米グーグルがグーグルグラスの個人向け販売を中止した。同技術は最近のウェアラブルデバイスの火種となった製品であり、IT業界からは高い注目を集めていた。

しかし、一方ではグーグルグラスに搭載された撮影機能により「プライバシーを侵害するのではないか」という議論やトラブルがおきていた。

■米シアトル、グーグル着用者の入店お断り

既にグーグルグラス着用者が街中を歩くこともあった米国では、着用者と非着用者の間でトラブルになる事例も起きている。

2013年3月11日、シアトルのバー「The 5 Point Cafe」は自社の公式ブログでグーグルグラス着用したままの入店禁止を宣言した。

If you’re one of the few who are planning on going out and spending your savings on Google Glasses what will for sure be a new fad for the fanny-pack wearing never removing your bluetooth headset wearing crowd plan on removing them before you enter The 5 Point. The 5 Point is a No Google Glass zone. Respect our customers privacy as we’d expect them to respect yours.

出典:The 5 Point Cafe

2013年11月22日、シアトルのレストラン「Lost Lake」でグーグルグラス着用の男性が入店を断られた。「Lost Lake」のオーナは「The 5 Point Cafe」のオーナでもあった。店主が危惧したのは、グーグルグラスの撮影機能。プライベートな時間を楽しみにきているバーという空間で、誰かに撮影されているかもしれないとしたら、他の客が不快に思うとの配慮。

入店を拒否された男性は自身のFacebookに「Lost Lakeは#LostLake とタグを付けてInstagramに投稿するように推奨しているのに、なぜGoogle Glassは駄目なのか?」と、投稿しLost Lake側の対応に疑問を示していた。

■顔認識機能で何者かがわかってしまう

グーグルはグーグルグラスに顔認識機能を提供していないが、既にサードパーティから顔認識を可能にするアプリがリリースされている。FacialNetwork.comがリリースした「NameTag」だ。これは、グーグルグラスで撮影した人の顔を認識し、類似する顔写真をFacebook等から探し出し、撮影者のSNSアカウントを発見する機能を持つ。

こういった機能を持ったウェアラブルデバイスを持って、「The 5 Point Cafe」などのようなBarに行けば、目の前に居る「他人」の素性がまるわかりになってしまうということだ。

■ウェアラブルデバイスによる情報取得に対して整備され始めた法制度

先行する海外では、ウェアラブル・デバイスによって取得されたデータの活用や保管方法についてついて、整備する動きも出てきた。

韓国では、グーグルグラス等のウェアラブル・デバイスがプライバシーを侵害する恐れがあるとして、立法すべきとの声が高まっている。2014年8月7日に韓国情報化振興院がまとめた「個人情報保護の法的制度改善案」報告書には、新しいウェアラブルデバイスが個人情報を取得し、個人情報が盗用、乱用される可能性があると記載されていた。

英国では、ウェアラブルデバイスから取得したデータは「Data Protection Act」に従う必要があるとの見解を示した。

The watchdog said that the collection and processing of personal data via wearable technology, such as Google's computer spectacles product'Google Glass', must adhere to the Data Protection Act (DPA).

出典:Wearable technology subject to UK data protection laws, says watchdog

急速に認知が広まったグーグル・グラスであったが、急速に社会が警戒し始めたのも事実であった。MM総研の行ったウェアラブル端末に関する意識調査を行ったところ、日本では8割の人が「不安に感じる」と回答していた。

出典:MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」(平成25年)
出典:MM総研「日米におけるウェアラブル端末の市場展望」(平成25年)

■日本でも街中を歩けば逮捕されるリスクも

日本国内の法関係者の間でも、日本国内においてグーグルグラスを着用したまま街中を歩けば逮捕されるリスクはあるという声がある。日本国内におけるプライバシーの裁判例としては、昭和44年12月24日最高裁判所が下した「何人も、その承諾なしにみだりに容貌・姿態を撮影されない自由を有する」という裁判例が有名だ。

つまり、日本国民なら誰しも「撮影されない権利」を有していることになる。下着を盗撮したわけでもなく、服を着ている女性を撮影して迷惑防止条例で逮捕されるという事件が昨年発生し、ネットでも話題を集めた。

「男はUSBメモリーの形をしたカメラで動画を撮影。気づいた女子大生が警察を呼び、県迷惑行為防止条例違反で逮捕されました。撮った映像は女性の顔から足までの全身で、パンティーやブラジャーは写っていなかった。警察によるとスマホやカメラで撮っても捕まるそうです」(捜査事情通)

出典:「着衣の全身撮影」で逮捕 不用意に女性を撮影してはいけない

こういった判例が存在することを考えれば、グーグルグラスを着用し、相手の許可なく他人を撮影すれば、訴えられる可能性もあるということだ。

■グーグル・ストリートビュー登場時も騒動はおきていた

発表当時、その斬新なデザインに「未来が現実になった」と話題を集めたグーグルグラスだが、その斬新さ故に「怖さ」を感じる人も多いのは事実。これはウェアラブル・デバイスが普及する上で解決していかなければならない大きなハードルの一つだ。

ただ、こういった斬新な技術には社会の反対はつきまとうもの。今では当たり前となったグーグルの地図サービス「ストリートビュー」もサービス開始当時から「進入禁止箇所の撮影」や「人の映り込み」、もちろん「住民のプライバシーが侵害される」という等の理由から度々トラブルは起きてきた。そういった問題に対処しつつ、今でも不安と感じる人が多い一方で、便利と感じる人が増えたのも事実。

今回の個人向け販売中止の発表は勢いを感じていたウェアラブルデバイス動向の中で、大きなインパクトではあるが、この課題に真摯に取り組み前進することを期待したい。