での)得をするってことがあると、それをやろうっていう気持ちにはなる」

 ムラっ気はあるものの、全く守備をしない訳ではないレアンドロや、献身的にボールは追うウェリントン、全盛時の推進力は失われたものの依然、クロスに対しては絶対的な強みを持つパトリックらは、それぞれがウイークポイントと同時に、ストロングポイントも持っている。

 筑波大学時代にブラジルに一年間の留学経験を持つ指揮官は、ポルトガル語で意思疎通できるのも強みである。

 鈴木武蔵や食野亮太郎、ファン・アラーノらも含めれば、過去に松田監督が率いたチームの中で、攻撃陣には最も豪華な選択肢があるはずだ。

 「サッカーをやる上でどの辺がストロングか、ウイークかは既存のコーチなどの情報も得て随分、分かってきたところはある。その中で、どういう組み合わせがいいかはどんどんチャレンジして模索して行きたい」

 奇しくも松田監督の就任初戦は、現役時代の古巣。いかなる変化が見られるのか。その答えはピッチの中にある。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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