W杯準決勝ブラジル対ドイツ 「ミネイロンの惨劇」の現場で起きていた事件とは?

ベロオリゾンテのスタジアム「ミネイロン」

W杯準決勝ブラジル対ドイツ。前半で0-5と大差がついた直後に「事件」は起きたのだった――。

僕はベロオリゾンテのスタジアム、通称「ミネイロン」のバックスタンドの2階席で試合を観ていた。ブラジルサポーターが陣取るゴール裏に近いコーナー寄りのエリアだ。観戦チケットが定価660USドル(約7万円)もするカテゴリー1のゾーンだが、90分間立ちっ放しで血気盛んに応援したい若いブラジル人と、座ってじっくり観戦したい年配のブラジル人が混在していた(ドイツ人は周りを見渡す限りいなかった)。

僕はコーナー寄りのカテゴリー1のバックスタンド2階席で試合を観ていた。
僕はコーナー寄りのカテゴリー1のバックスタンド2階席で試合を観ていた。

国歌斉唱で起立していた観客はキックオフと同時に着席するのが暗黙のルールだが、その熱血サポーターたちは試合が始まっても立って応援を続けていた。後ろのブラジル人が注意しても全く聞く耳を持たない。そんな中、早々とMFトーマス・ミュラーのゴールでドイツが先制する。その若いサポーターたちは失点にもめげずに立って応援歌を歌い続けた。

そんなブラジルサポーターの後押しもどこ吹く風と、ドイツは容赦なくブラジルゴールに襲い掛かる。前半23分、24分、26分、29分と6分間で立て続けに4ゴールを奪った。

立って応援を続けていた一人の女性は失点する度に表情が凍り付き、5失点目を喫したところで何かポルトガル語で喚き散らしながら席をあとにしてしまった。他にも頭を抱えてその場で座り込んでしまう人、胸の前で十字を切り天を仰いでいる人、とにかく多くのブラジル人が目の前で進む信じがたい試合展開を事実として受け入れられないようだった。

そして、立って応援していた若いサポーターたちに先ほどまで注意をしていた初老のブラジル人は堪忍袋の緒が切れたのか、命令口調で若者たちに怒鳴った。それを口火として、複数の人を巻き込んでの殴り合いの喧嘩が始まった。僕の2つ隣の席での出来事で、その場は錯乱状態となった。

オレンジ色の服が警備員。各所で喧嘩が勃発する度に警備員が集まっていた。
オレンジ色の服が警備員。各所で喧嘩が勃発する度に警備員が集まっていた。

喧嘩の煽りをくらい、別の若い女性が殴られた頬をおさえながら泣きじゃくっていた。すぐさま警備員が駆け付けて、喧嘩の当事者たちを連行していったため、直接的な被害を受けなかったが、間近で発生した暴力事件に僕はなす術もなかった。

周りを見渡す限り、少なくとも7~8件は警備員が1カ所に集中する騒ぎを目撃するに至った。前半終盤はそこら中でいざこざが起こり、試合観戦どころではなかった。

後半に入ってもドイツは攻撃の手を緩めず、途中出場のFWシュールレが2点を叩き込んだ。7失点目を喫した直後、周りのブラジルサポーターは一斉に立ち上がって、ドイツに対して賛辞の拍手を送った。この後、ブラジルがボールを持つとブーイングが浴びせられ、ドイツのパス回しに対して「オーレ!オーレ!」の大合唱。こんな異様な光景を見たことは、何百試合という僕のサッカー観戦歴の中でも初めてのことである。

0-7と大差がついた後、周りのブラジルサポーターはスタンディングオベーション
0-7と大差がついた後、周りのブラジルサポーターはスタンディングオベーション

後半40分を過ぎたくらいでドイツ語と英語で「ドイツサポーターは試合終了後、席に留まってください」というアナウンスが会場に流れた。スタンドの警備状況が試合運営側にも伝わったのだろう。ドイツサポーターの安全を確保するために当然の対策と言える。

後半終了間際にブラジルのMFオスカルが1点を返して、終了のホイッスル。ホスト国であるサッカー王国ブラジルが、W杯準決勝という舞台で1-7で大敗を喫したこの試合は、この先何十年と「ミネイロンの惨劇」として語り継がれることとなるだろう。

試合終了後、シャトルバスまでの道のりでは特に荒れているブラジルサポーターには遭遇しなかった。ここまで大差をつけられて、最後はドイツにスタンディングオベーションをしたブラジル人たちは、既に諦めがついているようにも感じた。帰り道でドイツサポーターが「3位決定戦のチケットあるよ」と英語でブラジル人に話しかけていたが、特にトラブルに発展する様子はなかった。

逆にシャトルバスの車内では、降りるバス停を間違えそうになったドイツ人をブラジル人が英語で話しかけて、下車する場所をアドバイスしていた。最後には「グッドラック!」とお互い声をかけ、次の試合の健闘を称え合っていた。あんな試合の後でも互いにリスペクトして交流するシーンに僕は胸を打たれた。暴力的なサポーターはごく一部であり、大半の観客は友好的な交流をのぞんでいるのだなと実感した。

錯乱、屈辱、賛辞、尊重――。

様々な思いが交錯したこの歴史的な試合に立ち会えたことを僕は光栄に思う。当然暴力は許されないが、それ程までに人々の心を奪ってしまう「サッカーの魔力」は計り知れない。僕は7月13日(日本時間7月14日午前4時)にリオデジャネイロで行われるドイツ対アルゼンチンのファイナルも現地観戦する予定だ。様々なドラマを生んだブラジルW杯がどんな結末を迎えるか、この目で最後まで見届けるつもりだ。