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CL4強狙うミランのテオが誹謗中傷の被害に 1歳息子の死を願う蛮行に怒りと連帯の声

中村大晃カルチョ・ライター
ミランのテオ・エルナンデス(写真:ロイター/アフロ)

チャンピオンズリーグ(CL)のベスト4を懸けたライバルでも、ピッチでどれほど憎たらしくても、一切関係ない。誹謗中傷をする理由には、断じてならない。

SNSの世界には、そんな当たり前のことすら分からない者たちがいる。非人道的行為の被害に遭っているプロアスリートは少なくない。ミランのテオ・エルナンデスも、そのひとりとなってしまった。

先日、テオはインスタグラムに息子との2ショット写真を投稿した。ハートの絵文字とともに書かれていたのは、「本当におめでとう、僕のアモーレ。パパは君をすごく愛しているよ」。息子の1歳の誕生日を祝う投稿だ。そこに、一部の愚か者たちによる誹謗中傷のメッセージが寄せられた。

「2人ともバカ」、「お前みたいなアホにならなければいいな」…これらの下品な罵倒も、イタリアメディアが「マシな部類」と伝えたほどだ。中にはその死を願うものもあった。がんで亡くなった元イタリア代表ジャンルカ・ヴィアッリの名前を出した者もいる。

現在、ミランはナポリとCL準々決勝で対戦中だ。ミラノでのファーストレグは、1-0でホームのミランが勝利した。セリエAでは首位を独走するナポリに圧倒されているが、4月2日の第28節ではミランが4-0と敵地で大勝していた。

ナポリにとっては、ホームで大敗し、CLでも初戦を落として、準決勝進出に黄信号が灯ったかたちだ。エースのヴィクター・オシメーンの負傷欠場もあり、ナポリは4月の公式戦4試合で1勝1分け2敗と苦戦中。サポーターが今季ここまで感じなかったいら立ちを覚えているのは確かだろう。

加えて、テオはCLでアンドレ=フランク・ザンボ・アンギサを退場に追いやり、イルビング・ロサーノをあおるなど、ナポリサポーターの反感を買っていた。激しい気性で時に相手を挑発するテオを嫌う他クラブのファンは少なくない。

しかし、いずれも、テオとその息子の不幸を願うことが許される理由にはならない。

寄り添う声はすぐに届いた。

チームメートのラファエウ・レオンは、「残念ながらSNSは多くの人が好きなことを言うのに使えると思っているツールだ。なんでもないさ、兄弟。神は常に君の家族とともにいる」と投稿。イスマエル・ベナセルも「常に君と」と連帯を示している。

ナポリのサポーターからも、次々に「恥ずかしい」と連帯のメッセージが寄せられた。対戦時の選手テオの振る舞いを嫌いつつ、誹謗中傷に関しては代わって謝罪した者もいる。両クラブ以外の一部ファンからも、非難の声が上がった。

『La Gazzetta dello Sport』紙は、今回の件を伝える記事で「サポーターとは表現しない。一部の悪党どもが、残念ながら素晴らしい瞬間を汚した」と報じている。

現在3部のペスカーラは、クラブ公式アカウントで、「なぜ人とその子どもの死を願うなどできるのか。またアスリートがスポーツと無関係の非礼なコメントの標的に」と、愚か者たちを非難した。

「(纏うユニフォームに関係なく)選手に対する侮辱的ないし無礼なコメントは、いかなるものも糾弾するという点で全員が同意すべきだろう。しかし、コメントを見る限り、そうではない。そのような行為を非難せず、憎しみを強めるための口実を必死に探している。我々はそれを許したくない」

例えば、コメントの中には、テオに対する誹謗中傷を批判しつつ、ナポリに対する誹謗中傷や差別行為が絶えないことに言及したものもあった。ナポリはイタリアの中でも特殊な地域だ。サッカーにおいても、繰り返し差別チャントの被害に遭っていることで知られている。

直近のミラン対ナポリという構図もあり、テオに対する非道がメディアにことさら大きく取り上げられたという指摘はある。しかし、ナポリへの差別行為やその他のSNSにおける蛮行が、テオへの誹謗中傷を正当化することはない。単純に、どちらも許されないというだけだ。

良識ある大半の人は嘆いている。たとえSNSでも、なぜ、ミランもナポリもサッカーも知らない、この世に生まれてまだ1年の子どもの死を願えるのか、と。そこに希望を見いださなければならない。

CL準々決勝セカンドレグは18日に行われる。前日にはミランの宿泊ホテルの前で、一部ナポリサポーターが罵倒チャントを浴びせたという。『fanpage』は、特に標的となったのはテオと報じた。

久しぶりのイタリア勢の躍進、準決勝進出が決まる同国対決の大一番と、セカンドレグは国際的にも注目度が高い。健全な好試合になることを願うばかりだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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