投資といえば株式投資というくらいに、株式は投資対象の代表になっているわけですが、事業を営むに株式会社である必要はなく、事業に参画するに事業主体を所有する必要もなく、ましてや、投資持分を日々売買しなければならない理由もありません。株式会社という制度を前提にして、そのガバナンスを問題にするくらいなら、別のガバナンスを工夫すればいいのです。さて、株式を超える投資とは何か。

なぜ株式でなければならないのか

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 株式会社のように非常に古い制度が今日まで使われ続けているのは、一方で、それなりに使い勝手がいいからなのでしょうが、他方では、難点として、常にガバナンスの問題性が指摘されています。そして、ガバナンスは、常に株式会社を前提として議論されているわけですが、株式会社によらない方法で改善ができるのなら、それでいいのです。また、資金調達に様々な手法があるなかで、株式の発行が特に優れた代表的なものというわけでもなく、ましてや、上場が株式会社の目指すべきものでもないのです。

 それにもかかわらず、現実には、株式の発行と上場は企業の資金調達の主流を形成し、故に、その反対勘定として、上場株式が代表的な投資対象を形成しています。そして、その現状を前提にして、上場企業のガバナンスに関する議論が熱心に延々と展開されているわけです。

 しかしながら、本来は、金融界として、産業界の資金需要に対して、調達資金の使途等に対して最適な方法を提案し、どの方法においても資金供給者、即ち投資家の利益が守られる仕組みを考案することを通じて、金融の社会的責務を果たすことが求められているのであって、一定水準以上のガバナンスを備えた株式会社による株式の発行と上場は、確かに一つの工夫ですが、それが常に最適な方法であるはずもなく、ほかにも優れた様々な方法があり得るのです。

金融の基礎理論

 どのような事業を、どのような事業主体の構造のもとで行おうとも、事業資金が必要であり、その資金の調達における最大の論点は、事業が創出する将来キャッシュフローの不確実性を制御することにあります。

 つまり、調達資金は必ず弁済されねばならず、弁済原資は将来の事業キャッシュフローから生まれるのですから、その予測可能性が著しく高ければ、弁済計画を立てられるので、負債調達が容易にできるのですが、逆に予測可能性が著しく低ければ、弁済計画を立てることができないので、負債調達は極めて困難になるということです。そこで、金融の工夫として、純然たる出世払い、即ち弁済計画が必要ではない資金調達手法がつくられたのです。それが株式です。

 株式による資金調達部分は資本と呼ばれ、融資や社債による資金調達部分は負債と呼ばれますが、負債には事前に約定された弁済計画があるので、不確実性のもとで変動する事業キャッシュフローが大きく減少しても、最優先で利金の支払いと弁済に充当されるわけですが、その結果として資本に利益還元する原資がなくなっても、資本は出世払い、要は、あるとき払いですから、一向に差し支えありません。

 そこで、株式会社の資金調達においては、事業キャッシュフローの不確実性に応じて、著しく不確実ならば資本比率を高くして財務安定性を高め、予測可能性が高ければ負債比率を高くして資本効率を高めることが求められます。この資本と負債の比率は資本構成と呼ばれるもので、それを最適なものに保つことが財務戦略の基本中の基本なのです。

なぜガバナンス論なのか

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 いうまでもなく、出世払いにおいては、出世しなかったら株主の損失になるので、ガバナンスが決定的に重要になります。

 株式は出世払いですから、負債のような形態における弁済は不要ですが、出資額に対する利益還元が期待されているのです。利益還元は配当によるのですが、配当可能額が内部留保されて事業拡大のために再投資されるときは、将来配当の増加、もしくは株価の上昇によって、利益還元されることになるわけです。

 ところが、株式会社においては、利益還元できるだけの事業キャッシュフローを創出する企画運営も、資本構成の決定も、合理的な配当額の決定も、内部留保の効率的な運用も、全て経営者の裁量に一任されているのです。故に、株主の利益が守られるためには、経営者に対して、株式が資金調達手段であり、合理的な利益還元が求められていることについて、社会的責務の自覚を促すことにならざるを得ないのです。それがガバナンス論です。

本来は不要なガバナンス論

 しかし、なぜガバナンス論が必要なのでしょうか。出世払いにおいて、出世できる会社に投資するのが原則で、出世できなかったら淘汰されるだけではないでしょうか。

 株式を上場することは、経営者を激しい競争環境下におき、同時に厳しい監視下におくことを意味するはずです。つまり、ガバナンスは、その欠陥が確実な淘汰に帰結することをもって、資本市場の圧力によって強制されるものなのであって、投資家として、それで少しも不都合はないのです。

 即ち、ガバナンスの観点から出世できると信じた銘柄を厳選して投資し、いくつかが期待外れで淘汰されてしまっても、その損失を上回って残りの銘柄から利益がでる、それが株式市場の原理であり、株式投資の本質なのですから、そこにガバナンス論など全く不要です。

 要は、株式市場が機能しないが故のガバナンス論だということなのです。株式市場の本来の原理が機能していない程度に応じて、株価が低迷し、株価が低迷するほど、ガバナンス論が熱心に語られるのだと思われます。要は、日本だからこそ、ガバナンス論が盛んなのです。実際、日米比較でも、日本で展開されるような議論の多くは、米国では論じられる必要のないものなのでしょう。

 では、なぜ日本では株式市場の原理が機能しないのか、これについて、いまさら論じる必要はありません。それこそ、巷に溢れるガバナンス論でいいつくされているからです。ここで論じるべきは、なぜ上場株式会社について、しかも株式投資の側面からのみ、議論が展開されるのか、ガバナンスに問題があるのなら、その改善を論じる前に、上場株式以外の投資方法を工夫すべきではないのかということです。

メザニンとは何か

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 理論的には、負債にも不確実性を吸収させることができます。例えば、元本と利息を償還時に一括弁済する約定にすれば、期中の事業キャッシュフローがいかに変動しようとも、満期時までの累積において計画値を達成できればよいわけです。しかも、満期までの期間を長くすれば、より大きな不確実性を吸収できます。

 こうした負債を負債と呼ぶかは、定義の問題というか、用語の問題にすぎません。劣後負債、優先株式、その他、何と呼ばれようとも、資本を建物の一階になぞらえれば負債は二階ですから、その中間、即ち中二階、英語でいえばメザニン(mezzanine)なのであって、そこに、資金調達目的に応じて、不確実性を吸収する仕組みを自由に設計すればいいのです。

 また、資金調達目的に遡及していくこともできます。実は、ガバナンスを問題にせざるを得ないのは、調達資金の使途が経営裁量に委ねられるからです。例えば、空運会社が資金調達するとして、その目的が航空機を買うためだとしたら、金融界の選択肢として、オペレーティングリースにすることができます。そうすると、航空機という実物に関するリスクを負担することになる一方で、空運会社のガバナンスに関するリスクを削減することができるのです。

 こうして、航空機に限らず、船舶等の他の輸送用機器をはじめ、使途に一般性のある設備については、オペレーティングリースの利用が拡大してきています。金融機能として、実物に関するリスクを管理するには、それなりに高度な技能と経験を要するわけですが、ガバナンスに関するリスクとの対比において、どちらのリスクを選好するかは、状況に応じて判断すればいいことなのです。

事業ガバナンスと企業ガバナンス

 ところで、事業のガバナンスと企業のガバナンスとは、全く異なります。個々の事業のガバナンスについては優れているのに、事業集合としての企業のガバナンスに欠陥のあることは少しも珍しいことではありません。事業経営は範囲が狭いのですから、その分野の専門家にもできる、あるいは、むしろ専門家のほうが相応しいのかもしれませんが、企業経営には、自己の事業を相対化して評価できる広い視野と知見が求められるからです。

 いうまでもなく、日本の問題は、優れた事業経営者はいても、優れた企業経営者がいないことです。ならば、企業に対する投資ではなく、一つの事業に対する投資に構成することで、ガバナンスの問題を回避すればいいのです。例えば、企業から特定事業を分離して完全買収すること、これはプライベートエクイティ投資のなかの重要な戦略なのです。

オブジェクトファイナンス

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 事業のなかのプロジェクトも分離して投資対象にできます。例えば、エネルギー関連の開発プロジェクトであれば、完工までの期間を対象にした資金調達となり、稼働後に創出される事業キャッシュフローに基づいた弁済計画が事前に組まれます。このとき、当然に不確実性はつきものですから、金融の立場として、様々な事態を想定した対策を事前に講じておくわけです。

 例えば、事業キャッシュフローの見込みを確かなものにするために、予約購買者を確定しておくことは当然として、工事の遅延等の諸事由に対して、投融資条件を変更できる旨を約定しておくのです。要は、ガバナンス、即ちプロジェクトマネジメントに欠陥があれば、事業者に不利になるように設計することで、ガバナンスのリスクを管理するということです。

 そもそも、ガバナンスに欠陥が生じるのは、株式会社の組織が大きくなりすぎて、組織の非効率が露呈するからです。ならば、古典的な手法として、分割して統治すればいいのですが、日本では、組織の自己保存本能が強く働くせいか、企業の次元での分割が進まないようです。ならば、企業のなかで、事業ごとに、プロジェクトごとに、資産ごとに、一般化していえば資金調達目的ごとに、資金供給の手法を変えることで、ガバナンスのリスクを管理下におく工夫を考案すればいいのです。

 ちなみに、わざわざ英語でいう必要もないことですが、伝統的な企業に対する金融がコーポレートファイナンス(corporate finance)と呼ばれるのに対して、目的別の金融はオブジェクトファイナンス(object finance)と呼ばれます。いうまでもなく、オブジェクトの意味は目的ですが、同時に、資産等の事物も意味しているわけです。

堅調な米国株式市場の背景

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 米国には、上場株式市場の背後に、プライベートエクイティ、不動産やエネルギー施設等の広範な実物資産、メザニン等、多種多様な投資対象の巨大な市場があります。それらの市場と上場株式市場が緊密につながっているからこそ、ガバナンスの欠陥が深刻な問題にならないのです。

 企業のガバナンスに関するリスクは、金融の立場からは、管理困難なもの、むしろ管理不能なものといったほうがいいでしょう。故に、リスク管理の理論としては、それを回避することが原則なのです。この原則を徹底的に実践したうえで、なおもガバナンス論が必要なら、改めて展開すればいいことです。