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ガンバ大阪の復権なるか。進化した「カタノサッカー」で土台作りの一年に

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
写真提供・ガンバ大阪

 ガンバ大阪が今季から一新した胸元のエンブレムの上に輝くのは9つの星。国内では鹿島アントラーズに次ぐ、タイトルホルダーである西の名門だが、史上2クラブ目となる十冠を前に、もう6年連続でタイトルを手にしていないのだ。

 盛者必衰の理、とは言ったものである。Jリーグでも最強を誇ったタレント集団が、その後没落した例は決して珍しくはないが、ガンバ大阪もまた、クラブとしての岐路に立っている。

 攻撃サッカーの雄としてJリーグを席巻したかつての威光を取り戻すのか、それとも無冠の日々に甘んじるのかーー。

 クラブが選んだ道は、確かな手腕を持つ指揮官とともに、常勝軍団の再建を図るというものだ。

 1月8日にオンラインで行われた新体制会見で、新たに就任した片野坂知宏監督は「ガンバ大阪で監督をするにあたり、私に対する使命というのは、また強いガンバ大阪を取り戻すことだと思います」と力強く言い切った。

 「強いガンバ大阪」という言葉が説得力を持つのは、指揮官の履歴書を見れば明らかだ。ガンバ大阪が得た9つのタイトルのうち、コーチとして関わったのは実に8つ。攻撃的なスタイルを確立した西野朗元監督のもとでコーチを務め、手堅い守備で勝負強さを植え付けた長谷川健太元監督をヘッドコーチとして支えたのが片野坂監督だった。

 6年間指揮を執った大分トリニータは昨季、無念のJ2降格を余儀なくされたものの、天皇杯では川崎フロンターレを破り、決勝に進出。優勝こそ逃したものの、片野坂監督の名前をもじった独特のスタイル「カタノサッカー」は、高い評価を集めている。

 ガンバ大阪が今回、クラブのOBでもある片野坂監督を招聘したのは、目先の結果だけを求めるのではなく、中長期的な視野に立った攻撃的なチーム作りを求めたからだ。

 中口雅史・強化アカデミー部強化部長は言う。「チームとしてもう一回、アジアチャンピオンズリーグ圏内(3位以内)は目指したいという思いはありますが、まずはしっかりとした土台作りをお願いしている部分もある」。

 新体制会見で口にしたJリーグでの3位以内という目標も「昨年の13位からのスタート。優勝を全く狙っていないわけではないですが、現実的なところからまず3位以内のアジアチャンピオンズリーグは十分に狙えるクラブで、戦力的にも整えていただいた」という現実的な思い故である。

 「よりパワーアップしたガンバ大阪と言うか、パワーアップしたカタノサッカーというか、そういうものをお見せできるようにしていきたい」(片野坂監督)。

 選手の顔ぶれを見れば、決して上位陣にも引けを取らないガンバ大阪だけに、大分トリニータ時代のスタイルをそのまま踏襲するつもりはない。

 新体制会見の場で、戦術ありきではない方針を片野坂監督はこう明かした。「今は正直なところ、まだ3バックか4バックかは決めていないですね、何故かというと、選手の特徴を把握しないといけないし、3バックをするならばどういう選手が合うのか、4バックならどういう選手が合うのかを見極めることが大事」。

 しかし、現在、沖縄で行われているキャンプでは徐々に、新たなスタイルの輪郭が見え始めている。オミクロン株の感染拡大による外国人の入国制限で、新戦力のブラジル人MFと韓国人CBが未だに合流出来ていないが、片野坂監督が基本軸に据えるのは、やはり大分トリニータ時代に用いた3バックの採用である。

 「今は僕自身も慣れていて、大分でもやってきた3バックというところで選手に大枠を提示しながらやるようにしています」。

 システム論が好まれがちな日本ではあるが、片野坂監督が重視するのは「システムうんぬんの前に、守備でも攻撃でも(DFラインが)3枚でも4枚でも、どういう風にプレーするかを選手が共有し、それに対して理解した中で統一してパワーを出してやることがすごく大事」。

 天皇杯ではJリーグ王者の川崎フロンターレの良さを消すべく4バックを採用し、見事番狂わせを果たした指揮官は、ガンバ大阪でも一つの布陣に固執するつもりは決して、ない。

 ビッグネームを獲得したわけではないが、各ポジションに効果的な補強も施した今季のガンバ大阪において、やはり一番の「補強」は新監督の存在だろう。

 即戦力として期待される東京五輪世代の齊藤未月も「カタノサッカー」に惹かれ、期限付き移籍ではあるが、ガンバ大阪でのプレーを選択した一人である。

 湘南ベルマーレからロシア1部のルビン・カザンに期限付き移籍していた齊藤だが、「僕自身、日本に帰って来るにあたって、スタイルであったり、サッカーのベースを持ったりしているチームに行きたいと言う気持ちが強くて、カタ(片野坂)さんが大分であそこまでのサッカーをされていたのは、Jリーグの中でも皆が認知していましたし、僕も学べることが多いんじゃないかなと思いました」と明かした。

 確固たる指針を持つ指揮官と、タレント集団の融合は始まったばかり。新たな「カタノサッカー」は2月5日に京都府亀岡市のサンガスタジアムで行われる京都サンガとのプレシーズンマッチがお披露目の場となる。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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