W杯2カ月前の代表監督解任は愚の骨頂 トカゲの尻尾切りを断行したJFAには失望を禁じ得ない

ハリルホジッチ氏の解任理由を説明する日本サッカー協会の田嶋幸三会長(写真:ロイター/アフロ)

日本サッカー協会の田嶋幸三会長は記者会見を開き、サッカー日本代表のハリルホジッチ監督との契約を解除し、技術委員長の西野朗氏を新監督とする人事を発表した。

監督解任の理由について、田嶋会長は「3月のマリ戦、ウクライナ戦の後に選手とのコミュニケーションや信頼関係が薄れてきたこと、今までの様々なことを総合的に評価して、契約解除を決めた」と語った。

会見に出席した記者にはもっと解任の理由を掘り下げてほしかった。例えば、以下のように。

「今までの様々なこととは一体何なのか?何故そこをボカすのか?」

「選手との信頼関係が薄れたのであれば、本来切るのは監督ではなく、選手の方ではないのか?何故、監督の方を切ったのか?」

これらの質問に対する回答に対しても、「何故そう思ったのか?」を繰り返すことで真理に近づく。現場の記者には「なぜなぜ分析」を実行してほしかった。あんな表面的な物言いで説明責任が果たされたとは、会見映像を見た誰もが思っていないだろう。

3年間費やして構築した戦術が水泡に帰す

4年のサイクルで回るワールドカップにおいて開幕2カ月前に監督を更迭するなんて、愚の骨頂だ。

会見でライターの河治良幸氏も指摘していたが、直前に監督を変えてワールドカップ本戦でグループステージを突破した国は、32チーム制となった1998年のフランスワールドカップ以降、ゼロである(検証記事はこちら)。

私の本職である分野のシステム構築に例えるなら、長年かけて要件定義、設計、開発、テストを行ってきたパッケージ導入プロジェクトで、システムリリースまで残り2カ月の段階でちゃぶ台返しをして、カスタムメイドのシステムを突貫工事で作るようなものだ。そんなやり方でうまくいった試しがない。

ハリルホジッチ氏の場合、約3年間費やして構築してきた彼の戦略・戦術が水泡に帰したわけである。

ワールドカップ本番で「カメレオン戦術」が観たかった

ハリルホジッチ氏は対戦国の分析に定評のある監督だった。アルジェリア代表を指揮して2014年ブラジルワールドカップを戦った際は、優勝国ドイツとラウンド16で対戦し、延長戦までもつれこむ接戦を演じた。ドイツ戦でどういった準備をしたかという点について、「本が一冊書ける」と豪語していたほどだ。

32カ国の中でFIFAランキングを下から数えた方が圧倒的に早い日本代表にとっては、「自分たちのサッカー」に徹する強者のサッカーではなく、相手の弱点を突くために対戦国毎に戦術をドラスティックに変える「カメレオン戦術」の方がフィットするのは自明だ。

実際に昨年8月31日のアジア予選突破を決めたオーストラリア戦では、相手の長所を見事に消す戦術で2-0と完勝してみせたのは記憶に新しい(当時の筆者の評価コラムはこちら)。

コロンビア、セネガル、ポーランドというそれぞれ特徴の異なるスタイルを持つ3カ国に対して、ハリルホジッチ監督が試合毎にどんな戦術を繰り出してくるか、いちサポーターとして非常にワクワクしていたが、その期待も潰えてしまった。

トカゲの尻尾切りを行うJFAには失望を禁じ得ない

ワールドカップ終了後、次の日本代表監督候補を世界のマーケットで探す際に、今回の監督更迭の事実は必ずやネガティブに作用するだろう。「ワールドカップ出場というノルマを果たしても、本番2カ月前に解任されるリスクがある国」というレッテルを張られるのは確実だ。ワールドクラスの監督を招聘するのは非常に難しくなったと言える。

4年で回すPDCAサイクルも今回の件でうやむやになるだろう。長期的ビジョンの欠片もない今回の更迭劇は、様々なものを破壊してしまった。

緊急事態という言い訳を使って「トカゲの尻尾切り」として名将の首を斬り、安易に技術委員長を後任に据える日本サッカー協会には、失望を禁じ得ない。