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イブラヒモビッチ、CEO非難に「エゴイスト」の声 ミランに必要な「過去との決別」に?

中村大晃カルチョ・ライター
2月22日、セリエA第25節フィオレンティーナ戦でのイブラヒモビッチ(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

カルチョ再開初戦でユヴェントスと引き分けたミランは、コッパ・イタリア準決勝敗退が決まった。今季はタイトルの可能性が消滅。目指すはセリエAでの上位浮上、ヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得となる。

◆大一番の直前に内輪揉め

試合の2日前、練習場ミラネッロでの出来事が世間をにぎわせた。一部の選手、特にズラタン・イブラヒモビッチが、アイヴァン・ガジディスCEOを激しく非難したとのニュースが出回ったのだ。

報道によると、ガジディスは新型コロナウイルスの影響を受けてのサラリー減額について、チームの希望条件をオーナーの投資ファンド「エリオット」が承認したと伝えたようだ。

だが、練習再開後もミラネッロに足を運ぶことのなかったガジディスが、顔を見せた途端に金の話をしたことを機に、一部から疑問の声があがったという。特にイブラヒモビッチは「もうオレの知るミランじゃない。プロジェクトがない」と、面と向かって上層部を批判したと伝えられている。

エリオットの意向をくむガジディス主導のクラブ運営が、ズボニミール・ボバン解任をはじめとする技術部門との衝突につながっていたのは周知のとおりだ。ボバンとパオロ・マルディーニに説得され、ミラン復帰を決めたイブラヒモビッチは、ガジディスのやり方に懐疑的とみられていた。

◆揺れる現チーム

実際、ラルフ・ラングニック招へいの動きが長く続き、ステーファノ・ピオーリ監督を筆頭とする現チームを揺るがしているとの声は少なくない。

特に、若手重視路線への完全切り替えが見込まれるなか、ベテランのイブラヒモビッチやジャコモ・ボナヴェントゥーラといった選手、そしてピオーリ監督らは退団が既定路線とされている。

クリスティアーノ・ルイウ記者は、『Calciomercato.com』で、シーズン終了に近づくにつれて「多くの選手や指導者、幹部が別れの空気を感じることになる」と指摘。「この解体の雰囲気の中で集中とモチベーションを保つのは本当に難しい」と懸念を示した。

さらに、同記者は、イブラヒモビッチがシーズン終了までの契約延長に応じない可能性にも触れた。現契約は6月30日までだが、コロナ禍でシーズンが延長され、特例的な短期間の契約延長が必要となる。ルイウ記者は、その延長をイブラヒモビッチが受け入れるか分からないとしたのだ。

◆「良くない終わりは当然」?

しかし、今回のイブラヒモビッチの行動には、批判の声も少なくない。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、一部の選手がイブラヒモビッチの姿勢をよく思わなかったと伝えている。

ミラン専門サイト『Milannews.it』によると、マリオ・スコンチェルティ記者は『コッリエレ・デッラ・セーラ』で「プロジェクトを知りたいなら、ガジディスとオフィスで直接対面して話せる」と指摘。サラリー問題の解決発表の日に、ロッカールームの中で、チームの前で話し合うべきではなかったと記した。

「正しくない。どんな不服があろうと、給料を受け取るということは、形式への尊重も伴うのだ」

さらに、『Milannews.it』のアンドレア・ロンゴーニ記者は「個人的な闘いを進める機会として生かし、その週の大切なことを無視して、エゴイストなところを見せた」と、大事な試合前に問題をつくったのはイブラヒモビッチのほうだと酷評している。

「彼の不満爆発は、チームの集中を守るどころか、緊張を増させた。プロジェクトについて批判したのは、そのプロジェクトに彼が含まれないからだ。そうでなければ、(批判を)避けていたはず。どんな会社でも、労働者が代表取締役に対してこのように話せば、良くない終わりとなるのは当然だ」

また、同記者は、イブラヒモビッチの「プロジェクトがない」という批判は的外れとも主張した。

「今回はようやくミランが明確な将来へのプロジェクトを持っていることを強調しておくべきだ。好き嫌いは別にして、今回は明確で計画性がある

◆良いウソとひどい真実

ラングニック体制への移行がそのプロジェクトであるなら、繰り返しになるが、ピオーリやイブラヒモビッチは構想外となることが有力視される。

だが今回、ガジディスは、シーズン終了までの約2カ月が自分を含めた全員にとっての「テスト」だと伝えたそうだ。誰しもに来季続行へのチャンスがあるという。

これに対し、アンドレア・ディ・カーロ記者は、『ガゼッタ』で、「イブラのような選手に、38歳になって『将来のことは今後2カ月にかかる』と言うのは最高じゃない」と指摘している。

また、同記者は監督人事についても「いつものジレンマだ」と疑問を投げかけた。

こういったデリケートなタイミングに、よかれとウソをつくのと、ひどい真実を言うのと、どちらのほうが有益なのだろうか?

◆“置き土産”と新たなサイクル

いずれにしても、内部のゴタゴタが騒がれたまま、最低限の目標も達成できなければ、クラブにとってもイブラヒモビッチ(を筆頭とするベテランやピオーリ)にとっても好ましくない。

『ガゼッタ』は、イブラヒモビッチが退団に向かいつつも、負傷からの早期復帰に意欲的と報じた。自身の手でEL出場に導き、それを“置き土産”にしようというわけだ。おそらく、クラブもその“置き土産”とともに、新たな時代を始めたいと望んでいるだろう。

前オーナーの下で技術部門を率いたマッシミリアーノ・ミラベッリは、『Tuttomercatoweb.com』で「ミランにはあまり過去を見すぎない、新たなプロジェクトが必要」と話している。

「1年だけイタリアや欧州で再び支配することなど考えられない。過去の勝利を考えすぎるのはよくない。今と未来を考えて新たなサイクルを始めなければ」

ミラン黄金期のメンバーだったボバンやマルディーニが去り、最後の優勝を知るイブラヒモビッチもいなくなれば、ある意味で過去との決別となるかもしれない。そうすることで、エリオットとガジディスのプロジェクトで、新たなサイクルをつくり出せるかは分からないが。

確かなのは、そのためにも、欧州への切符を手にすることがミランには必要ということだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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