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どう銀行が変わると銀行持株会社が普通の持株会社になるのか

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長
すべての画像:123RF

 普通の持株会社では、子会社に銀行があっても、他の子会社の業務は制限されないのに、銀行持株会社では、銀行の兄弟会社の業務範囲が厳しく規制されるのは、不合理ではないか。

銀行の業務範囲

 銀行は最高度に規制されていて、銀行本体で可能となる業務範囲は、法令によって細かく規定されています。その狭い業務範囲は、銀行の直下に子会社を設立し、子会社の業務にすることで、多少は拡大されますが、子会社の業務範囲も、法令によって細かく規定されているわけです。

 この構造は、銀行持株会社を設立し、その傘下に銀行を入れても、原理的に変わりません。つまり、銀行持株会社のもとでも、法令上は、子会社である銀行の業務範囲は不変であり、他の子会社、即ち、銀行の兄弟会社の行える業務範囲も、基本的に、銀行の子会社の業務範囲と同じなのです。故に、少なくとも業務範囲に関する限りは、銀行にとって、持株会社化することの実益はありません。

銀行規制の根拠

 銀行は、預金取扱金融機関の代表であり、預金は、現金の現実的な存在形態、全ての商取引が決済される舞台、産業界の資金需要に応える融資の原資として、社会的に極めて重要な機能を演じていて、信用制度の基盤を形成しているために、高度な規制によって、銀行の経営基盤の安定化が図られているのです。

 この規制目的のもとで、銀行は、銀行業の本業、それに従属附随する業務、あるいは密接に連関した業務などに、業務範囲を制限されるわけです。なぜなら、銀行が銀行業と関連のない実業を営み、そのことで大きな損失を被れば、銀行の経営基盤の揺らぐ可能性があるからです。逆に、銀行の子会社、あるいは銀行の兄弟会社について、業務範囲の拡大が認められるのは、子会社や兄弟会社における損失は、銀行経営に限定的な影響しか与えないからです。

銀行の兄弟会社の業務範囲を制限する根拠

 銀行の子会社の場合、業務範囲が制限されるのは、銀行との一体性があるとみなされるからで、合理的な規制だと考えられますが、銀行の兄弟会社の業務範囲も子会社と同様な規制によって制限されることについては、不合理ではないかとの疑義があり得ます。なぜなら、銀行の親会社が普通の事業会社、あるいは普通の持株会社である場合には、銀行の兄弟会社の業務範囲を制限する規制は存在しないからです。

 こうした銀行持株会社に特有の規制は、おそらくは、銀行が先にあって、後に銀行持株会社の制度ができたときに、銀行への規制が銀行持株会社への規制へと、そのまま引き継がれたからだと思われますが、単に歴史的な経緯だけではなく、銀行持株会社については、特別に規制される合理的な理由がないわけでもないのです。

 その理由とは、銀行持株会社においては、第一に、子会社のなかでは、銀行が極めて大きな比重を占めることであり、第二に、業務範囲が金融関連事業に制限されていることから、子会社間の事業結合が強くなっていることです。第二の点において特に問題となるのは、消費者金融やリース等のノンバンク子会社と銀行との緊密な関係です。

機関銀行の問題

 機関銀行とは、少数の事業会社との間に、人的および資本的に緊密な関係を構築し、そこに融資を集中させる銀行のことであって、戦前の日本に現実に存在したものです。機関銀行の問題点は、親密先の事業会社が経営破綻したときに、銀行も連鎖して破綻する可能性が高いことで、実際、戦前には、そうした連鎖破綻の実例があったわけです。

 現在では、機関銀行は歴史的な概念にすぎないのですが、極めて特殊な事態として、銀行持株会社のもとで、銀行は兄弟会社のノンバンクの事実上の機関銀行になっています。なぜなら、規制は、銀行持株会社の業務範囲を制限すると同時に、制限された範囲内の事業については、そこに銀行が集中融資することを認めていて、実際に、銀行は子会社もしくは兄弟会社のノンバンクに集中融資しているわけです。

 これに対して、普通の事業会社、あるいは普通の持株会社を親会社にもつ銀行の場合は、親会社や兄弟会社に集中融資をすることは、それらがノンバンクであったとしても、与信管理上、不可能です。つまり、ノンバンクに関する限り、銀行持株会社の規制は緩く機能し、銀行は兄弟会社のノンバンクの機関銀行になり得るという矛盾があるわけです。

銀行持株会社の業務範囲の見直し

 テクノロジーの急速な進展が決済のあり方を変貌させていること、金融機能の中心が国民の安定的な資産形成に移行していること、単なる融資ではなく、それを超えた融資先企業への経営支援が重要になっていることなどから、銀行に求められる社会的機能が大きく変化しているなかで、銀行持株会社の業務範囲の見直しは、金融行政の重点課題となっています。

 そうしたなか、銀行持株会社が廃止されて、普通の持株会社になることは十分にあり得るのですが、そのとき、銀行持株会社傘下のノンバンクには、銀行の子会社に移行して、兄弟銀行からの融資を親銀行からの融資に切り替えるか、兄弟銀行からの融資を受けずに、独自の資金調達を行うかの選択肢しかありません。

 この場合、銀行持株会社傘下のノンバンクにとって、銀行の子会社になることは、銀行の高度な規制のもとで、ノンバンクの事業運営において様々な厳しい制約が課されることを意味し、ノンバンクを通じて銀行の制約を打破しようとするなかで、不都合な結果を招きますから、兄弟銀行からの融資に依存しない資金調達を強化するほかないわけです。

ノンバンクの資本市場における資金調達

 銀行は、預金によって融資の原資を調達するために、高度に規制されるのですが、ノンバンクは、補完的に銀行からの融資に依存するにしても、基本的には資本市場で資金調達しています。故に、銀行においては、高度な規制のもとでの法令遵守によって、経営に規律が働き、ノンバンクにおいては、安定的な資金調達の必要性によって、経営に規律が働く仕組みになっているわけです。

 銀行持株会社傘下のノンバンクの資金調達においては、銀行持株会社自体が高度に規制されているために、特例として、兄弟銀行からの融資に大きく依存することが許容されていますが、その反対効果として、リース事業などは業務範囲を制限されているのですから、銀行持株会社が廃止になることは、その制限の撤廃も意味していて、必ずしも不利ではないのです。

 また、ノンバンクの場合は、資産担保証券の発行など、融資債権等の流動化によって資本市場から資金調達できるので、銀行持株会社傘下のノンバンクにとって、銀行持株会社の廃止は、不利益よりも、利益のほうが大きいと考えられます。 

銀行持株会社を普通の持株会社にできるための条件

 一般の事業会社や普通の持株会社の傘下にある銀行においては、銀行以外の事業の規模が大きいために、企業グループ全体に占める銀行の比重は小さく、また、流通業等で、資金決済機能における本業との結合があるにしても、融資事業は、グループ内の企業と特別な関係をもたずに、実施されています。

 同様に、銀行持株会社が廃止されて、普通の持株会社になるとき、傘下の銀行は、持株会社の全事業のなかで、決定的な重みをもってはならないわけで、その比重は、様々に考え得る測定方法のなかで、どの方法によっても50%未満にまで低下させるべきです。また、銀行持株会社から転換して普通の持株会社になったとしても、銀行と他の兄弟会社とは、事業結合が強い状態のままですから、子会社間の利益相反管理に厳格性が求められるのは当然のことです。

 つまり、銀行持株会社を普通の持株会社にできるためには、傘下の子会社群について、少なくとも、ノンバンクに対する銀行からの融資の制限、銀行の比重の低下、利益相反管理の徹底という三条件を充足する必要があるわけです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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