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インテルに忖度ゼロのコンテ、組織へのかみつきは「キレ芸」? 賭けの行方に注目の欧州戦へ

中村大晃カルチョ・ライター
8月4日、ELヘタフェ戦前日練習でのコンテ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

高く評価されるアタランタを下し、9連覇を遂げた王者に勝ち点1差の2位でセリエAを終えた。勝ち点82は伝説の3冠達成時と並ぶポイント。黒星と失点数はリーグ最少で、得点数もリーグ2位。タイトルには及ばなかったが、インテルは堂々のシーズンフィニッシュだった。

だが、彼らを取り巻く空気は重い。試合後にアントニオ・コンテ監督がクラブを公然と批判したからだ。内容はすでに報道でご存じの方も多いと思うが、要点を列記すれば、以下となるだろうか。

  • クラブが自分と選手を守らなかった
  • インテルはピッチ外で「弱い」クラブ
  • 話す必要のある会長が中国にいる
  • 今になって勝ち馬に乗ってくるのは不満
  • メルカート(チーム編成)の問題ではない
  • 前任スパレッティも同じことを主張していた

◆多くのクエスチョンマーク

コンテがクラブに怒りを表したのは確かだが、具体的に何に対する批判なのかは見えにくい

庇護がなかったという主張は、批判の集中砲火を浴びることも多いことを考えれば一理ある。ただ、マスコミやファンからの批判なら、ユヴェントスのマウリツィオ・サッリの比ではない。優勝という結果にもかかわらず進退が騒がれることを考えれば、サッリに対する重圧はコンテのそれ以上だ。

レジェンドOBのジュゼッペ・ベルゴミが指摘したように、「勝ち馬に乗る」のくだりにも疑問符がつく。コンテ自身が「2位は敗者のトップ」と表現しており、今季の出来は「勝ち馬」ではないからだ。

近年最高位という結果を「勝ち馬」とした場合でも、誰のことを指しているかが分からない。ホペイロや理学療法士、レレ・オリアーリには賛辞を寄せたことから、“標的”とみられているのが、ジュゼッペ・マロッタCEOやピエロ・アウジリオSDだ。

ただ、前述のように「メルカートではない」と発言しているため、(少なくとも公の場では)チーム編成の問題ではない。ルチアーノ・スパレッティ前監督の2年前の発言を持ちだしたため、いわゆる情報漏洩問題を指摘する声もある。直近でもマルセロ・ブロゾビッチの騒動が報じられた。

しかし、“スパイ”がいるとして、それが誰なのかをコンテは把握しているのだろうか。

特定できているのに排除されないのであれば、怒るのはもっともだ。ただ、インテルにおける漏洩問題は古くからあり、現オーナーや現フロントだけの責任なのか、悪い意味でのクラブ文化なのかも明白にする必要がある。

“ネズミ”が誰か分からないのであれば、フロントも困っているはずだ。管理責任はあるだけに、犯人捜しをしていなければ、不満は理解できる。「勝者のクラブのメンタリティー」を知るマロッタが放置するとも考えにくいが…。

いずれにしても、それらを相談したいのに、相手となるスティーブン・チャン会長が身近にいないというのも不満のようだ。ただ、会長がミラノにいないのは、周知のとおり、新型コロナウイルスの影響であり、会長やオーナーの蘇寧グループの意向ではない。

◆クルヴァは支持も、否定的評価多数

もちろん、一方で、コンテの指摘が現実の課題であることも事実だ。情報漏洩があってはならないし、クラブはできるだけ現場を守るべきだろう。会長と密に連携できるに越したことはないし、ピッチの上だけでなく外でも強くなければ、タイトルにたどり着けないのも主張のとおりだ。

実際、ウルトラスは「真のインテリスタとクルヴァはコンテとともに」という横断幕を掲げている。

ただ、一定の満足感でリーグ戦を終えた直後、かつヨーロッパリーグ(EL)が残っているタイミングでの激白、名門インテルを「弱い」と断じた物言い、何よりも世界的企業である蘇寧グループのメンツを汚したことへの批判は少なくない。

『ガゼッタ』のアンドレア・ディ・カーロ記者は、偉大な監督はリーダーであり、「リーダーはテレビ中継で内部に亀裂を生まない」と指摘。トップクラスの指揮官には、報酬や勝利だけでなく、「マネジメント力やクラブと一緒に進む力」が必要とし、「その点でコンテは限界を示している」と記した。

同じ『ガゼッタ』のステーファノ・バリジェッリ編集長は、「給料を払う者の手をかむのは最悪の模範」と指摘。ほかにも、選手やフロントが公にコンテを批判するのと同じと指摘したマリオ・スコンチェルティ記者など、識者からは雇い主を貶めたことへの批判が相次いだ。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』電子版のアンケートでは、1万5000人弱のユーザーのうち、約78%がコンテのクラブ批判は間違いだったと回答。『Calciomercato.com』では、4000人超の約4割が「すべてを間違えた」と答えている。「正しいがやり方は間違い」の約35%と合わせると、約75%のユーザーがコンテの激白を否定的に評価した。

◆“キレ芸”も含めてのコンテ?

コンテがクラブにかみつくのは、これが初めてではない。シーズン中も、チーム編成やリーグ内部での政治力など、様々な点でインテルを批判してきた。そもそも、インテルだけではない。コンテは指導者になってから、事あるごとに雇い主や上司と衝突してきた。

もちろん、経験豊富なコンテがただキレているわけではないだろう。自身の考えを通すための行動であることは間違いない。今回であれば、チームやスタッフの人事にも口を出す権限、つまり「現場監督」ではなく英国流の「マネージャー」という立場を狙っているとの声もある。いずれにしても、コンテの怒りは、組織をぶっ壊して自分のイメージに近づけるための“キレ芸”というわけだ。

そして、ファブリツィオ・ボッカ記者が『レプッブリカ』で「これが彼のやり方だと周囲が分かっていないことに驚く」と記したように、コンテを雇うなら今回のような爆発を覚悟しておくべきとの声もある。バーリとシエナで仕事をしたジョルジョ・ペリネッティも、『コッリエレ・デッロ・スポルト』で、コンテの目的が「自分についてくるようにクラブを刺激」することだったと話した。

だが、ペリネッティは「ああいう発言を一定で繰り返せば、クラブを困惑させることになる。勝利にたどり着くための時間を短くするよりも、長くしてしまう恐れがある。毎回亀裂を修復する必要があるからだ」と、やり方を間違えれば逆効果とも指摘している。

インテル専門サイト『FC Internews.it』によると、スコンチェルティ記者は『コッリエレ・デッラ・セーラ』で、コンテが「無理やり、政治なしで」クラブ改革をしようとしていると指摘。「見てもらうためにグラスを壊すのだが、彼は壊すグラスが多い」と記した。

◆一歩後退も去就はシーズン後に先送りか

激白から2日後、コンテは『ANSA通信』で「3年計画と結婚」と、インテルへの“忠誠”を強調した。会長ともビデオ会議し、ELに集中することで意見が一致したという。各メディアは、コンテが一歩後退したと報じた。ただ、進退問題はシーズン終了後のオーナーとの協議次第と言われている。

『ガゼッタ』電子版のアンケートでは、8月5日時点で2万6000人のユーザーのうち、約59%がシーズン後にコンテとインテルが“離婚”すると回答した。

『TUTTOmercatoWEB』では、3000人超のユーザーのうち、約41%が「解任すべき」と回答。約23%が「クラブが満足させるべき」、約20%が「ともに前進を続けるが公に謝罪を求めるべき」、約16%が「何もなかったフリをすべき」と答えている。

いずれにしても、コンテの真の狙いは、コンテにしか分からない。ただ、「ユヴェントス復帰に向けて解任されるのが目的」という、誇り高き闘将に似つかわしくない戦略でない限り、欧州の舞台で結果を残すことが有利に働くのは確かだ。優勝すれば、監督として初の国際タイトルにもなる。

逆に、8月5日のヘタフェ戦で敗退することになれば、直前に嵐を巻き起こしたことへの批判は避けられない。少なくともリーグ最後の3試合をうまく締めくくっていただけに、なおさらだ。

勝てば立場は強化されるが、負ければ評価下落が不可避。コンテの賭けは、どちらに転ぶだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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