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日本や韓国に対しても行うアメリカ海軍の「航行の自由」作戦

JSF軍事/生き物ライター
参考写真:アメリカ海軍より補給艦チャールズ・ドリュー(2010年8月12日撮影)

 アメリカ海軍の「航行の自由」作戦(FONOP、freedom of navigation operation)は南シナ海で中国が違法に占領した島に対して行うものが有名ですが、実は以前から同盟国に対しても行うことが知られています。そしてこれはアメリカ海軍より公表されています。

 以下はアメリカ海軍第7艦隊が管轄海域で最近行った幾つかのFONOPの事例の紹介です。

2021年3月31日、大韓民国・Kuk-To周辺でのFONOP

Philippine Sea,

On March 31 (local time) USNS Charles Drew (T-AKE 10) asserted navigational rights and freedoms in the vicinity of the Kuk-To Island, consistent with international law. This freedom of navigation operation ("FONOP") upheld the rights, freedoms, and lawful uses of the sea recognized in international law by challenging the Republic of Korea's excessive straight baseline claim.

(フィリピン海、

3月31日(現地時間)、USNSチャールズ・ドリュー(T-AKE10)は国際法に則り、Kuk-To周辺での航行の権利と自由を主張しました。この航行の自由作戦(FONOP)は、大韓民国の過度な直線での基線の主張に異議を唱えることにより、国際法で認められている海洋の権利、自由、および合法的な利用を支持しました。)

出典:7th Fleet conducts Freedom of Navigation Operation | March 31, 2021

Kuk-Toとは韓国の何処か?

 アメリカ海軍の言う韓国のKuk-Toとは何処か詳細が不明ですが、韓国の南西の黄海にある(アメリカ海軍はフィリピン海としているが韓国は面しておらず明らかに間違い)、全羅南道新安郡黑山面晩才島里(전라남도 신안군 흑산면 만재도리)の晩才島(만재도)の東にKuk-Toという小さな無人島があります。 Mapcarta - The Open Map

Kuk-To = 국도 = クク島

 韓国語では島は섬(ソム)あるいは도(ト)で表します。Kuk-ToのToは島の도(ト)の意味です。つまり正確に表記すると「Kuk-To Island(ククト島)」ではなく「Kuk Island(クク島)」になります。そして韓国語の表記は「국도(ククト)」となり、漢字では「菊島」になります。

追記:韓国のもう一つのクク島(국도)

 韓国には上記の全羅南道新安郡黑山面晩才島里(전라남도 신안군 흑산면 만재도리)のクク島の他にもう一つ、慶尚南道統営市欲知面東港里(경상남도 통영시 욕지면 동항리)にもクク島が存在することが分かりました。

Google地図より筆者作成。韓国の二つのクク島(국도)の位置
Google地図より筆者作成。韓国の二つのクク島(국도)の位置

 韓国の二つのクク島を見比べた場合、対馬海峡の水道に近い慶尚南道統営市のクク島の方でアメリカ海軍のFONOPが行われた可能性が高そうです。

Google地図より筆者作成。慶尚南道統営市欲知面東港里のクク島
Google地図より筆者作成。慶尚南道統営市欲知面東港里のクク島

 クク島(국도)のクク(국)は漢字では該当する言葉が「国」「菊」「汁」「局」「鞠」など複数あります。全羅南道新安郡のクク島は「菊島」と分かりましたが、慶尚南道統営市のクク島は菊島なのか国島なのか判明しませんでした。

 なおややこしいことに北朝鮮の日本海側にも「국도」という同じ表記の島があるのですが、こちらはアメリカ海軍のFONOPとは無関係です。

2020年12月15日、日本・対馬海峡周辺でのFONOP

TSUSHIMA STRAIT – On Dec. 15, USNS Alan Shepard (T-AKE 3) asserted navigational rights and freedoms in the vicinity of Tsushima Strait near Japan. The ship conducted normal operations within claimed territorial seas to challenge excessive maritime claims and preserve access to the waterways as governed by international law.

(対馬海峡– 12月15日、USNSアラン・シェパード(T-AKE3)は日本の対馬海峡付近での航行の権利と自由を主張しました。同艦は国際法に則って、過度な海上権益の主張に異議を唱え水路へのアクセスを維持するために、領海内で通常の運航を行いました。)

出典:USNS Alan Shepard conducts Freedom of Navigation Operation | Dec. 15, 2020

 なおこの対馬海峡のFONOPも「過度な直線での基線」が原因でこれより以前にも実施されていたのですが、日本政府が抗議してきたので、アメリカ海軍は再度FONOPを実施したものです。日本がFONOPを受けるのは複数回目になります。

2021年2月17日、南シナ海で中国だけでなく台湾とベトナムが領有を主張する島に対してもFONOP

 アメリカ海軍第7艦隊の最近の事例では、同盟国以外では2021年2月17日にイージス駆逐艦「ラッセル」が南シナ海の南沙諸島でFONOP実施、2021年2月5日にイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」が南シナ海の西沙諸島でFONOP実施、2020年12月22日に同じく「ジョン・S・マケイン」が南シナ海の南沙諸島でFONOPを実施しましたが、この時は中国だけでなくベトナムと台湾に対しても名指しして実施しています。

SOUTH CHINA SEA,

On Feb. 17 (local time) USS Russell (DDG 59) asserted navigational rights and freedoms in the Spratly Islands, consistent with international law. This freedom of navigation operation (“FONOP”) upheld the rights, freedoms and lawful uses of the sea recognized in international law by challenging unlawful restrictions on innocent passage imposed by China, Vietnam and Taiwan.

(南シナ海、

2月17日(現地時間)、USSラッセル(DDG59)は国際法に則って、南沙諸島における航行の権利と自由を主張しました。この航行の自由作戦(FONOP)は、中国、ベトナム、台湾による無害通航の違法な制限に異議を唱えることにより、国際法で認められている海洋の権利、自由、合法的な利用を支持しました。)

出典:7th Fleet Destroyer conducts Freedom of Navigation Operation in South China Sea | Feb. 16, 2021

 中国、ベトナム、台湾は外国の軍艦が領海を「無害通航」する前に許可または事前通告のいずれかを要求していますが、アメリカはそのような要求を国際海洋法から逸脱しているとして無視し、イージス駆逐艦を事前通告無しに通航させました。中国だけを狙い撃ちにせず、国際海洋法から逸脱している全ての国に異議を唱えたのです。

 なおイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」は2020年11月24日にはロシアのウラジオストク周辺のピョートル大帝湾に乗り込んでFONOPを実施しています。これはロシアが主張する領海の範囲が過大で認められないという意思表示でした。

 このようにアメリカ海軍は「航行の自由」作戦(FONOP)を仮想敵国やそれ以外どころか同盟国に対してさえも頻繁に行っています。これはずっと以前から行われていることであり、最近急に始まったことではありません。

追記:2021年4月3日、スリランカ領海でFONOP

PHILIPPINE SEA,

On April 3 (local time) USS Port Royal (CG 73) asserted navigational rights and freedoms in the vicinity of Sri Lanka by conducting innocent passage through Sri Lankan territorial sea, without requesting prior permission, consistent with international law. Sri Lanka requires foreign warships to obtain permission prior to transiting territorial seas, a claim inconsistent with international law. This freedom of navigation operation ("FONOP") upheld the rights, freedoms, and lawful uses of the sea recognized in international law by challenging Sri Lanka's excessive maritime claim.

(フィリピン海、

4月3日(現地時間)、USSポートロイヤル(CG73)は国際法に従い、事前の許可を求めることなくスリランカ領海を無害通航することにより、航行の権利と自由を主張しました。スリランカは領海を通過する外国の軍艦に事前に許可を得るよう要求していますが、これは国際法と矛盾する主張です。この航行の自由作戦(FONOP)は、スリランカの過度な海上権益の主張に異議を唱えることにより、国際法で認められている海洋の権利、自由、および合法的な利用を支持しました。)

出典:7th Fleet conducts Freedom of Navigation Operation | April 3, 2021

 スリランカの領海の海はインド洋ですが、なぜ太平洋のフィリピン海と表記しているのでしょう? おそらくアメリカ海軍第7艦隊は発表の際に枕詞のように主に活動しているフィリピン海と付けることが多いので、広報文を書く時によく考えずに習慣で間違えて付けてしまっているのだと思います。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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