銀行というのは、預金者からお金を借りて、法人等へお金を貸すことで、利鞘を得る商売です。要は、安く借りて、高く貸す、そこに尽きてしまいます。では、借りる金利と貸す金利が同じになってしまったら、ましてや、貸す金利のほうが低くなってしまったら、どうなるか。いま、銀行業の基礎を揺るがす本質的な危機が迫っているのではないか。

総資金利鞘0.11%の意味

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全国銀行協会が公表している数値を見ますと、2014年9月中間期決算において、全国銀行116行全体の総資金利鞘は0.11%でした。この数字は、資金運用利回り1.04%から、資金調達原価0.93%を引いたものです。

資金運用利回りというのは、期中における銀行の資金運用収益を、資金運用勘定の平均残高で、除したものを、年率換算表示したものです。銀行において、資金運用勘定とは、第一に、本業である貸出金の残高、第二に、有価証券の投資残高、残りは、短期運用資金等ですが、いうまでもなく、貸出金と有価証券で、ほぼ全てを占めていて、概ね、3分の2が貸出金、3分の1が有価証券という状況です。

資金運用利回り1.04%の内訳をみると、貸出金利回りは1.31%、有価証券利回りは0.87%となっています。当然ですが、貸出金と有価証券のそれぞれの利回りを2対1で加重平均すれば、資金運用勘定全体の利回りである1.04%に、ほぼ一致するわけです。

資金調達原価というのは、期中における銀行の資金調達費用と営業経費の合計額を、資金調達勘定の平均残高で、除したものを、年率換算表示したものです。銀行においては、資金調達勘定は、いうまでもないことですが、圧倒的に、預金が占めています。

資金調達原価0.93%の内訳をみると、実は、営業経費率が0.92%となっており、預金利回りは0.06%にすぎないのです。つまり、資金調達に要する費用のうち、金利費用はほとんどかかっておらず、ほぼ全てが営業経費だということです。

低下を続ける総資金利鞘

では、総資金利鞘は、過去、どのように推移してきたのでしょうか。実は、一貫して、低下を続けています。以下に、過去5年間の推移を掲げておきましょう。

2009年9月期 0.26%

2010年3月期 0.25%

2010年9月期 0.21%

2011年3月期 0.21%

2011年9月期 0.19%

2012年3月期 0.18%

2012年9月期 0.15%

2013年3月期 0.14%

2013年9月期 0.16%

2014年3月期 0.14%

2014年9月期 0.11%

これは、超低金利が続いているので、資金運用勘定において、時間の経過とともに、過去の利回りの高い貸付金や有価証券が満期を迎えて消滅し、低金利のものに置き換わってきたからです。

資金調達の圧倒的大部分は、預金です。預金金利については、とうの昔に、事実上のゼロになっているわけで、資金運用利回りが低下しても、もはや低下のしようもない状態です。預金以外の市場調達の原価が落ちてきても、資金調達原価の全体に与える影響は軽微です。

問題は、資金調達原価の大部分を占める営業経費です。実は、これは、店舗費や人件費の削減など、銀行の経営努力によって、かなり低下してきた経緯があり、もはや、経営合理化の余地は、小さくなってきています。

こうして、資金調達原価が下方硬直に達しているなかで、資金運用利回りの低下に歯止めがかからないので、総資金利鞘の縮減が続いているのです。

総資金利鞘がゼロになる日

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このままいきますと、おそらくは、2015年3月期において、総資金利鞘は、一段と低下して0.1%を下回り、2016年へ向けて、ゼロに接近していくのではないでしょうか。

これは、銀行業の基盤を崩壊させる本質的な危機の到来です。しかも、この危機は、過去の金融危機とは全く異なり、銀行業の本質そのものを直撃するものであり、世界初の事象として、未知の世界へ投げ出されたようなものなのであって、どうなるか想像もつかないわけです。

もちろん、誰も、黙って座して無為のまま、危機の到来を待つはずもなく、各行においても、また金融庁においても、対応は考えられているのです。

まず、原理的にいって、対応の方向は、三つしかありません。第一は、資金運用利回りを上げる、第二は、資金調達原価を下げる、第三は、非金利収益を増やす、この三つだけです。

資金運用利回りを上げるためには、第一に、相対的に金利の高い貸付金を増やし、相対的に金利の低い有価証券を減らすこと、第二に、貸付金の金利を引き上げること、第三に、有価証券の運用利回りを高くすること、この三つしかありません。

資金調達原価を下げるためには、金利費用が完全に下方硬直に達している以上、営業経費を更に下げるしかありませんが、店舗費や人件費の削減が既にかなり進んでいる以上、もはや、合併による規模の経済を目指すぐらいしか、選択肢が残っていません。事実、巨大銀行に比して、小規模地方銀行では、経費率が高いのです。

非金利収入を増やすための切り札であったのが、投資信託や保険の販売手数料の獲得でした。これは、預金から投資信託や保険への転換が進めば、手数料が入るだけでなくて、預金の減少により、利回りの低い有価証券の保有を減らせるという利益もあり、これまで、各行とも、積極的に展開してきました。

確かに、各行においては、これらの課題について、それなりの努力はしてきたのですが、短期的な解決を求める結果として、逆に、事態の深刻化を招いた面も少なからずあり、むしろ、金融庁の新しい「金融モニタリング基本方針」のほうが、より本質的な解を求めたものとして、評価できるようです。

「事業性評価に基づく融資等」

例えば、金融庁の重点施策の二番目の「事業性評価に基づく融資等」です。

結局、銀行の危機は、銀行の本業の復興なくしては、回避し得ないのです。つまり、貸付金における金利の増獲を目指すことです。

貸付金の金利を増やすためには、貸付金そのものを増やし、また、同時に、金利を高く設定できるようにするほかありませんが、この二つは、同じことです。なぜなら、貸付金として、貸付先の顧客に対して、付加価値を生むものでなければ、残高は伸びないでしょうし、金利も取れないからです。

これは、銀行業というよりも、全ての商業に共通したことで、商品に固有の付加価値がなければ、売れないでしょうし、売れても、利幅はないわけです。

では、貸付金の付加価値とは何か。それは、貸付金が、貸付先の企業等の成長原資となり、また社会的効用の増大に資する機能を演じることで、社会的価値の増大をもたらすことにほかなりません。ということは、貸付判断において、「貸せるか」だけではなくて、「貸すことで、社会的価値を創出できるか」という視点も重要になるということです。それが、「事業性評価に基づく融資等」にこめられた実質です。

不毛な金利競争

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要は、単に金利を引き下げることによって貸付金を伸ばそうとしても、何らの社会的付加価値を生まず、逆に、貸付金利回りの低下による問題の深刻化を招くだけだということです。住宅ローンの金利競争がいい例です。

銀行界は、低金利を売り物にして、他の銀行から借り換えで住宅ローンを奪ってくる競争、そのような不毛な競争を激しく繰り広げてきました。不毛なのは、このようなことをしても、一軒の住宅も建たず、経済効果がないからです。残るのは、貸付金利回りの低下だけです。

新規の住宅ローン、あるいは増改築ローンでも、必ず、建設需要につながり、それなりの裾野の広がりをもった経済波及効果があります。逆に、その経済効果をもたらすためには、住宅ローンが必要なのです。そこに、銀行業の社会的意義があります。社会的意義があるから、正当な金利が取れるのです。

今の住宅ローン競争は、銀行業の社会的意義を没却した不毛な戦いの象徴です。象徴なのは、程度の差こそあれ、企業向け事業融資においても、住宅ローンと同様の傾向があるからです。銀行の危機は、銀行自身によって招来された側面も否定できません。

「資産運用の高度化」

金融庁は、重点施策の三番目で、「資産運用の高度化」といっています。

日本の現在の金融構造では、銀行の預金調達力に対して、貸付金の需要は、相対的に小さいものにとどまります。故に、いかに努力しても、残余は、有価証券での運用にならざるを得ません。

しかし、有価証券運用とはいっても、国債の保有に振り向けられる部分が極めて大きいのが現実です。それは、銀行にとって、国債は、信用リスクのない資産として扱われるためでもあります。ところが、事情は、銀行以外の金融機関も同じで、皆がこぞって国債に集中的に投資するために、国債利回りの低下を招く原因となっています。

こうして、銀行自身が銀行経営を圧迫する構図になってしまっているのです。故に、銀行には、国債偏重からの脱却を目指し、有価証券運用の多角化を実現して、収益性を高めるための「資産運用の高度化」が求められるわけです。

もうできない手数料稼ぎ

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「資産運用の高度化」では、投資信託等の販売手数料についても、言及があります。

総資金利鞘の縮減過程で、銀行は、投資信託や保険の販売手数料への依存を高めてきました。その結果、手数料稼ぎ自体が目的となって、顧客の利益を損なう懸念が出てきました。そこで、金融庁としては、事態の是正を求めなくてはならなくなったのです。

こうなると、銀行としては、目先の手数料ではなくて、長期的な顧客利益を考えた営業政策に転じるほかありません。もちろん、それは、長期的には、銀行の利益にもつながりますが、短期的には、総資金利鞘縮小への有力な対抗策を失うことになります。

金利が上昇したら

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さて、もしも、金利が上昇に転じたら、どうなるか。

資金調達原価は、事実上、預金金利です。預金は短期のものが中心ですから、資金調達原価は、短期金利に連動します。故に、本来の銀行業では、資金運用も短期のものを中心とすることで、資金調達原価と資金運用利回りが並行して変動するようにして、金利変動のリスクを回避し、信用リスク管理に特化することを経営の本旨としてきました。

しかし、超低金利定着のなかで、この銀行経営の本旨からの逸脱が生じています。つまり、一般に、金利は、短期が低く、長期になればなるほど高くなるようになっていますが、日本では、超低金利が続くなかでも、この構造は維持されてきているため、資金運用利回りを少しでも高くしようとする銀行経営の傾向のもとで、資金運用の長期化が生じてきているのです。

こういう状況で、金利が上昇すれば、資金調達原価の上昇速度が資金運用利回りの上昇速度を上回ってしまう可能性が高い。そうなれば、危機は深刻化します。

金利上昇の意味

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では、具体的に、どういう事態が想定されるでしょうか。

長期の固定金利の貸付金は、資金調達原価の上昇にともなって、調達のほうが運用よりも金利が高くなる状態、いわゆる逆鞘に転じます。貸付金のなかで、長期の固定金利の貸付金の比率が高いと、銀行全体の総資金利鞘が、逆鞘になってしまうかもしれません。この状態は、時間をかけて、長期貸付金が順次満期到来していくのを待つ以外に、対処のしようがありません。

証券運用においては、同様に、長期債券に運用していると、事態は、一層深刻になります。債券には時価があるので、金利上昇に伴って、価格の下落が生じます。この評価損失の意味は、長期固定貸付金において内包する将来的な逆鞘損失を一気に計上したのと同等です。あまりに、評価損失が大きくなると、銀行の所要自己資本に不足をきたす可能性が高いと思われます。

銀行業の王道への回帰

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金利がこのまま推移しても、総資金利鞘がなくなって、危機に至る。金利が上昇すると、危機は加速する。もはや、これ以上の金利低下はあり得ないのですから、危機は、不可避です。では、銀行は、どうすればいいのか。

金融庁が「事業性評価に基づく融資等」にこめた意味通り、銀行業の王道へ回帰し、やはり金融庁が「資産運用の高度化」といっているように、有価証券運用の革新を図るほかありません。

やれば、できる。その結果、危機は転じて、成長の機会となるでしょう。やらなければ、危機は確実に到来し、銀行業を崩壊させるでしょう。そのとき、解は、銀行の統廃合による営業経費の削減しかない。それを、顧客は望むでしょうか。