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ペップ・グアルディオラに「野心を持て」と言われた男。食野亮太郎が今、ガンバ大阪で目指す「野心」とは

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
背番号はガンバ大阪デビュー当時と同じ40番(筆者撮影)

 片野坂知宏監督の就任で、躍進が期待されながらも低空飛行が続くガンバ大阪。低調なアタッカー陣へのテコ入れとして鈴木武蔵とともに獲得された食野亮太郎が7月16日に行われるJ1リーグのセレッソ大阪戦から出場が可能になる。3年ぶりにJリーグに復帰した東京五輪世代のアタッカーは「僕の愛するガンバ大阪」(食野)で再起を期す。

3年前、グアルディオラ監督からかけられた言葉は「常に野心を持て、それが大事だ」。

 J1リーグでブレークの兆しがあった3年前の8月、食野がマンチェスター・シティとの契約書にサインをかわしたのは移籍ウインドーが閉まるイギリス時間の8日17時のわずか6分前のこと。文字通り、駆け込みによる電撃移籍だったのだ。

 マンチェスター・シティを率いるペップ・グアルディオラ監督から「常に野心を持て、それが大事だ」と言葉をかけられた大阪育ちの若者は、スコティッシュ・プレミアシップのハート・オブ・ミドロシアンやポルトガルのリオ・アヴェ、エストリル・プライアを転々としたものの、欧州では確かな爪痕を残せなかった。

 7月12日、やはり3年前に移籍会見を行ったパナソニックスタジアム吹田の記者会見室で、復帰会見に臨んだ食野は言葉の端々に敬語を交え、その内面の成長を感じさせたが「やっぱり一番自分の中で持っているのはこの3年間、海外で挑戦して、凄く悔しい気持ちを持ってこのガンバ大阪に帰ってきたということで、この悔しい気持ちをガンバ大阪のために、という原動力にしてガンバ大阪のためにしっかり戦いたいと思っています」と冒頭で話した。

 「なかなか活躍できずに、こういう形で戻るのは正直悔しい気持ちもありますし、情けなさもある」。

 ガンバ大阪のジュニアユース時代から同期である堂安律(SCフライブルク)と切磋琢磨し、ライバル心も持ち合わせてきた食野にとって悔しい「出戻り」であるのは間違いない。堂安は欧州でステップアップを果たし、東京五輪にも出場。日本代表の一員としてワールドカップカタール大会も現実的な目標に掲げているのだ。

3年前、欧州での成功に燃えていた食野は愛する古巣で新たな野心を抱く(筆者撮影)
3年前、欧州での成功に燃えていた食野は愛する古巣で新たな野心を抱く(筆者撮影)

鈴木武蔵とのコンビで期待されるのは8年前の巻き返しの再現だ

 ただ、欧州で噛み締めた悔しさやもどかしさは、サッカー選手にとって決して無駄ではないことも事実である。食野の先輩にあたる宇佐美貴史も、十代で挑戦したバイエルン・ミュンヘンで壁にぶち当たり、2013年6月に当時、J2リーグを戦っていたガンバ大阪に復帰。一年でのJ1リーグ昇格に貢献し、2014年にはチームを三冠に導いている。

 降格圏内からJリーグ史に残る逆転優勝を果たした足取りを知る東口順昭も、鈴木と食野には、パトリックと宇佐美の「剛柔コンビ」の再現を期待する一人である。

 「なかなか、歯車が合わへん時に2014年なんかは、パト(パトリック)が入ってきて合致した過去もあるし、そういうところが2人にはかぶるところがあるので、僕自身も期待している。ゴールに向かって行ける選手だと思うのでそこは凄く期待してますね」(東口)。

 スピードと強さを持つ鈴木に対して、食野は局面の打開力とパンチの効いたシュートが持ち味だが、二人には早期の安定稼働が期待されるところである。

 レアンドロ・ペレイラとウェリントン・シウバが守備戦術への適応の問題などもあってベンチにさえ入れていない状態だが、食野は指揮官が求める基準を既に理解済みだと言う。

日本代表入りとガンバ大阪での優勝が、食野にとっての新たな野心

 「僕はカタ(片野坂)さんのインタビューも読ませてもらったりしていて、やっぱり攻守に強度が必要な、そういうところを求めているのかなと思うし、それは今のサッカーのトレンドでもあると思う。向こうでも守備の強度であったり走る量とか質だったりはずっと言われてきたところなので、自分なりにもそこは成長している部分ではあると思うので、カタさんが求める攻守にアグレッシブな強度をまずは体現できるようにしっかりと、やって行きたいなとは思います」

 そして、かつてグアルディオラ監督に言われた「野心」の大切さを食野は決して、忘れてはいない。欧州での成功を目指した生粋の大阪っ子が今、抱く野心を聞いてみた。

 「今回オファーを頂いた時に強化部の方から『もう一回ガンバから代表選手が出て欲しい』と言われているので。僕としてもA代表は目指したいところですし、やっぱりガンバ大阪に一つ星(優勝)を、一つといわずタイトルを加えるというところが最大の野心ではある。そうですね、タイトルを取りたいですね」

 アカデミー育ちで、欧州でパワーアップした体にクラブ愛が満ちる24歳は、大阪ダービーでの再デビューを待ち侘びている。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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