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「時限爆弾」イカルディを抱えるインテル、和解望む声も 「正しい戦争より間違った平和」

中村大晃カルチョ・ライター
5月26日、セリエAエンポリ戦でのイカルディ。このままクラブとの対立は続くのか(写真:ロイター/アフロ)

1カ月後に移籍市場が閉まっても、事態に進展がなかった場合、インテルとマウロ・イカルディはどのような道を選ぶのだろうか。

昨季途中にキャプテンマークをはく奪されて以降、インテルとイカルディの間には埋まらない溝が生じた。アントニオ・コンテ監督を招へいし、新体制となったインテルは、7月にイカルディとラジャ・ナインゴランの構想外をメディアのインタビューで“発表”。公開戦力外通告は議論を呼んだ

ナインゴランは、がんと闘病中の妻のための環境も考え、古巣カリアリに復帰することを選んだ。だが、同じように家族を重視するイカルディの去就は決まっていない。ユヴェントス、ナポリ、ローマの関心が報じられるが、進展がない状況だ。

◆前線の編成が停滞

インテル首脳陣は、頭を抱えているだろう。イカルディの放出が進まなければ、公開戦力外通告は一部で言われたように「自傷行為」の失策だったと言われる。おまけに、売却できなければ、補強への影響も不可避だ。ここまでコンテ監督が求めた補強は実現していない

ロメル・ルカクはマンチェスター・ユナイテッドとの交渉が難航し、パウロ・ディバラとのトレードというかたちで宿敵ユーヴェにさらわれるかもしれない。エディン・ジェコを巡る交渉も、ローマが代役を確保しない限りは打開できない状況だ。

ローマはゴンサロ・イグアインの獲得を望んでおり、ストライカーたちを巡る状況は、複雑に入り組んでいる。確かなのは、ルカクのユーヴェ移籍が実現すれば、イカルディがイタリア王者に向かう可能性はなくなるということだ。

◆ナポリは理想的との見方も

インテルOBのアレッサンドロ・アルトベッリは、8月2日付の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で、ルカクがユーヴェに移籍した場合、イカルディは「戦略を変えなければいけない」とコメント。開幕が近づけばサッカーへの意欲も増すはずとし、ナポリかローマのオファーを受けるべきと述べた。

ナポリでディエゴ・マラドーナと栄光を手にしたブルーノ・ジョルダーノも、同日の『コッリエレ・デッロ・スポルト』紙で、現在のナポリは「イカルディにとって理想的」と分析している。

フィニッシャーとして優秀だが、チームのプレーに絡まないイカルディが好みではないというジョルダーノだが、ナポリのカルロ・アンチェロッティ監督がミラン時代にフィリッポ・インザーギを指導したことに着目。名将の下でイカルディが活躍する可能性はあるとした。

◆約6割のファンは和解希望も…

ただ、放出も補強も進まないのだから、ひとつの疑問も浮かび上がる。過去を水に流すことができれば、すべて丸く収まるのではないか、と。つまり、イカルディを再び戦力に含めれば、インテルは彼の売却、そして少なくともひとりのストライカーを獲得する労を減らせるはずだ。

実際、『ガゼッタ』紙は8月1日に電子版で、イカルディを構想に戻すべきかをアンケート。6000人を上回るユーザーのうち、59%強のサポーターが「イエス」と回答した。また、『コッリエレ・デッラ・セーラ』紙も、同日の電子版で「サポーターの間に和解派が増加」と報じている。

もともと、イカルディとの和解を推す関係者は以前から存在する。ルカク獲得が今ほど絶望的でなかった7月の時点で、元オーナーのマッシモ・モラッティは、ルカクやジェコよりイカルディのほうが強いと発言。OBのロベルト・ボニンセーニャも『ガゼッタ』で「修復を目指すべき」としていた。

◆残留なら手を差し伸べるべき?

だが、インテルとイカルディに歩み寄りの姿勢は見えてこない。

現地メディアによれば、インテルは1日にイカルディと話し合い、改めて構想外を伝えたとのこと。3日には、『ガゼッタ』が、家族に短期間で引っ越しさせたくないイカルディも、あらゆる移籍先を検討せず、少なくとも1年はインテルに残ることを決断したと報じた。なお、ワンダ・ナラ夫人が妊娠しているとの噂もあり、その影響とも言われている。

イカルディが移籍せず、だが試合に出場しない状況となれば、アルトベッリは「家の中に時限爆弾を抱えるようなもの」だと指摘した。類まれなるゴールゲッターを使わずにチームが困難に陥れば、周囲はイカルディの起用を求めるようになり、その存在が監督やチームの重荷になりかねないというわけだ。

実際、インテルがリーグ戦やチャンピオンズリーグの登録リストからイカルディを外す可能性も話題にのぼっている。インテルはこれを否定したと報じられているが、一方でワンダ・ナラが法的措置を検討との噂も絶えない。

アルトベッリは、引き返すのが難しい状況としたうえで、残留が決まった場合は「正しい戦争よりも間違った平和のほうが良い」と、両者が再び手を差し伸べるべきと訴えた。

「全員が折り合いをつけるほうが良い。マウロはこんな風に台無しにはできないし、インテルは世界五指に入るFWを再び手にするんだ。1ユーロも払わずに…」

いずれにしても、マーケットは「一寸先は闇」の世界。何が起こるか分からない。インテルとイカルディの決心が揺らぐことはあるのか、なければどのような結末を迎えるのか。時計の針は、刻一刻と進んでいく。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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