資金調達が必要なのに、諸般の事情で困難になっている企業があるとき、そこに資金供給することは、金融の社会的機能の本質であり、同時に、投資の絶好の機会、即ちオポチュニティーなのです。

投資のオポチュニティー

 金融の社会的機能は、経済活動に伴って生起する資金需要に対して、適切なときに、適切な方法で、適切な金額の資金を供給することです。しかし、現実の金融においては、この基本的な機能が常に働いているわけではなく、産業界が資金を必要とするときに、金融界の事情により、十分に資金供給され得ないことがあります。

 こうした事態においては、資金に対する需給が不均衡になるわけですから、超過需要に対して資金供給することは、一般に、有利な条件における絶好の投資機会となります。投資の世界では、片仮名が氾濫しているわけですが、こうした機会は、敢えて英語でオポチュニティーと呼ばれ、オポチュニティーを巧みにとらえようとすることは、オポチュニスティックな投資態度といわれます。 

プレミアムを獲得する機会

 英語のプレミアムは、通常価格に対する上乗せ分を意味します。例えば、人は、普段は地下鉄で行くところでも、急いでいる、疲れている、風邪を引いて熱がある、雨が降っているなどの特別な条件のもとでは、タクシーを使うように、常態のもとでは、支払わない料金でも、一時的な非常態のもとでは、支払います。この追加的料金がプレミアムであり、プレミアムの発生する状況をオポチュニティーというわけです。

 つまり、資金調達をする企業も、一時的に、急いだり、疲れたり、風邪を引いたり、雨に降られたりしますが、そういうときは、常態における金融機能を利用できないことが多く、プレミアムを支払って、即ち常態よりも不利な条件で、非常態における金融機能を利用することになります。こうして、資金調達側がプレミアムを払うために、資金供給側に有利になるわけです。

常態における金融機能としての融資

 銀行等の預金取扱金融機関による融資は、企業にとって、常態における資金調達手段の代表例です。特に日本の場合、資本市場の規模が小さく、企業の多くは融資に大きく依存しているわけですが、問題は、預金取扱金融機関は、金融システムの根幹を担うものとして、最高度に規制されていて、その融資政策が様々に制約されていることです。

 例えば、自己資本規制は、資本の充実によって期待損失を吸収させ、金融システムの安定性を保つためのもので、損失が現実化しても、それが事前に計測された期待損失の範囲内であれば、問題はないのですが、実際には、損失は自己資本を減少させますから、将来に向かって、融資能力を低下させてしまいます。そこで、自己資本規制のもとで、預金取扱金融機関は、資本の充実を維持するために損失を回避しようとするのです。

雨が降ったら傘をとりあげる銀行

 銀行等は、晴れに傘を貸し、雨が降ったら傘をとりあげる、この揶揄は昔からあるもので、銀行等は、企業の業況のいいときには、喜んで融資するものの、何らかの事情で業況が悪化すれば、逆に融資の回収を図ろうとするという意味です。別の表現では、風邪を引いたら、食事を減らすともいいます。また、風邪を引いたら、もっと働けというのは、業況の悪化が信用リスクを増大させるので、それを反映して金利を引き上げるという意味です。

 こうした表現には、明らかに銀行等に対する批判が含まれていますが、理論的には、預金取扱金融機関としての制約のもとでは、銀行等の行動に正当性のあることを否定できません。この難問は、日本の金融では、銀行等の融資が支配的地位にあるため、景気後退期には、政治問題化しやすいという事情があって、金融行政を悩ませてきたものです。

預金取扱金融機関の限界と資本市場

 預金取扱金融機関には固有の社会的機能があり、その機能の安定的維持のために規制があるのですから、預金取扱金融機関の行動が規制によって制約されることは当然であって、預金取扱金融機関にできないことは、別の金融業態に任せればよく、そうした金融制度全体の設計と、それぞれの業態の適切な規制こそ、金融行政の真の役割であるべきです。そこで、資本市場機能の強化が金融行政の課題になるのです。

 元本保証のある預金を原資にして融資することには、規制の制約だけではなく、リスク負担力の限界もあります。それに対して、資本市場を通じた金融の場合には、元本保証がなく、諸条件は基本的には市場の競争原理で決せられるばかりか、多様な投資家の需要に応じて、株式、社債、劣後社債、優先株式、不動産等の資産売却など多様な資金調達手法を適合させることができます。特に、大きなリスク負担力をもつ投資家は重要な存在です。

資本市場のオポチュニティー

 資本市場においては、資金調達をしようとする企業は、有利なオポチュニティーを提供することで、投資家の資金を引き寄せます。逆に、資金調達する企業が有利なオポチュニティーを提供して、投資家を引き寄せる場こそ、資本市場なのです。

 ここで極めて重要なことは、オポチュニティーの提供は、投資家に有利である限り、理論的には、企業にとっては、不利な資金調達になることです。例えば、株式を発行して資金調達することは、理論的には、資本利潤率は負債金利よりも高いわけですから、銀行等から融資を受けることよりも不利なわけです。しかし、不確実な未来に賭けていくための成長資金の調達は、株式の発行によるのが最適なので、敢えて不利な調達をする、そこに投資家にとってのオポチュニティーが生じるのです。

 企業は、当然のこととして、最適資本構成の維持、即ち資本と負債の構成比を最適にすることで、資金調達に要する費用の合理化を図りたいのですから、その実現のために経営改革を急ぐ方向に動機付けられ、その結果として、企業価値が上昇するわけです。こうして、公正な市場原理のもとでは、資金運用する投資家と資金調達する企業の双方にとって、共通価値が創造されるのです。

公開資本市場の限界

 上場株式や公募社債などの公開資本市場は、不特定多数の投資家を対象にするものとして、高度に規制されていて、株式上場と公募増資、あるいは公募社債の発行により資金調達できるのは、基準を満たした少数の企業に限られます。特に日本の場合には、資本市場の発展が十分ではなく、社債を発行できる企業は少数に限られています。

 また、投資家の支持を得られなければ、資金調達は不可能なわけですが、不特定多数の投資家の支持を得ることは簡単ではありません。例えば、ある企業において、何らかの事情で自己資本不足に陥り、株式の発行による資金調達が必要になったとしても、そういう状況では株価が低迷しているはずですから、公募増資は、多くの場合、不可能なのです。

プライベートな資本市場の機能

 公開資本市場、即ちパブリックな資本市場における資金調達では、不特定多数の投資家の支持を必要としますが、特定少数の投資家だけを対象としたプライベートな資本市場では、その少数の支持が得られれば、資金調達が可能になりますし、当事者間の合意により、多様で自由度の高い手法が使われ得るのです。

 子会社株式や不動産等の資産を売却することによる資金調達は、多くの場合、プライベートな資本市場において実行されていますし、メザニン、即ち、優先株式等の資本と負債の中間的性格をもった資金調達手法は、一時的な資本不足に際して、株式価値の増資による稀薄化を避けるためのものですが、基本的に、プライベートな資本市場でのみなされています。また、プライベートな資本市場での融資は、預金取扱金融機関による融資のような制約がなく、資金調達する企業の事情に適合させることができています。

答えのない問い

 では、なぜ、日本の資本市場は発達が遅れているのでしょうか。それは、魅力あるオポチュニティーが提供されていないから、投資家が集まらず、投資家が集まらないから、魅力あるオポチュニティーが提供され得ないという悪循環が原因ですが、なぜ悪循環から脱却できないかについては、論じ尽くされていても、答えはありません。