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まだ間に合う自由研究 100均グッズを使って地層や液状化をおうちで実験

芝原暁彦古生物学者/福井県立大学 客員教授
100均のパスタケースでも地層は作れる

 お盆を過ぎ、8月も後半に差し掛かりました。今年の夏は天候が不安定で外出できず、インドアで夏休みを過ごしている方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、家の中でできる地学実験を4つ紹介していきたいと思います。実験道具を仕入れるのは、100円ショップです。さっそく自宅の近所にある100円ショップで写真のものを購入してきました。

地学実験に使う機材
地学実験に使う機材

左から

・A4サイズの書類トレー(水が漏れないもの)

・パスタケース(透明な円筒形で蓋ができるもの)

・じょうろ

・紙粘土(黄・赤・青)

さらに2種類の砂を使います。

・粒が細かくて白い砂(下の写真左)

・粒が少し大きくて色がついている砂(下の写真右)

実験に使う二種類の砂(写真の幅は約15cm)
実験に使う二種類の砂(写真の幅は約15cm)

粒が少し大きくて色がついている砂(水槽用)
粒が少し大きくて色がついている砂(水槽用)

これらは魚を飼育する水槽の底に敷くためのもので、どちらも100円ショップのペットコーナーに置かれています。残念ながら白くて細かい砂は売り切れだったため、粗くて色がついている砂だけを購入し、白い砂は自宅にあるものを使用しました。この白い砂はホームセンターやペットショップなどでも購入できます*。

2種類の砂を混ぜたものが下の写真です。

大きさの違う2種類の砂を混ぜた状態
大きさの違う2種類の砂を混ぜた状態

実験1.地層を作ってみる

それでは実験していきましょう。100円ショップのパスタケースに水道水を入れ、そこに先ほどの混ぜた砂を沈めます(素早く入れた方がうまくいきます。大きめのスプーンやオタマなどで一気に放り込みましょう)。

うまくいけば、この動画のようになるはずです。粒が大きい砂の方が先に沈み、細かい砂は長い間水中を漂いながら少しずつ落ちていきます。これは「ストークスの法則」という現象で、簡単に言うと液体の中で粒が落ちていくとき、粒が大きいものほど早く沈むという法則です。これを4~5回繰り替えすと、下の動画のような状態になります。パスタケースの底に砂がたまってきました。

パスタケースを横から観察すると、やや右下に傾いた横縞が見えるのではないでしょうか?水中で粒の大きさがふるい分けられ、順番に積み重なることでこの縞々模様が作らました。これこそが地層ができる仕組みなのです。

砂をパスタケースに5回投入し、できた地層を横から観察した様子
砂をパスタケースに5回投入し、できた地層を横から観察した様子

砂を5回投入したため、5枚の地層が出来ています。さらによく観察すると、それぞれ地層ごとに、下から上に向かって粗い砂から細かい砂へとグラデーションができています。使った砂は二種類ですが、その中にも荒いものと細かいものがあるため、水中でふるい分けられたと考えられます。

同じように、山や川で削られた大量の砂や泥が水中で繰り返したまって、地層を作ることがあります。写真の砂岩泥岩互層などもその一種です。

砂岩泥岩互層(「絵で見る地球科学」地質調査総合センター公式サイトより)
砂岩泥岩互層(「絵で見る地球科学」地質調査総合センター公式サイトより)

*白くて細かい砂であればOKです。ただし100円ショップの園芸コーナーなどで売られている「苦土石灰(くどせっかい)」などの砂は素手で触るのには適していないため、使わないようにしてください(畑の土を弱アルカリ性にするためのものです)。

2.地震と液状化を再現してみる

では次の実験にいきましょう。資源を無駄にしないため、実験1で作った砂と水の入っているパスタケースをそのまま再利用します。パスタケースの蓋をしっかりしめて、水と砂がよく混ざり合うようにケースを振ったあと、机の上に静かに置いてみましょう。

ふたたび、パスタケースの底に砂がたまりました。砂の動きがだいたい落ち着いたら、砂の一番上の部分にマジックで印をつけて下さい。この印の部分が、私たちの暮らす地面です。

砂の一番上の部分にマジックで印をつける
砂の一番上の部分にマジックで印をつける

さて、いま砂の中には水がたっぷりと含まれている状態です。現実世界でいうと、むかし海や川だった場所、あるいは沼や湿地帯を埋め立てて家を建てた土地に近い状態です。ここに地震が発生するとどうなるかを、実験してみましょう。下の動画のように、パスタケースを手で叩いて振動させ地震を起こして下さい。

すると、細かい砂が上に向かって噴き出していきます。

液状化とは、水を含んだ砂が大きな地震によって揺さぶられると、砂の間にある水に大きな力がかかり、砂同士の間に入り込んで地面が泥水のような柔らかい状態になることです。この際、大きな力がかかった水は地表面へと噴き出してきます。その時に周囲の砂も一緒に噴き出してくることがあります。これを「噴砂(ふんさ)」と呼び、東日本大震災でも発生しました。

液状化発生のメカニズム(国土交通省)

東日本大震災 新浦安で液状化現象
東日本大震災 新浦安で液状化現象写真:アフロ

次に、先ほどマジックで印をつけた部分を観察してみてください。地面の場所が、先ほどよりも下がっています。振動によって地面の中の水が噴き出したため、そのぶん地面が下がったのです。これを「地盤沈下(じばんちんか)」と呼びます。

地盤沈下により、地面の場所が印部分よりも下がった状態
地盤沈下により、地面の場所が印部分よりも下がった状態

3.扇状地を作ってみる

今度は、地形を作る実験をしてみましょう。先ほどの実験で使ったパスタケースから水を捨て、中の砂を取り出してプラスチックトレーに盛り上げ、山を作ってみてください。さらに、パスタケースの蓋をプラスチックトレーの下に挟んで、トレーを少し傾けます。

パスタケースの中の砂を取り出してプラスチックケースに盛り上げる。
パスタケースの中の砂を取り出してプラスチックケースに盛り上げる。

じょうろで山に水を注ぐと、砂が流れ出して広がります。山の急な斜面を流れる水は大きな力で砂や石を運びますが、斜面がゆるやかになると水の力は弱まり、山のふもとに砂や石がたまります。こうして作られる地形が「扇状地(せんじょうち)」です。

扇状地 (「絵で見る地球科学」地質調査総合センター公式サイトより)
扇状地 (「絵で見る地球科学」地質調査総合センター公式サイトより)

シンプルな実験ですが、水の量や勢い、トレーの傾き、水が流れる方向によって、扇状地の形が変わってきます。スマートフォンで撮影しながら、実際の地形と比べてみるとよいでしょう。

4.地層の断面を作ってみる

1~3では、地層が水や川の働きでどのように作られるかを実験しました。こうした地層な長い年月をかけて地下で固まり、それが地上に押し上げられたり、あるいは川で削られたりして私たちの前に姿を現します。最後に、紙粘土を使ってをそれを実験してみましょう。100円ショップで購入してきた3つの紙粘土を袋から取り出してそのまま重ね、上から少し押さえつけてくっつけます。これが、地面の中に隠れている地層です。

紙粘土を重ねて地層を作る
紙粘土を重ねて地層を作る

重ねた紙粘土を、粘土工作用のナイフやカッターで、様々な角度から切ってみてください。たとえば河川によって地面が削られたことを再現するため、上からVの字で斜めに切り込みを入れると、下の地層が見えてきます。

Vの字に切り込みを入れた状態
Vの字に切り込みを入れた状態

逆に地層が山の形に浸食されるとどうなるのかを確かめるため、今度は逆Vの字に切り込みを入れてみます。その他、切り込みを入れる場所や傾きによって、見える地層のパターンが違うことを観察してみてください。

逆Vの字に切り込みを入れた状態
逆Vの字に切り込みを入れた状態

様々な角度からかっとして地層を観察する
様々な角度からかっとして地層を観察する

地面の中の地層は、いつも水平になっているわけではなく、たまった時の条件や、地下の力によって傾いたり、曲がったり、あるいは断層で切られたりしています。そのため、地層を調査する際には、様々な断面から地層の傾きを測り、地下でどのような状態になっているかを推測します。最近ではレーザー計測やドローンを使った調査も行われています。

参考:地質図の成り立ち(地質調査総合センター)

地層の厚さの変化(「絵で見る地球科学」地質調査総合センター公式サイトより)
地層の厚さの変化(「絵で見る地球科学」地質調査総合センター公式サイトより)

千葉県木更津市の地層。
千葉県木更津市の地層。写真:アフロ

伊豆大島にある地層切断面。地層が曲がっている
伊豆大島にある地層切断面。地層が曲がっている写真:アフロ

いかがでしたでしょうか。

今回は100円ショップで手軽に材料をそろえて、おうちでできる基礎的な実験を取り上げてみました。地学実験の世界は奥が深く、まだまだ沢山の実験方法があります。機会があれば、それらも紹介していきたいと思います。

その他

液状化や地盤沈下の実験は、産業技術総合研究所の宮地良典先生、兼子尚知先生が開発された「エキジョッカー」というキットで商品化もされています。エキジョッカーの仕組みは下記の報告に書かれています。

参考文献

宮地良典・兼子尚知 (2008) 液状化実験装置を作る. GSJ地質ニュース.

古生物学者/福井県立大学 客員教授

古生物学者。専門は地球科学と3Dモデリング・VR。筑波大学で博士号を取得後、つくば市にある産業技術総合研究所、および地質標本館を経て、2016年に地球科学可視化技術研究所を設立。2019年に福井県立大学 恐竜学研究所の客員教授に就任、2020年に同研究所と「恐竜技術研究ラボ」を始動。日本地図学会、東京地学協会の各委員を務める。主な著書に「特撮の地球科学」(イースト・プレス)、「化石観察入門」(誠文堂新光社)、「恐竜と化石が教えてくれる世界の成り立ち」(実業之日本社)ほか多数。Eテレ「ビットワールド」出演。「ウルトラマンブレイザー」地学監修、「日本沈没 -希望の人-」地図監修。

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