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ボヌッチは1年、イグアイン半年…ミラン、ピオンテクは真の「救世主」になれるのか?

中村大晃カルチョ・ライター
2018年11月25日、サンプドリアとのダービーでゴールを決めたピオンテク(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

鳴り物入りで王者から加わり、キャプテンマークを巻いた男は、自らの決断を後悔したかのように、わずか1年で古巣へ去った。入れ替わるようにやって来た類まれなるゴールゲッターは、それよりさらに早くスーツケースをまとめつつある。

◆2シーズン連続で大物が期待外れ

シルヴィオ・ベルルスコーニの時代が終わり、新たに生まれ変わったミランは、2017年夏にユヴェントスからレオナルド・ボヌッチを獲得した。6連覇を遂げたユーヴェの大黒柱の一人が加わり、ミランのファンが沸いたのは言うまでもない。

だが周知のように、新チームの象徴として腕章まで託されながら、ボヌッチはクリスティアーノ・ロナウドが加わったユヴェントスへと舞い戻った。

そのC・ロナウドに追いやられるかたちでミランを新天地としたのが、ゴンサロ・イグアインだ。

大一番での決定力に難があるとはいえ、ナポリでセリエAの年間得点記録を66年ぶりに更新し、ユヴェントスでもコンスタントな得点力でタイトル獲得に貢献してきたストライカーである。絶対的な得点源が不在だっただけに、ミラニスタは新たな大物の加入に歓喜した。

それが、ボヌッチより早くチームを離れることになるとは、誰が想像しただろう。イタリアやイギリスのメディアは連日、イグアインのチェルシー移籍が内定し、正式発表は時間の問題と報じている。

9月から10月にかけて7得点と、出だしは悪くなかった。だが、10月末から2カ月にわたって無得点に終わり、その間に古巣ユーヴェ戦で気負いからPKを外したうえ、主審への暴言で退場する失態まで演じてしまう。

年内最終戦でようやくゴールを取り戻したが、テクニカル部門トップのレオナルドに会見の場でしっ責されると、以降は恩師マウリツィオ・サッリが率いるチェルシーへの移籍ばかりが騒がれた。

◆イグアイン退団を嘆く声

もちろん、スペインやイタリアで長年にわたってゴールを奪ってきたイグアインだけに、その退団を惜しむ声は少なくない。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』の動画では、ニーノ・ミノリーティ記者が「ミランのためというより、個人的なユーヴェに対するリベンジを狙った」と、ボヌッチ同様に獲得は間違いだったと主張している。

だが、ミルコ・グラツィアーノ記者は、イグアインが今季を除くイタリアでの5シーズンで、1シーズン平均29得点以上をマークしてきたことを強調。「これまでイタリアに来たことがなかったゴールゲッターであり、その獲得をどうして過ちと言える?」と訴えた。

また、マッテオ・マラーニ記者も『スカイ・スポーツ』で、「イグアインはイグアイン。素晴らしいレベルの選手」とコメント。「イグアイン退団は大きな損失。ミランの成長プロセスを遅くする」と、復活を期すミランにとってイグアイン放出は悪手との見解を示している。

◆代役候補は市場価値10倍増しの新星

しかし、報道を見る限り、イグアインの退団は確定事項となりつつあるようだ。当然、ミランは代役のストライカーをチョイスしている。イタリア初挑戦ながら開幕からゴールを量産してブレイクし、C・ロナウドに1点差で得点ランクの2位に立っているジェノアのクシシュトフ・ピオンテクだ。

半年前まで無名だったピオンテクは、守備の国イタリアでネットを揺らし続け、一躍欧州サッカー界にその名が知られるようになった。今季のセリエA最大の新星であり、現在ではあのレアル・マドリーからの関心も囁かれている。

レオナルドはすでに選手サイドと条件面で合意したとも言われ、ジェノアとの交渉を進めている。移籍金は最終的に総額で4000万ユーロ(約50億円)とも報じられており、ジェノアが450万ユーロ(約5億6000万円)で獲得したことを考えれば、10倍近く市場価値が跳ねたかたちだ。

当然、移籍が実現した場合、ミランファンの期待値は大きい。ピオンテクはそれだけのプレッシャーに耐え、前半戦同様に結果を残すことができるのだろうか。

◆「未知数」だがほかに選択肢がない?

『ガゼッタ』のG.B.オリヴェーロ記者は、ピオンテクのペナルティーエリア内での動きがアルベルト・ジラルディーノを、「どの位置からでもコーナーを見つけるうまさに、たやすく蹴ることができる」点がエルナン・クレスポを思い起こさせると、かつてミランでプレーした名選手たちと比較している。

また、ミノリーティ記者は「今のミランにはモチベーションのある選手が必要」とコメント。ビッグクラブではないジェノアからの移籍とあり、ピオンテクにはイグアインが失っていた意欲があることに期待できると主張した。

一方で、グラツィアーノ記者は「ミランはすぐに国内トップクラスに戻る必要があり、半年良かっただけでどれだけの伸びしろがあるか分からないピオンテクは今後期待の選手でしかない」とコメント。「必要なのは確実性」と、イグアインほどの“保証”がないと否定する。

カルロ・ペッレガッティ記者も『Calciomercato.com』で「未知数であり、ミラノのような重要な場所にすぐ適応できるかも分からない」と、イグアインの代役にはアルバロ・モラタがふさわしいと断じた。

マラーニ記者は「多くの攻撃的解決策を持つ選手なのは疑いない」と、ピオンテクの力を評価したうえで、「イグアインとはかなり異なる特徴の選手」とも指摘する。

しかし、同記者は「イグアインほどの力を持った選手の代役が必要なら、少なくとも素晴らしい得点感覚を持つストライカーを獲得して自分を守るものだ」ともコメント。「ほかにはこのレベルと条件の選手を見つけることができない」と、ピオンテク以外の選択肢はないとの見解を示した。

2011年を最後に(スーペルコッパを除く)タイトルから遠ざかり、その間の低迷に失望してきたサポーターは、名門ミランを復活させる存在の登場を待ちわびている。ボヌッチもイグアインもなれなかったその救世主に、ピオンテクはなれるのか。

もちろん、まずは移籍が実現するのか、その進展を見守らなければいけないが…。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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