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モウリーニョの挑発より問題はイタリアのマナー? 「バルサのサッカーを学ぶより…」

中村大晃カルチョ・ライター
11月7日、CLユヴェントス戦でのモウリーニョ監督。試合後の挑発は議論を呼んだ。(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

主審が試合終了のホイッスルを鳴らすと、マッシミリアーノ・アッレグリと握手をかわしてから、ジョゼ・モウリーニョはピッチの上で右手を耳にかざした。挑発されたアリアンツ・スタジアムのユヴェントスファンからは、当然のように激しいブーイングが浴びせられた。

11月7日のチャンピオンズリーグ(CL)で、モウリーニョが率いるマンチェスター・ユナイテッドは、敵地でユヴェントスに2-1と勝利した。先制され、主導権を握られながらも、86分からの立て続けのゴールで逆転しての白星だった。

高揚して当然の中でモウリーニョが取った行動が、元インテル監督として“因縁”のあるユヴェントスファンへの挑発だった。この2週間前にも、モウリーニョはオールド・トラフォードでユーヴェファンの挑発に3本の指で応戦している。インテル時代に成し遂げた3冠を表すジェスチャーだ。国内で最も勝利しているユーヴェも、こと3冠に関してはイタリアで唯一達成したインテルの後塵を拝す。

◆中傷にどう反応すべき?

あからさまな挑発ジェスチャーが、議論を呼んだのは言うまでもない。モウリーニョ自身、試合直後のインタビューで「すべきではなかった」と口にしている。だが同時に、試合を通じてユーヴェファンから中傷されたことも強調した。

対戦相手のファンから中傷され続けた監督は、どのように返すべきなのか。そもそも、一切反応すべきではないということだろうか。

ロベルト・ペッローネ記者は『コッリエレ・デッロ・スポルト』で、カルロ・アンチェロッティを見習うべきと主張した。9月に対戦した際に「ブタに監督はできない」など中傷されたナポリの指揮官は、ミラン時代にユーヴェとの決勝を制して手にしたCL優勝トロフィーを楽しむ」と皮肉で反論している。

アンチェロッティのように振る舞うべきだとモウリーニョの行為に苦言を呈したペッローネ記者に対し、フランコ・オルディネ記者は、同じ『コッリエレ・デッロ・スポルト』で「アンチェロッティのような聖人ぶりを全員に求めることはできない」と主張している。

◆アンチェロッティが指摘する「真の問題」

では、本人はどう考えたのか。9日の会見で、アンチェロッティは「スタンドからの中傷はそれほど耐えられないものか」との質問に、モウリーニョのジェスチャーをまねして「なんだって?」と記者の笑いを誘ってから、「ピッチに向かう我々には、試合前、試合中、試合後と責任がある」と述べた。

そのうえで、アンチェロッティは「90分間中傷されるのがうれしくないのは当然だ。だから、モウリーニョの反応はまったく理解できる。下品ではなく皮肉的なものだったしね」と擁護。「真の問題は90分の中傷をあやふやにすることだ」と指摘した。

「1、2秒のモウリーニョのジェスチャーとは違う。90分の中傷だ。ユヴェントスのスタジアムだけを言っているのではない。イタリアサッカー全般の文化だ。ナポリでもミラノでもある。もうやめよう」

パリ・サンジェルマンとナポリの2試合のように、素晴らしい雰囲気の試合はたくさんあるというアンチェロッティは、「もう口論はやめよう。もっとシンプルに、そしてできるだけ責任あるかたちでスポーツをしていこう」と呼び掛けている。

◆「スタジアムの空気を良くすべき」の声

ルイジ・ガルランド記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「夢の劇場を攻略し、まるで天国というサッカーをしているのに、相手の母親を貶める必要はあるのか。なぜ、美や誇りを捨てるのか」と、オールド・トラフォードでモウリーニョを中傷したユーヴェファンを非難。「最初のリベンジの機会に手を耳にやっただけの監督、情状酌量なしに有罪とするのは難しい」と、モウリーニョを擁護した。

さらに、ガルランド記者は、アンチェロッティが指摘したようなイタリアのスタジアムにおけるマナーの悪さを問題視。「スタジアムの空気を良くしなければ、我々全員が息苦しくなる」と主張している。

「これこそが非常事態、我々が欧州を追いかけなければいけない点だ。バルサのボール回しを学ぶのは、ずっと緊急度が低い」

イタリアのスタジアムでサポーターが相手に暴言を吐く姿は日常茶飯事だ。子どもたちの試合で大人が審判や相手選手、相手チームの監督を罵倒することを問題視する報道も後を絶たない。

時にどぎついながらもシニカルな野次は、カルチョの魅力でもある。だがそれと、単なる罵倒や中傷を続けるのは違うということだろう。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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