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「0-0より5-4」 インテルが挑む究極の目標、2年目のコンテが目指すは「美と結果の両立」

中村大晃カルチョ・ライター
9月26日、セリエAフィオレンティーナ戦でのコンテ監督(写真:ロイター/アフロ)

ダービーに負けて喜ぶ者はいない。4年ぶりの黒星となればなおさらだ。ただ、傷はそれほど深手ではないかもしれない。

10月17日のセリエA第4節で、インテルはミランに1-2と屈した。新型コロナウイルスから回復したズラタン・イブラヒモビッチにドッピエッタ(2得点)を許し、ロメル・ルカクが1点を返すも及ばず。2016年1月となるダービーでの敗戦となった。

前節でラツィオ相手に逃げ切れず、1-1と引き分けていたインテルは、4節を消化して勝ち点7。アントニオ・コンテ監督にとっては、近年にないスロースタートだ。ユヴェントスやチェルシー、インテルでの昨季は常に開幕4試合で勝ち点8以上を記録していた。

インテルはユヴェントスと並ぶ優勝候補だ。夏の補強とユーヴェの監督交代で、優勝候補筆頭に推す声も少なくない。それだけに、首位ミランと5ポイント差の6位では、不本意なシーズンスタートと言えるだろう。

◆難局で迎えたダービー

ただ、ダービーに関しては情状酌量の余地がある。インテルは万全の状態になかったからだ。

代表戦の影響やステーファノ・センシの出場停止に加え、新型コロナウイルス感染でアレッサンドロ・バストーニやミラン・シュクリニアル、アシュリー・ヤング、ロベルト・ガリアルディーニ、ラジャ・ナインゴランと、少なくない主力が欠場を余儀なくされた。

一方で、ミランはイブラヒモビッチが新型コロナから、アレッシオ・ロマニョーリが負傷から復帰。チームはロックダウン以降の好調を維持している。ダービー勝利でリーグ唯一の開幕4連勝。ミランではファビオ・カペッロが率いた1995-96シーズン以来となる記録だ。

優勝候補に言い訳は許されない。コンテやチームも「仕方なかった」とは決して思っていないだろう。それでも、ショッキングなダービー敗戦ではなかった。

◆9年ぶりの失点数

だが、ダービーを落としたことよりも不安要素なのが、失点の多さだ。

ミラン戦ではバストーニの代役を務めたアレクサンダル・コラロフが散々の出来だったが、彼ひとりの問題でないのも事実だ。4試合でインテルは8失点している。

これは、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ体制で開幕を迎えた2011-12シーズン以来となる。当時は4試合を終えて勝ち点4。監督交代などで混迷し、最終的に6位だった。

筆者作成
筆者作成

もちろん、4試合での失点が最終順位に直結するわけではない。2012-13シーズンは開幕4試合で3失点ながら9位だった。2014-15シーズンは1失点だったが、8位に終わっている。

しかし、近年、4位以上で終えた4シーズンのうち、3シーズンは開幕4試合で1失点。唯一の例外となる2018-19シーズンも4失点だった。

コンテ体制1年目の昨季と比較しても、違いは明白だ。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、1試合平均の被枠内シュートは約2本増。相手のゴール期待値は約3倍だ。より多くのシュートを打たれ、より多くの得点機会を許しているということになる。

10月19日付『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙参照、筆者作成
10月19日付『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙参照、筆者作成

◆指揮官が目指す道

それでも、21日のチャンピオンズリーグ開幕戦を前に、コンテは守備に対する不安はないと主張した。もちろん、バランスを取り、失点を減らす必要はある。だが、今季は前への意識、より多くのゴールを奪う姿勢で臨んでいるのだ。

第3節ラツィオ戦の前日会見で、コンテは「0-0と5-4で選ばなければいけないなら、5-4で勝つほうが良い」と話している。

「自分たちの仕事を続け、自分たちがしていることを信じなければいけない。(批判に)左右されず、積極的であろうと努め、見ている者に何かを与えようとしなければならない。そしてできれば勝てるようにね。とにかく、我々の目標は美しさでもある。サッカーの美を際立たせることでもあるんだ」

結果重視のイタリアでは、負けないことが求められてきた。だが、それが地位と結果の低下を招いた一因との指摘も多く、変化を目指す向きもある。

近年躍進を続けてきたガスペリーニ率いるアタランタや、ロベルト・デ・ゼルビの下で好調のサッスオーロはその例だ。3位アタランタはインテルを上回る9失点。2位サッスオーロもトップ7でアタランタ、インテルに続く6失点している。だが、評価は高い。

それでも、インテルとアタランタやサッスオーロでは目標が異なるのも否めない。指揮官が否定しても、今季のインテルに求められているのはタイトルなのだ。失点が減らず、順位が上がらなければ、周囲からの重圧は、左右されずにいられないレベルとなる。

結局のところ、コンテは美と結果の両立という難題に挑戦したことになる。どこよりも守備と結果にうるさいカルチョの国で、コンテはこの挑戦に打ち勝てるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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