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創業110余年の居酒屋や台湾ラーメンの人気店も。テイクアウトに活路見出す名古屋の老舗のコロナ対策

大竹敏之名古屋ネタライター
「大甚本店」では4代目の山田泰弘・明美さん夫妻が中心になり初のテイクアウトに挑戦

創業113年で初めてテイクアウトを導入した「大甚本店」

コロナショックが長期化し大きな打撃を受けている飲食業界。対抗策としてテイクアウトを導入する店が増えています。新興の店ほどスピーディーに取り組み、ネットでもこれを応援する動きが活発化するなど、特に若い世代がこの新しい市場をリードしています。

そんな中、歴史ある有名店・人気店でもこの市場に参入したり強化するケースが現れ始めました。日本屈指の老舗居酒屋に、名古屋めしの代表格など、名古屋の老舗飲食店の取り組みにフォーカスします。

「大甚本店」(名古屋市中区)は明治40(1907)年創業の国内でも屈指の老舗居酒屋。100席を超す店内は常に満席で、週末ともなると大行列ができるほどの大人気店です。

ところが、コロナショックのあおりを受けて客足は激減。「お客さんの数は通常の2割にも届かない」(3代目店主の山田弘さん)ほどに落ち込んでしまいました。同店は大テーブルでの相席が基本で、平常時は客席がすき間なく埋まり、隣り合わせた人同士で会話に花が咲きます。まさしく“三密”な空間が魅力なだけに、自粛ムードの影響をもろに受けてしまったのです。

この窮状を打開すべく、テイクアウトを始めようと発案したのは山田泰弘さん・明美さんの4代目夫婦でした。「このご時世で“店に来て下さい”とは言いにくいので、『家飲み応援』として、4月6日から総菜メニューを1パック250円で店先で販売することにしたんです」と泰弘さん。

テイクアウトは1パック250円均一。店内で食べる従来価格の270円(野菜系)・320円(肉・魚系)よりもお値打ちな設定となっている
テイクアウトは1パック250円均一。店内で食べる従来価格の270円(野菜系)・320円(肉・魚系)よりもお値打ちな設定となっている

同店はもともと小鉢に盛った総菜のセルフサービスがウリ。これをプラ製パックに盛って並べるのは、従来の陳列・提供方と比べても違和感がありません。さらにテイクアウト用に新メニューも導入。ハンバーグ、唐揚げ、釜飯など、既存の酒のアテとは異なる晩ご飯のおかず向けの料理を新たに商品化しました。

「いつも満席で入れなかったので」とテイクアウトを歓迎する新・常連も

「いつも満席だから」と入るのをあきらめていた人がこの機会にと買いに来るケースも。GW中は休業となるので要注意
「いつも満席だから」と入るのをあきらめていた人がこの機会にと買いに来るケースも。GW中は休業となるので要注意

店が開店する16時前から店先に総菜を並べると、1人また1人と道行く人が足を止めます。「ご近所の主婦や若い女性など、普段のお客さんとは違う層の方も買いに来てくださいます。毎日のように来てくれるテイクアウトの常連さんもいらっしゃるんですよ」と明美さん。「いつも満席で入りたくても入れなかったので、テイクアウトで買えるのはありがたい」というのは近隣に勤める会社員の女性。テイクアウトによって初めて人気店の味を体験できた、という声もあり、期せずして新規客の開拓にもつながっているようです

店で食べるよりも…?テイクアウトだからこその意外な発見

筆者が購入した総菜各種各250円。テイクアウト専用のハンバーグは味噌仕立てのソースが和風デミグラスソースのようで絶品。人気の加茂鶴の樽酒を家で飲めるのもうれしい(500円)
筆者が購入した総菜各種各250円。テイクアウト専用のハンバーグは味噌仕立てのソースが和風デミグラスソースのようで絶品。人気の加茂鶴の樽酒を家で飲めるのもうれしい(500円)

毎日400パック以上を用意し、売れ残る日はほとんどないそう。連日完売でフードロスはほぼゼロ、という繁盛時から自慢の経営スタイルは、テイクアウトによって守られているようです。

「それでも売上は通常時の1/3程度。居酒屋は水商売というように飲み物が出ないと売上が上がりませんからね。それでも、もしテイクアウトをやっていなかったら…と思うと。店内で出すより安くしている上にパックの経費もかかるので、これで儲かるというほどじゃないですけど、せっかくつくったものを余らせたくないですからね」と明美さん。

筆者も取材ついでに何品かを購入しました。通い慣れた店の味ですが、自宅で食べると新たな発見がありました。いつもは店のムードが心地よく、その分料理も3割増しでおいしく感じられる…と思っていたのですが、実際は逆でした。自宅だと雰囲気に流されずに味わうことができ、上品かつ深みのある味つけの魅力をあらためて堪能できるのです。

台湾ラーメンの「味仙」はテイクアウトの客単価が大幅アップ

「味仙今池本店」では名物の台湾ラーメン(右下)はじめ、全メニューをテイクアウトできる
「味仙今池本店」では名物の台湾ラーメン(右下)はじめ、全メニューをテイクアウトできる
店頭にはテイクアウト専用のカウンターもある。ランチ営業でよりテイクアウトの需要拡大を見込む
店頭にはテイクアウト専用のカウンターもある。ランチ営業でよりテイクアウトの需要拡大を見込む

「味仙 今池本店」(名古屋市千種区)は、名古屋めしのひとつとして知られる台湾ラーメンの発祥店。テイクアウトはもともとやっていましたが、利用動向に大きな変化がみられるといいます。

「これまでは食事のついでに手羽先や餃子、台湾ちまきなどをおみやげに買っていかれる方が多かったのですが、今は家族全員分の食事を買いに来るお客さんが増えている。5000~7000円分と高額分をテイクアウトされる方も多いんですよ」とママさんこと郭美英さん。

コロナショックによるもうひとつの変化が営業時間です。「昭和37年に店を始めて以来、ずっと夜だけの営業だったのに初めて昼から開けることになりました」と郭さん。愛知県の緊急事態宣言にともなう時短要請を受け、4月17日から初のランチ営業をスタート。夜営業の短縮を余儀なくされる分、開店時間を前倒しして11~20時の通し営業を当面続けるといいます。夜営業のイメージが定着しているため、昼のお客さんはまだ限られますが、情報が浸透すればその分テイクアウトの需要増にもつながりそうです。

「あつた蓬莱軒」や「大和屋守口漬総本家」も“中食”推進

その他、ひつまぶしの名店「あつた蓬莱軒」は松坂屋店が4月11日~、本店と神宮店は4月25日~5月6日まで臨時休業とし、本店に限ってこの期間中もテイクアウト販売を実施。観光客の来店を見込めない分、少しでも売上確保につなげ、同時に外出自粛を強いられる消費者の期待にも応えようという考えです。また、テイクアウトではありませんが、ご当地漬物・守口漬の「大和家守口漬総本家」は、和食業態「鈴波」の通販商品を送料割引(3240円以上・4月30日まで)で販売しています。

外出自粛が叫ばれる中、どの老舗も、店の味を自宅で楽しんでもらおうとテイクアウトや通販にあらためて力を入れるようになっています。大甚本店のテイクアウト、味仙今池本店のランチ営業など、創業以来初の試みもあり、これらは新たな客層やニーズを開拓する可能性も秘めています。各店の取り組みが、コロナ騒動後の新たなにぎわいにつながることを期待したい思います。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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