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今季はナポリがアヤックスに? 王者撃破でCL躍進に期待、25年前は優勝の前例も

中村大晃カルチョ・ライター
9月17日、CL開幕戦で決勝点のメルテンス。ナポリ通算得点はマラドーナまで2点に(写真:ロイター/アフロ)

気が早すぎる。そんなことは、百も承知だ。だが、抑えきれない高揚感があるのもおかしくはない。なにせ、王者に勝ったのだから。今はただ、夢を見ようというわけだ。

9月17日、2019-20シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)が開幕し、ナポリは王者リヴァプールを2-0と下した。ドリース・メルテンスのPKと、新加入フェルナンド・ジョレンテのアディショナルタイム弾で、本拠地サン・パオロのサポーターを歓喜させている。

◆名将が浸透させたヨーロピアンメンタリティー

特に評価されているのが、名将カルロ・アンチェロッティの手腕だ。中でも、イタリアのチームが苦手とする「国内と欧州での戦い方の違い」、つまり“ヨーロピアンメンタリティー”を選手たちに身につけさせたと称賛されている。

ファブリツィオ・ボッカ記者は、『レプッブリカ』で「アンチェロッティがチームに与えた中でもっとも重要なのは、トライして勝負する意欲や勇気、メンタリティーだ」と記した。ミンモ・マルフィターノ記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「イタリアのチームがプレミア勢を相手にこのような戦い方をするのはまれ」と賛辞を寄せている。

チッチョ・マロルダ記者も、『Calciomercato.com』で、ナポリが「指揮官のヨーロピアンメンタリティーを身につけた」とし、王者相手でも「自分たちが劣るというコンプレックスを感じずに勝負することを望んだ」と、アンチェロッティをたたえた。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』のイヴァン・ザッザローニ編集長は、「アンチェロッティはカップ戦にふさわしい監督だ。それはステレオタイプではない」と書いた。「欧州より国内リーグ向き」と言われ、「ステレオタイプ」と反論したインテルのアントニオ・コンテ監督が、CL初戦で格下スラビア・プラハとホームで引き分けたことへの皮肉だろう。

◆成熟度テストを満点でクリア

ただ、セリエAでは開幕から2試合で7失点していたこともあり、2年目のアンチェロッティ・ナポリに対する懐疑的な目も少なくなかった。

だからこそ、王者とのCL開幕戦で堂々のパフォーマンスを見せ、完封勝利という最高の結果をもぎ取った価値は大きい。マルコ・アッツィ記者は、『レプッブリカ』で「満点でテストをクリア」「最高のレベルで競っていくだけの力があるという確信を強めた」と称賛した。

「リヴァプール戦はまず、成熟度のテストだった。ナポリはリーグ開幕3試合の不確実さを90分でほぼ完璧に吹き飛ばし、自分たちは非常に強いのだという確信をもってスタジアムを後にした」

マロルダ記者も「リーグ戦での不確実さ」に触れ、ナポリがそれを過去のものにしたと記している。

◆ナポリはどこまでいけるのか?

試合後、会見で質問に答えるかたちで、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は「ナポリは優勝も可能」と話した。優勝するのに世界最高のチームである必要はないとし、適切なタイミングで強さを発揮すること、そして少しの幸運が大切と述べている。

これを受け、ボッカ記者は自らのコラム内で「ナポリはどこまで勝ち進めるか」とアンケートを取った。まだ1試合を消化しただけと分かったうえでの、「お遊び」のような気楽なアンケートという。

765票が投じられた時点で、最も多かった回答は「準々決勝」(269票)。「準決勝」(199票)」、「優勝」(119票)、「ラウンド16」(91票)、「準優勝」(87票)と続いた。なお、ボッカ記者自身は「とても遠くまで、決勝までもいける」と予想している。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』も、識者に同様の意見を求めた。ジョヴァンニ・ガッリは「慎重さが必要」「どこまでいけるかは分からない。まだ早すぎる」としたうえで、「アンチェロッティのナポリは心をつかみ、何か大きなことを狙えると思わせる」とつけ加えた。

また、アレッサンドロ・コスタクルタは「昨季のアヤックスのようなサプライズになり得る」とナポリを評価。「未来がある」「誇張はしたくないが、かなりの道を進んでいけるのではないか。どこまでいけるかは分からないが、クオリティーはある」と続けている。

一方、マルコ・ボリエッロは「どこまでいけるかは言えない。自分に分かるのは、未来に向けて何も拒んではいけないということ。何かを信じるだけの才能はあるのだから」と答えた。

◆夢は25年前の再来

UEFAによると、前年度王者が初戦で敗れたのは、1994年のミラン以来。敵地でアヤックスに敗れている。その時のスコアは、2-0。今回のナポリ対リヴァプールと同じだ。そして、1994-95シーズンのCL決勝の顔合わせは、ミラン対アヤックスだった。1-0でアヤックスが制している。

もちろん、これだけで、25年前のアヤックスのようにナポリが優勝するとは言えるはずもない。ただ、熱狂的な街ナポリだけに、そんな夢を見るのも悪くないだろう。ボッカ記者はこう記している。

「ナポリのシーズンは、甘美な思考や多くの夢に満ちている。やや向こう見ずかもしれないが、冷静さや自制は要求できない。そうでなければ、サッカーはこんな素晴らしいお祭りじゃないはずだ」

昨季のナポリは同じグループステージでリヴァプールを下したが、決勝トーナメントに進めず、そのまま勢いを失ってシーズンを終えた。再びリヴァプールを――王者を――倒したナポリは、今季どこまで勝ち進めるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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