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主将はく奪でイカルディ夫妻が窮地…ファンも支持のインテル決断は「歴史的分岐点」?

中村大晃カルチョ・ライター
2018年12月29日、セリエAのエンポリ戦でのイカルディ。この時はまだ腕章が…(写真:ロイター/アフロ)

吉と出るか、凶と出るか。賭けに出たことは確かだ。

インテルが2月13日、マウロ・イカルディからキャプテンマークを取り上げた。今後はサミル・ハンダノビッチが主将となる。チームは14日にラピド・ウィーンとのヨーロッパリーグ決勝トーナメント1回戦ファーストレグに臨むが、イカルディは出場しない。ルチアーノ・スパレッティ監督が、イカルディが招集に応じず、遠征に帯同しないことを選んだと明かした。

イカルディとインテルの契約延長交渉が長引いているのは周知のとおりだ。また、加入以降最長となるリーグ戦でのスランプも取りざたされていた(現在7試合無得点。PKを除けば9試合、2カ月超もネットを揺らしていない)。

◆妻の揺さぶりが裏目に出たか

ただ、シーズン途中での腕章はく奪という荒療治にクラブが踏み切ったのは、代理人でもある妻ワンダ・ナラの相次ぐ発言に、堪忍袋の緒が切れたとの見方も少なくない。

できるだけ平穏に延長交渉を進めたいインテルに対し、芸能界の人間であるワンダ・ナラは、メディアが飛びつくような発言で揺さぶりをかけてきた。さらに、今季からはサッカー番組にもコメンテーターとして出演。次第にクラブやチームをいら立たせる発言も飛び出すようになった。

特に直近は、冬のマーケットで去就問題の渦中にあったイバン・ペリシッチに「個人的な問題」があると述べ、インテル内部の“反イカルディ派”の存在をほのめかすような発言もあった。そしてつい先日には、契約延長よりもイカルディにボールを供給できる選手の加入を望むと口にしたのだ。

当然、チームメートの中には、ワンダ・ナラの発言にフラストレーションを感じていた者もいるだろう。実際、ジャンルカ・ディ・マルツィオ記者は、『スカイ・スポーツ』で今回の決定は契約延長問題と無関係であり、チーム内部のマネジメントのためと伝えている。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』は、ペリシッチやマルセロ・ブロゾビッチといったスラブ系の選手たちとイカルディの関係が以前から良くなかったとし、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、直近のイカルディが練習場で食事する際に孤立していたと報じた。

ワンダ・ナラとしては、マネジメント対象であり、夫でもあるイカルディを守るための言動だっただろう。だが、それが裏目に出たとみられているのだ。

◆歴史的な分岐点に?

それでも、インテルの今回の決断に驚きの声もある。インテルには以前からよく言えば家族的、悪く言えばなれ合いのような空気があったからだ。マリオ・スコンチェルティ記者は、『calciomercato.com』で「伝統的に危険な親密さ、家庭主義があった」と記している。

アルベルト・ポルヴェロージ記者も「正直、インテルらしくない決定」としたうえで、「未来のインテルにとって歴史的な分岐点となる決定」「今日からインテルと交渉する者は、真のクラブを相手にすることとなる。以前は違った」と、“聖域”を許さないことにしたクラブの姿勢を評価した。

もちろん、元ユヴェントスのジュゼッペ・マロッタが加わった影響は大きいだろう。スコンチェルティ記者は「インテルがマロッタを選んだのは、選手を見つけるためだけでなく、インテルを導く人間を手にするためだった。そうじゃなければ、“ワンダ・ナラのインテル”になってしまう」と綴っている。

◆サポーターや識者からもクラブ支持の声

サポーターもクラブの決断を支持しているようだ。『ガゼッタ』のアンケートでは、3万5000人超のファンのうち、87%がクラブの決定が正しいと回答。『スポーツ・メディアセット』でも、4万6000人以上のうち77%が正しかったと答えている。

『メディアセット』では、イカルディがラピド・ウィーン戦の遠征に帯同しなかったことについてもアンケートを取っており、3万6000人超の84%が「非常に深刻で処分すべき」とした。

識者からもインテルの対応を評価する声が上がっており、OBのアルド・セレーナは『メディアセット』で「腕章を受けるのは名誉と責任を引き受けるということ」「自分や他の平穏を危険にさらして、シーズン中にサラリーアップを要求してはいけない」と、クラブの決断を称賛している。

スコンチェルティ記者は「イカルディが毎年待遇改善を求めるのは普通のことだ。それは受け入れられる」と、世界有数のゴールゲッターがふさわしいサラリーを望むことに理解を示した。

そのうえで、同記者は「受け入れられないのは、それでクラブやチームを屈服させること」「ワンダ・ナラが(イカルディにボールを供給する選手を見つける必要があると)言ったときに、そんな発言をチームの誰も受け入れられないことはよく分かったはずだ」と続けている。

アンドレア・ディ・カーロ記者は、『ガゼッタ』で「イカルディは5つのことを理解すべき」と指摘。「今回の決定に再考はない見込み」「監督もクラブに同意している」「多くのファンも賛成」「チームがある種の振る舞いにうんざりしている」「(年明けの罰金を巡る報道に怒りを表していたが)今回メディアは関係ない」と伝えた。

◆劇薬を用いた結末は…

ファブリツィオ・ボッカ記者は、『レプッブリカ』で「特に好感を抱いてはいい。むしろ、行き過ぎで、家庭と仕事を混同させている。だが、『スキャンダラスなワンダ』でも、かのライオラたちとそう変わらない。むしろ、ライオラたちのほうがもっと不謹慎と思う」と、“代理人ワンダ・ナラ”のような存在はほかにもいると指摘している。

それでも、今のイカルディとワンダ・ナラに対する風当たりが強いのは確かだ。2015年夏から3年半にわたって腕章を巻いたエースは、かつてないほどにインテルでの今後が不透明となった。

ファンから絶大な支持を集めるも、クラブに望まれず、スパレッティと対立したローマの英雄フランチェスコ・トッティは、現役引退を余儀なくされた。ライオラとクラブが衝突し、多くのサポーターの怒りを買いながらも契約延長に至ったジャンルイジ・ドンナルンマは、現在ミランで絶好調だ。イカルディには、どんな結末が待っているのだろうか。

そしてまた、劇薬を使った以上、クラブとチームも重圧にさらされる。これまで以上に結果を求められるのは不可避だ。まずは、元主将がいない中で迎えるラピド・ウィーン戦が注目される。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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