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ミラン、ピオンテクはシェフチェンコの再来? 衝撃デビューの高揚に黄金期を懐古

中村大晃カルチョ・ライター
1月26日、セリエAのナポリ戦でミランデビューを飾ったピオンテク(写真:ロイター/アフロ)

わずか2試合、いや、1試合ちょっとでこれほどのインパクトを残すとは驚きだ。冬の移籍市場でミランに加わった新エースのクシシュトフ・ピオンテクが、衝撃のデビューを飾った。

本拠地サン・シーロでの“お披露目”は、1月26日。セリエAのナポリ戦で71分から途中出場し、得点こそなかったが好印象を残した。この時点で「3500万ユーロ(約44億円)の価値あり」との声も聞こえたが、同じナポリと戦った3日後のコッパ・イタリア準々決勝でさらに周囲の度肝を抜く。

先発デビューにもかかわらず、ピオンテクは前半11分に相手の守備の乱れを突いて先制点を奪取。移籍後初の枠内シュートでネットを揺らすと、27分にはワールドクラスのDFカリドゥ・クリバリをやすやすと振り切って追加点を挙げた。

◆驚異の得点力でハートをわしづかみ

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、先発デビュー戦の27分間でドッピエッタ(2得点)というのは、ミラン史上3位の早さ。トップ5のそのほかの選手は、いずれも1950年代以前のオールドプレーヤーであり、ピオンテクの名前はひときわ目立つ。

期待を裏切ったゴンサロ・イグアインの代役として加入した23歳が、サン・シーロのミラニスタを熱狂させたのは言うまでもない。すでに、ウルトラスは新たなチャントをピオンテクにささげている。

ジェノア時代からゴールを量産してきたピオンテクは、イタリアで1年目ながら23試合で21得点をマークしている。89分ごとに1得点という驚異のペースだ。『スカイ・スポーツ』によると、“怪物”ロナウドでもインテル1年目は23試合消化時点で17得点だった。最終的に34得点した怪物超えの期待も懸かる。

◆数々のレジェンドたちとの比較

数字だけではない。ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督が「彼が生み出した」と話した2点目に見せたスキルは、多くの記者たちをうならせた。

マリオ・スコンチェルティ記者は『コッリエレ・デッラ・セーラ』で、「2点目の最初に見せた動き方ができるのは、筋肉の中に音楽があるとき。テンポと力を組み合わせられる場合だけだ」と表現。ガブリエル・バティストゥータを彷彿させると称賛した。

アンドレア・スキアンキ記者は、『ガゼッタ』で「シュート精度、前線での動き方、相手に対するフィジカルと、シェフチェンコを思い起こさせる」とコメント。「この上なく高いレベルにたどり着くだけの運動能力と技術がある」とし、アンドリー・シェフチェンコと比較した。

ミランOBのエルナン・クレスポや、元副会長のアドリアーノ・ガッリアーニ、長年ミランを追っているカルロ・ペッレガッティ記者など、シェフチェンコの名前を口にした大物は少なくない。

ほかにも、ピオンテクは様々なレジェンドたちと比較されている。クレスポは自分にも似ている点があると認め、ジャンカルロ・パドヴァン記者は、『Calciomercato.com』で最終ラインぎりぎりからゴールを狙う姿がフィリッポ・インザーギのようだと記した。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』に至っては、「シェフチェンコの動き、クレスポの冷静さ、トマソンのフィジカル、ノルダールのパワー」と、ガットゥーゾ監督も口にしたヨン・ダール・トマソンや、伝説のOBグンナー・ノルダールにも通じるところがあると絶賛している。

確かなのは、アレッサンドラ・ゴッツィーニ記者が『ガゼッタ』で記したように、「以前から探していたゴールの宝石が見つかったかもしれない」ということだ。スコンチェルティ記者は「まだ皇帝が誕生したわけではない」と釘をさしつつ、「非常に興味深い選手が出てきたのは確か」と歓迎した。

そして何より大きいのは、スキアンキ記者が記したように、ピオンテクが「イグアインには決して入れなかった場所、ミラニスタのハートに入ることができた」ことだ。同記者は「FWにとってファンの信頼を得るのは重要」と強調している。

◆ノスタルジーは止められない?

もちろん、ピオンテクのミランでの挑戦は始まったばかりだ。ステーファノ・バリジェッリ記者は「マルコ・ファン・バステンなど、厄介な比較をするのはやめよう」とコメント。「得点しなかったからといってすぐ批判してはいけない」と、ピオンテクに必要な時間を与えることが大切と訴える。

ただ、ピオンテクの衝撃デビューで圧倒的な高揚感に包まれる今のミラニスタに、黄金期へのノスタルジーを感じるなというのは難しいだろう。ピオンテク以外にもレジェンドと比較される選手たちがいるだけになおさらだ。

もうひとりの冬の新戦力ルーカス・パケタは、プレースタイルこそ違うが、同じ21歳でブラジルから来たとあり、カカーのような飛躍を期待されている。チーム得点王のパトリック・クトローネは、シェフチェンコとコンビを組んだフィリッポ・インザーギの後継者とも言われる。

ガットゥーゾ監督が否定的だけに、ピオンテクとクトローネの共存は、少なくとも当面はないだろう。だが、『ガゼッタ』のセバスティアーノ・ヴェルナッツァ記者は、ピオンテクの背後にスソとパケタを並べる4-3-2-1、ミラン黄金期を彷彿させる「クリスマスツリー型」の採用を提案している。“あの頃”のミランの再来を願う人は少なくないということかもしれない。

現在のクラブでは、レオナルドやパオロ・マルディーニといったレジェンドたちも幹部を務めている。ピオンテクを旗頭に、ミランは今度こそ復活へと羽ばたくことができるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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