気象庁と環境省は、梅雨明け時期は十分に暑さになれていないため熱中症発生リスクが高くなると注意を呼びかけています。そもそも熱中症とはどのような病気で、なぜおこるのでしょうか。死に至るケースもある熱中症の「基本」とどうすれば最悪の事態を避けられるかを解説します。

病気で体温40度超 でも熱中症ではない理由は?

熱中症とは具体的にどのような病気でしょうか?

単に体温が高くなることと認識している方もいますが、これは間違いです。レース中のマラソンランナーは40度程度にまで体温が上昇することもありますし、新型コロナウイルスなどの感染症では、40度もの発熱がおこる場合があります。しかし、これらの体温上昇は熱中症と呼ばれません。また、実際に熱中症の初期でいつも体温がひどく上昇しているかというとそうではありません。

熱中症とは体温の上昇だけなく、“体温調節の破綻”が生じている状態を示します。軽快に走っているマラソンランナーや病気による発熱時にはたとえ体温が上昇していても、“体温調節の破綻”はおこっておらず熱中症とはいえないのです。

体温調節の破綻はなぜおきる?

そもそも体温は食事で得たエネルギーを燃焼させる「代謝」と代謝で生まれた熱を環境に放つ「放熱」のバランスによって決まります。では、人はどのようにして熱を放っているのでしょうか?

1つは皮膚の表面に温かい血液を流して外部に熱を放つ方法です。もう2つは汗が水蒸気になることを利用して体温を下げる「発汗」です。暑い環境では、人体は体温が一定になるように2つのシステムを駆使し続けていますが、これがうまく働かなくなっている状態が “体温調節の破綻”です。この結果、代謝で生まれた熱が体に蓄積し、体温は上がり続けてしまいます。例えば、発汗機能が衰えている高齢者が炎天下の中で散歩を続けると、代謝の熱>放熱となってしまい、熱中症の発症のリスクが高まることになります。

一方でなぜ健康な若い人でも熱中症になってしまうのでしょうか?

発汗が無意味になってしまう「無効発汗」という状態があげられます。高湿度で汗が十分気化しない状態、あるいは気密性の高い作業服やサウナスーツを着たりすると汗をかいても蒸発されず体温が下がらなくなってしまうのです。

また、脱水も体温調節の破綻をきたす原因になります。体から水分が減ると、脳への血流を保つために、皮膚血流や発汗が減少します。その結果、放熱システムの機能低下がおきてしまいます。また、大量の発汗は暑い環境での脱水の一番の原因です。つまり、放熱システムが強く働きすぎると、結果的に脱水になり、体温調節の破綻のきっかけとなってしまうのです。

どんな症状が出たら熱中症? 

多くの病気では診断基準があり、診察や検査によって病気の特定がなされ治療が行われます。しかし熱中症の場合、明確な診断基準はなく、医療関係者でも判断に迷うことが多くあります。そこで主に見られる症状をまとめてみました。

初期の熱中症の症状

1.不快感

2.目の前が真っ暗になる

3.手足のしびれなど

4.こむらがえり

5.筋肉の痙攣•硬直

6.顔面が白い

中等度の熱中症の症状

1.吐き気

2.頭痛

3.強い疲労感

4.大量の発汗

これらの症状の大部分は、体温調節のための皮膚への血流分布や発汗の急な増加による脱水によって生じています。

明確な診断基準のない熱中症を察知するには、これらの症状に加え、不調時の状況や環境の評価も重要となってきます。強い運動や労働を長時間行っていて、これらの症状が見られれば、熱中症を疑わなければいけません。しかし、軽い運動や労働を行っていても、体力的に弱く、作業になれていないような新人にとっては強い体の負荷になることも覚えておく必要があります。

この他に体温調節を破綻させるものとしては、高気温、高湿度、直射日光、地面からの照り返しがあります。また、スポーツでは防具を使うようなもの、労働時にはヘルメット、作業服、防護服の着用は汗の蒸発の妨げになるので、熱中症リスクを強める要因になります。高齢者の場合は、エアコンのついていない暑い部屋にいるだけでも熱中症を発症しうるので注意が必要です。

新型コロナ感染症の発熱と熱中症によるものはどう見分けるかと疑問を持つ方もおられると思います。このときは「汗」がポイントになってきます。熱中症が重篤になるまでには、多くのケースで多量の発汗が認められます。一方で感染症による発熱の場合、皮膚は乾燥しているという違いで見分けることができます。

熱中症になったときの対処方法は

熱中症と判断されたら、まず屋外であれば日陰の涼しい場所へ移動してください。熱中症は体温調節の破綻からおきる体調の悪化なので、自らの体温調節が有効に働く場所に移さないと改善は望めないからです。可能であれば担架など用いて、血液循環が安定する横になった状態での移動が望ましいです。クーラーの効いた部屋への移動はさらに有効です。また、扇風機などの風を利用して放熱を促進させることも忘れずにしましょう。

意識がしっかりしていて、吐き気や嘔吐がなければ、次の処置として上体を起こして10度程度の少し冷やした水やスポーツドリンクを飲ませてあげてください。このとき重要なポイントは飲水ができるかどうかです。適切な環境で飲水ができて症状が改善すれば医療機関の受診は必須ではありません。しかし、飲水ができなければ点滴を用いて脱水を治療する必要があるため、医療機関へ向かう必要があります。

予防方法は? 

熱中症の予防に最も大事なことは、環境の熱中症リスクを知ることです。高気温、高湿度、太陽光の強さなどを総合的に評価する、湿球黒球温度(wet bulb globe temperature, WBGT)と呼ばれる指標があります。専用の機器(WBGT温度計)を使った測定の方法や、日常生活や運動時など身体活動のレベルに応じた活用方法が、環境省熱中症予防情報サイト(https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php)にも紹介されていますので、ぜひ参考にしてみてください。

こまめな飲水、運動や労働が長く続く場合はスポーツドリンクの使用、塩分補給も熱中症予防に重要です。これは熱中症の引き金となる脱水予防に効果的だからです。しかし、飲水は熱中症予防の万能薬ではないので、注意が必要です。

例えば若い人で日常的に高強度の運動を行っている人では発汗能力が高く、1時間に2-3 L以上の汗をかくことが可能です。このような大量の発汗では、同時に5-10 g程度の塩分を失うことになります。日本人の平均的な一日の塩分摂取量は10 g程度ですので、これだけの量の水や塩分を補いながら運動や労働を継続することは消化管の吸収効率から考えても難しいのです。また、高齢者では、そもそも皮膚血管や汗腺の機能が低下しているため、脱水予防を心がけていても体温が短時間で上がりやすいので気をつけましょう。また、腎臓での尿の濃縮や排泄の能力が低下しており、容易に脱水になりやすく、大量の水分補給で心臓の負荷やむくみにつながりやすいことも覚えておきましょう。飲水の過信は禁物で、暑すぎる環境での運動はひかえる決断、労働時間の短縮、涼しい場所での休憩の時間をふやすなどの工夫が重要です。

長期的な熱中症対策も重要です

熱中症予防法として注目されているのが、暑熱順化と呼ばれる「暑さへのなれ」です。四季のある日本では冬を過ごすと暑さへのなれはリセットされてしまいます。その結果、夏のはじめに熱中症が多くおこります。

ではどうしたら、暑さへのなれを獲得できるのでしょうか。運動習慣が効果的で、夏前から少し暑い場所で汗をかくような運動を30分以上、できるだけ毎日続けることは有効だと考えられています。高齢者でも自分にあった負荷で、あまり暑くない時間に運動を続けることで皮膚の血管や汗腺の機能の維持に繋がるので大事です。

梅雨明けとともに気温も急上昇してきます。今のうちから少しでもいいので汗をかくような運動をして熱中症予防していきましょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】