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なぜマンチェスターシティは日本ツアーで大成功し、支持され、多くの日本人を魅了したのか!?

上野直彦AGI Creative Labo株式会社 CEO
7月23日横浜F・マリノスとの試合。多くの子供達や家族連れが訪れ大成功となった。(写真:松尾/アフロスポーツ)

徹底したファンとのコミュニケーション、デジタル戦略、絶妙なマーケティング手法

「この夏の海外ビッグクラブの来日では、マンチェスターシティの『一人勝ち』だったね」

 サッカージャーナリストの大御所が、国立競技場のペップ・グラウディオラ監督の記者会見室を出る際にそう語りかけてきた。筆者がイスタンブールでのCL決勝の際に購入したマンチェスターシティ(以下、シティ)のオフィシャルシャツを着ていたからだろう。

 一人勝ち、といっても言葉の定義が曖昧で、そもそもフットボールの試合は観客一人一人で受け取り方が違い、極めて定性的な部分が多い。ただ、一方で定量的な部分では以下のような数字が残っている。

◯7/23 横浜F・マリノス戦 61,618人 @国立競技場

◯7/26 バイエルン・ミュンヘン戦 65,049人 @国立競技場

 今夏の海外チームのジャパンツアーで6万人越えはシティのこの2試合のみで、今回の「ワールドチェレンジ2023」は明治安田生命・Jリーグ主導の試合だったのでリーグ主催の公式記録としては歴代最高の観客数となり、海外クラブとしてJリーグに少なからずの貢献を残した。

F・マリノス戦では先制点がF・マリノス、後半から出場したノルウェー代表FWアーリング・ハーランド(23)がゴラッソを決めるなど得点も3−5となり、多くのファン・サポーターやファミリー層にとってもエンターテイメント性も高く楽しめる試合となった。

 なぜ、マンチェスターシティはJAPAN TOURで結果を残し、ファン・サポーターに支持され、多くの日本人を魅了したのだろうか?

*筆者は2015年にシティフットボールグループ(CFG)の日本法人であるシティフットボールジャパン(CFJ)への取材をきっかけに、シティへの取材を継続。興味を持たれた方は、以下の過去のNewspicksの記事などご参考に。

(記事中の写真・画像で特に記載がないものは筆者提供である)

国立競技場のマンチェスターシティの試合では、(左から)プレミアリーグ、UEFAチャンピオンズリーグ、FAカップの優勝カップが展示された。3つのカップが同時に「来日」するのは日本サッカー史上初となった。
国立競技場のマンチェスターシティの試合では、(左から)プレミアリーグ、UEFAチャンピオンズリーグ、FAカップの優勝カップが展示された。3つのカップが同時に「来日」するのは日本サッカー史上初となった。

プレミアムリーグ史上初、4連覇という偉業への挑戦

UEFAチャンピオンズリーグのカップにキスするグラウディオラ監督。マンチェスターシティは念願のCL優勝、リーグ3連覇、三冠、という偉業を成し遂げた。次なる目標は前人未到のプレミアリーグ4連覇である。
UEFAチャンピオンズリーグのカップにキスするグラウディオラ監督。マンチェスターシティは念願のCL優勝、リーグ3連覇、三冠、という偉業を成し遂げた。次なる目標は前人未到のプレミアリーグ4連覇である。写真:ロイター/アフロ

 シティは昨シーズンにプレミアムリーグの3連覇ばかりでなく、24年ぶりの三冠ー プレミアリーグ・FAカップ・チャンピオンズリーグ(CL)ー を達成した。3つの優勝カップが同時に「来日」し、こちらも話題となった。

 だが、シティの挑戦は終わらない。世界のサッカー世界最高峰といわれるプレミアリーグで、史上初の4連覇という偉業に挑戦している。直近に成績で23日、プレミアリーグ第6節でノッティンガム・フォレスト(対戦時:2勝1分け2敗で8位)と対戦し、2−0で快勝。開幕からリーグ戦6連勝となり、いまだ無敗である。

 ただ、アーセナルやマンチェスター・ユナイテッド、また、近年優勝争いを繰り広げたリヴァプールなどライバルチームが猛然と阻止してくるだろう。果たして、どんな結果が待っているだろうか!?

選手はファンのどんなリクエストにも対応する、が基本

チームの心臓でベルギー代表 ケヴィン・デ・ブライネ選手。類稀なフットボールセンス、攻守にわたるチームへの貢献、決定力など来日時もファンから圧倒的な人気を誇った。リーグ4連覇には欠かせない存在だ。
チームの心臓でベルギー代表 ケヴィン・デ・ブライネ選手。類稀なフットボールセンス、攻守にわたるチームへの貢献、決定力など来日時もファンから圧倒的な人気を誇った。リーグ4連覇には欠かせない存在だ。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 今回のJAPAN TOURで驚いたことがある。試合後の限定ではあるがファン・サポーターへのサインや撮影のエリアがピッチ脇に設けられた。そこには家族連れも多かったが、シティの選手は全員がそういった家族は子供からのリクエストに応えていた。

 なかでもチームの要であるケヴィン・デ・ブライネ選手は、けっして万全のコンディションではないにも関わらず、それこそ年齢が一桁の子供たちの要求にすべて対応していた。家族全員で撮る、一人だけ撮る、ぬいぐるみと一緒に撮るなど、一切の不満をもらず全てに応えていた。

 もちろんJクラブでも同じような対応をしているが、選手やスタッフの対応の徹底ぶりだ。たった一人の不満が出ないように何度も確認して、時間をかけて対応していたのが印象的だった。

 そういったファン・サポーターを大事にする対応ぶりや、また快進撃を続けるチームを日本企業がほっておくわけがない。

続々とスポンサーとして参入する日本企業

"辛口”でファンも多いアサヒビール。マンチェスターシティと契約し、練習着の胸スポンサーとなっている。これによって公式戦の前や、選手がベンチにいる際にはアサヒビールのロゴや企業名が世界的に配信される。写真:ロイター/アフロ

 象徴的なものはアサヒビール株式会社である。練習着に胸スポンサーとなり、試合の前やJAPAN TOURでもそうだったが、選手がベンチにいる時には練習着着用となり、世界的にその映像が配信されている(なお、アサヒビールはラグビーW杯2023のオフィシャルビアー)。

 現在、日本企業では日産自動車株式会社ソニー株式会社アビームコンサルティング株式会社、アサヒビールの4社となっているが、新しい企業の問い合わせも続いていると聞く。

 近年、日本の企業も東京オリンピック・パラリンピックを経て、逆にスポーツの本質や本当の価値を見出そうとしている。また、旧来とは違う広告代理店を通さない方法を構築している企業もある。そんななかで世界最大の人気と放映権、東南アジアへのリーチを含めた市場の大きさなどからプレミアリーグに注目が集まっている(日本人選手の活躍も大きい)。

徹底したデジタル戦略、web3分野への挑戦

Chilizの元木佑輔氏(左)は大のサッカーファン。代表のアレックス氏は今回のシティ来日に合わせて日本を訪問、国立競技場での試合を観戦するくらい日本市場へ力を入れている。(提供:Chiliz)
Chilizの元木佑輔氏(左)は大のサッカーファン。代表のアレックス氏は今回のシティ来日に合わせて日本を訪問、国立競技場での試合を観戦するくらい日本市場へ力を入れている。(提供:Chiliz)

 今回の来日で印象的だったものに徹底したメディア・デジタル戦略である。SNS発信のクオリティーの高さは評価が高いが、そこにかけるスタッフの人数が桁違い他クラブより多い。

 冒頭のグラウディオラ監督の記者会見でも10名以上、外注をいれるといさらに増える。記者室でも日本では基本各社1名だが、シティだけは常時5~6名のスタッフがいた。outputの質も格段に上がるわけである。

 さらにシティはデジタル戦略だけでなく、web3分野へも挑戦している。なかでもChiliz (チリーズ)との取り組みはファンの間でも好評を得ているようだ。チリーズの最大のサービスはソシオズ(Socios.com)というファントークン発行である。興味がある方は是非試されてみるといいが、筆者もこのサービスのファンの一人で海外クラブでよく使っている。

 チリーズは他にもバルセロナやASローマなどが契約しており、ファンのなかでも浸透しつつある。

いつかエティハドスタジアムの、Tunnel Clubで!

憧れの選手を目の前で。最高のファンサービス「トンネルクラブ」。シティはファンエンゲージメントの面でも世界トップクラスのレベルの評価を得ている。(@エティハド・スタジアム 提供:西脇智洋氏)
憧れの選手を目の前で。最高のファンサービス「トンネルクラブ」。シティはファンエンゲージメントの面でも世界トップクラスのレベルの評価を得ている。(@エティハド・スタジアム 提供:西脇智洋氏)

 ファン・サポーターの間で言われている言葉を、記事の最後とする。

 「いつかエティハドの、トンネルクラブで!」

Tunnel Club(トンネルクラブ) とはシティのファンエンゲージメントの一つで、ガラス越しにリアルな選手が見れるサービスで、その場所がレストランとなっており、同時に飲食を楽しめるエリアだ。ファンの間ではいつかここでホーム試合を観戦することが、夢の一つとなっている。元々はアメリカのNFLのチームが始めたが、常に最先端のファンサービスを提供するシティらしいといえる。

 好評だった今回のシティのJAPAN TOUR2023。
 果たして次回はいつ来日するのだろうか?その時には前人未到のプレミアリーグ4連覇は達成しているだろうか?また、日本人選手は加入しているだろうか?

 興味が尽きないが、今後もマンチェスターシティの取材を続けていく。

(了)

インタビュー・取材・構成

上野 直彦

AGI Creative Labo株式会社 CEO

兵庫県生まれ スポーツジャーナリスト/早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員/江戸川大学・追手門学院大学で非常勤講師/トヨタブロックチェーンラボ所属/ブロックチェーン企業ALiSアンバサダー,Gaudiyクリエイティブディレクター/NFTコンテンツ開発会社AGICL CEO/CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)など重版/ NewsPicksで「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味はサッカー、ゴルフ、マラソン、トライアスロン / Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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