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アジアパラ2018ジャカルタで開幕!水泳期待の3選手を紹介

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
アジアパラへの最後の公式練習で木村敬一とともに練習する富田宇宙 写真・山下元気

 10月6日。アジアの障害者スポーツの総合大会「インドネシア2018アジアパラ競技大会」がインドネシアのジャカルタで開幕する。2020年東京パラリンピック前の最後となる総合大会。今回、成長著しい水泳から3選手を紹介したい。

アジア43の国・地域が参加

出発前日の10月2日におこなわれた結団式で団旗を受けとる大前団長 写真・山下元気
出発前日の10月2日におこなわれた結団式で団旗を受けとる大前団長 写真・山下元気

 4年に1度開かれるアジアパラ競技大会。今年は43の国と地域から約2800人の選手が参加し、18競技558種目が行われる。種目はパラリンピックと重なるものが多いが、バドミントン、パワーリフティング、水泳、陸上、卓球などアジア地域で盛んな競技が中心となって盛り上がることだろう。

 日本からは大前千代子団長(日本障がい者スポーツ協会理事)率いる484名(選手304名・スタッフ180名)で、チェスをのぞく17競技に参加する。用具を必要としない水泳競技には、身体障害、視覚障害、知的障害のパラリンピックのすべての障害の選手が参加している。

 アジアパラ主将でもあり、パラリンピック金メダリスト・鈴木孝幸(31歳・四肢欠損/GOLDWIN)率いる日本水泳チームより注目選手3人の2週間を追いかけてみた。

ジャパンパラからアジアパラへ、日本のメダルの鍵をにぎる水泳代表の泳ぎ!

9月22〜24日の3日間に行われたジャパンパラ水泳競技大会の記者会見に注目選手と海外からの招待選手が出席した。東京へ向けこれまでにない規模の国際大会となった 写真・山下元気
9月22〜24日の3日間に行われたジャパンパラ水泳競技大会の記者会見に注目選手と海外からの招待選手が出席した。東京へ向けこれまでにない規模の国際大会となった 写真・山下元気

 アジアパラの前哨戦とも言える重要な「ジャパンパラ水泳競技大会」が9月22日~24日まで横浜国際プールで開催された。2016年のリオパラリンピックでは、中国が水泳だけで37個の金メダルを獲得しダントツで世界トップにいる。2位以下はヨーロッパ勢が占め、香港、カザフスタンも金メダル1個を獲得している。日本はトータル7個のメダルを獲得しているものの、金メダル数はゼロで、アジア各国に水をあけられた形である。

 ジャパンパラでは日本のエース・木村敬一(28歳・全盲/東京ガス)とライバル・富田宇宙(29歳・全盲/日体大大学院)、成長めざましい小池さくら(両下肢機能全廃/日体大桜華高校)らが、それぞれの得意種目でアジア記録を更新した。2020年東京への道のりは楽ではないが、伸びしろは十分で期待がもてる。

宇宙、いよいよ国際戦へ

 視覚障害のクラスS13(弱視)からS11(全盲)に変わった富田宇宙。障害の程度が進み、クラス分けで全盲のスイマーとなった。そして、その日から日本のエース・木村敬一のライバルに急浮上した。

 「いつか全盲のクラスになることは想定していました。ブラックゴーグルをつけての競技は全く違う。まだまだ練習が必要」と話す。全盲のクラスは競技の公平性を保つため全く光がない状態になるゴーグルを装着して競技する。

ジャパンパラでレース前の富田宇宙。タッピングは達人の寺西真人コーチ。アジアパラでもタッピングすることがきまった。 写真・秋冨哲生
ジャパンパラでレース前の富田宇宙。タッピングは達人の寺西真人コーチ。アジアパラでもタッピングすることがきまった。 写真・秋冨哲生

 ジャパンパラ3日目、富田はメイン種目の400m自由形(S11)の予選でアジア記録を更新。木村が得意とする100mバタフライ(S11)はあとを追った。

「(バタフライについては)木村敬一選手に少しでも近づきたくて、かなり力をこめて泳いでみたが、ぼくのタイムではあだになってしまって悔しい思いです。でも彼がアジア新記録を出した時は本当にうれしかったし、目標にしている選手。今後も二人で高みを目指していきたい。彼が記録を更新してくれて本当にうれしい」と話していた。

ジャパンパラで100mバタフライを泳ぐ富田宇宙。ライバル木村敬一の得意種目でもあり水をあけられる形になった 写真・山下元気
ジャパンパラで100mバタフライを泳ぐ富田宇宙。ライバル木村敬一の得意種目でもあり水をあけられる形になった 写真・山下元気

 3歳で水泳を始め、競技ダンスなどにも取り組んでいる富田の強みは、水泳でも、ダンスでも、見えていた時の感覚を生かして自分の身体を思うようにイメージに近づけていくことができること。昨年9月のメキシコでの世界選手権が地震により延期となり日本代表は出場しなかったため、S11での富田の実力はアジアパラで初めて、海外選手の前に披露される。

 アジアパラへの試合を前に最後の公式練習の会場を尋ねると次のように話してくれた。

 「大舞台の楽しみはある。アジアパラでは予選、決勝と勝負していき、いい仕事をしたい。(視覚障害のクラスは)コンバインドでレースが行われ、S11と12、13が一緒に泳ぐのでハードなレースになりますが、しっかりとトップの選手についていきベストを出したい。またいろんな競技がある中で、水泳チームの一員として結果をのこし副キャプテンとして2020に向けてしっかりと盛り上げていきたい。パラ種目のなかでも水泳が一番といってもらえるようなチームにしたい」

さくら、100m平泳ぎでアジアレコード更新かさねる!

ジャパンパラ100m平泳ぎでアジア記録を更新した小池さくら 写真・山下元気
ジャパンパラ100m平泳ぎでアジア記録を更新した小池さくら 写真・山下元気

 17歳の小池さくらは昨年末に行われたアジアユースパラ競技大会(ドバイ)で旗手をつとめた。400m自由形(S7)にこだわっていたが、ジャパンパラ1日目の100m平泳ぎ(SB7)で予選・決勝とアジア記録を更新する好記録を出した。アメリカの同じクラスの金メダリスト・McKenzie Coanとの交流が小池の緊張をほぐしてくれたようだった。

ジャパンパラで100m平泳ぎをおよぐ小池さくら 写真・山下元気
ジャパンパラで100m平泳ぎをおよぐ小池さくら 写真・山下元気

 「(ジャパンパラでは)予選より決勝の方がタイムをあげられたのでいいレースができた。予選では水をつかむ感覚がよくなかったですが、決勝ではよかったです。決勝では水をつかめてなかったので、ピッチを早くするより水をつかむ大きい泳ぎをした。飛び込みの時に膝が曲がらない。水の中で(足)はブラブラな状態。何も意識してないです。下半身が沈まないようにピッチを早くしています。400m自由形で最後は消耗してくるのですが絶対落とさないぞって。アジアパラの出発まで2週間切り、このレースでいいタイムが出せてよかったです。国内でのこんなに長い大会は初めて。体力的にも精神的にも疲れているが、タイムを出すことが自分に使命!と、4日間(21日の記者会見等も含めると)つぶやいて頑張りきりました!」

大、自分を超える泳ぎを!

 東海林大(19歳・知的障害/三菱商事)はジャパンパラでは、得意の200m自由形でリオ銅メダリストの中島啓智を制して大会レコードを更新した。2年前のリオパラリンピックの選考会で力をだしきれず、実力は互角だったにもかかわらず代表を逃した東海林。つねに一足先を走る中島とのアジアパラでの再戦が楽しみだ。

アジアパラの練習会場での東海林大 写真・山下元気
アジアパラの練習会場での東海林大 写真・山下元気

 「練習のテーマにしている「楽しく泳ぐ」ことは、予選の結果を恐れず、決勝では気持ちよく楽しく泳ぐことが大事だなと思う。決勝では、たまに力を出し切るということが抜けてしまったこともあったが、前向きにレースを楽しめたと思う。100%ではないが、国内大会で3つのレースで1位になり、ベストが出せた。と言ってもまだ満足は半分以下なので、その課題をアジパラで生かせたらと思う。アジパラでは、ともかく無心に、前半から突っ込んで、ラストスパートも攻める、あと大きく悠々と泳げたらな、と思います」

 練習面では、アジパラの選考会が終わったあと陸上トレーニングで懸垂を始めた。本格的に筋トレをやって体に筋力をつけていきたいという。まだ効果はさほど実感できないといいつつも、やらないよりはタイムやブレスの効果が出てきていると自覚していた。

2日の結団式で、「重圧が多少あるが、気にしないで自分をこえるレースをしたい。200m個人メドレー、100m平泳ぎ、バタフライで金メダルをとりたいが、それよりも自分の最高の泳ぎをしたいです」と意気込みを話してくれた。

ジャパンパラで200m個人メドレーを泳ぐ東海林大 写真・秋冨哲生
ジャパンパラで200m個人メドレーを泳ぐ東海林大 写真・秋冨哲生

 アジアパラの水泳は10月7日~12日まで行われる。総合大会としては2020年の前では最後となり、アジア各国が東京を意識したレースを展開してくるだろう。多くの国が参加し、日本でも多くのメダル獲得が期待できる水泳チームである。現地での公式練習がはじまり、プールの泳ぎやすさなどを口にする選手が多い。紹介した3選手を含め、日本がどのようなパフォーマンスを見せるのか、注目したい。

(取材協力:久下真以子、望月芳子/機材提供:ニコンイメージングジャパン)

【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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