テレビアニメシリーズ『ルパン三世』が、2021年で放送50周年を迎えた。『ルパン三世 PART6』の放送や上映イベントの開催など、大きな盛り上がりを見せている本作だが、実際の警察関係者からはどんな風に見えているのだろうか?

今回は埼玉県警察の元刑事であり、現在はYahoo!ニュース公式コメンテーターなども務めている佐々木成三氏にルパン三世の中でも特に「銭形警部」の仕事ぶりやその活躍についてお伺いした。

筆者作成
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リアルケイドロ:https://youtu.be/JJBjLC4MPHI

犯人に顔を知られるのは御法度

ーー今回はルパン三世に登場する銭形幸一(銭形警部)についてお聞きしていきたいのです。まず、ここまで「一人の刑事がひたすら同じ犯人を追いかけ回す」ということは実際にあるのでしょうか?

銭形のように1人でずっと特定の人物を追いかけるということはないですね。複数の刑事で構成される捜査班を立ち上げて、必ずチームで追いかけます。

ただ、泥棒を専門とする刑事がいろんな現場で捜査をして、犯罪の手口を見ると「これはルパンの犯行の手口だな」というのがわかってきます。泥棒はそれぞれ癖があるので(泥棒を続ける)ルパンを捕まえるまでは、捜査班は彼を追いかけますよ。

ーー手口を見るだけで同じ人物だとわかるものなのでしょうか?

侵入の手口などを見ればわかります。どこから侵入したのか、窓ガラスをどう壊したのか、どこを物色したのか等ですね。

たとえば「終わった後に冷蔵庫のジュースを飲む」という泥棒もいるんですが、現場を見れば同じ人物だとわかりますよね。

警察では、そういった泥棒の手口をすべてデータでまとめていて、過去のデータから同じような人物がいないか割り出しているんです。

ーー捜査の裏にそんな地道な努力が……!

あとは連続で泥棒をしている人物の場合、警察内部で呼び名を付けたりします。

「キャッツアイ」とか「万引き家族」といった名前をつけて、「キャッツアイが動いたぞ」「これはキャッツアイの手口だ」といった形で情報を共有しています。

その方がみんな覚えやすいですし、手口もイメージしやすいんです。

ーー「キャッツアイ」も「万引き家族」も非常に有名な作品ですが、こういった呼び名は映画やマンガなどから取ってくることが多いのでしょうか?

そうですね。映画やマンガに出てくるキャラクターだと皆がイメージしやすいので、呼び名として使うことは多いです。現場の刑事が、手口を見ながら名付けています。

ーーなるほど! 作品に話を戻すと、銭形の場合はルパン(=犯人)に顔が知られているのですが、これは実際ありえるのでしょうか?

刑事が泥棒に顔を覚えられると、追跡捜査に大きな支障があるので、絶対にだめです。

ーー絶対だめなんですね。

絶対だめです。ルパンは銭形警部が来るから逃げるんですよね。だから追跡するときは警部がいない方がいいんですよ。

ーー確かにそうですね。

ルパンは顔を出して堂々と街に繰り出してるわけですから、銭形警部がいない方が捕まえられます。追跡班には絶対にいない方がいいと思います。

ーールパン逮捕に向けて、かなり参考になるご意見をありがとうございます!

手錠をかけた相手に逃げられるのは失態

ーー作品では、銭形は(ほぼ100%)ルパンを逃してしまっていますが、これは実際に起きたらどういう事態になるのでしょうか?

逮捕した犯人に逃げられるのは完全な警察の失態ですね。「手錠をかけたのに逃げられる」というのは全国トップニュースになります。

ーー銭形、かなりの回数でトップニュースになってそうですね。

銭形警部はちょっとルパンを好きになっちゃってると思うんですよね。でも、実際にこんな風に逃してしまうと処分される可能性があります。

逮捕した相手が逃走した場合、まず付近の住民に伝えないといけないですし、防げたはずの犯罪を作ってしまうことにもなります。

ーー逃してしまった場合、どういう処分になるのでしょうか?

処分として本部長から注意を受けたり、所属長から注意を受けたりします。懲戒処分もあります。「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」とか言っている余裕はないです。

ーー一応、仮に銭形がルパンを捕まえられた場合にどうなるかもお聞きしたいのですが、日本で逮捕された場合は通常どういう取り調べがされるのでしょうか?

刑事の間でよく言うのは「罪を憎んで人を憎まず」ですね。なので、逮捕した被疑者に対して感情的になる人は、いい刑事ではないですね。

刑事の目的は「治安を維持すること」なので、被疑者を挑発したり、あえて嫌われるようなことはしません。

信頼関係がないと自供もしてくれないですし、「この人には喋ろう」と思われることが大事です。

ーーある意味ドライというか、忠実に業務を遂行されているんですね。

あとは、昔のように被疑者を怒鳴りつけたり、ライトを顔に向けたり、机を蹴ったりすることはできません。カツ丼も食べさせていないです。

ーーカツ丼もだめなんですね。

カツ丼は(被疑者への)利益供与になるんですよ。コーヒーも出せないんですね。

「お母ちゃん泣いてんぞ」とかも言えません。事件に関係ないですし、動揺させるのでだめなんです。

ーー自分のなかの取り調べのイメージがだいぶ覆されました。時代に合わせて警察もどんどん変わっているんですね。

警察から国際機関へ移るのは極めて珍しい

ーーここまで銭形の人情味のある部分を中心にお聞きしてきたのですが、彼のスキルやキャリアについてもお伺いしたいです。まず、彼は国際指名手配犯になったルパンを逮捕するために、日本の警察からICPOという国際機関に移っています。

これは実際には聞いたことがないですね。

たしかに、日本の捜査権というのは海外には及ばないんですよ。被疑者の引き渡し条約がない国に行かれてしまうと、どうしようもないんです。

だから(海外に逃げた)ルパンを追いかけられないというのは事実ですが、だからといって追いかけるためにICPOに入るというのはまったくイメージがないですね。僕が勤めていた埼玉県警では少なくともいないと思います。

ーー銭形、そこはかなり頑張ったんですね。

そもそも、単なる日本の泥棒だと「海外逃亡」というのがあまりないんです。

お金も必要になりますし、逃げても向こうで生活するのは難しいですから。

ーー続いて、ルパンたちは一応4〜5人の犯罪集団にあたると思うのですが、そういった犯罪集団の捜査は単独犯よりやはり難しいのでしょうか?

そうですね。単独犯と、犯罪集団の捜査はやはり違います。

特にルパンの場合は次元や五ェ門など拳銃や刀を使える仲間がいるわけですから、やはりそれは捜査をしている刑事としても怖いです。

ルパンたちは警察官を進んで殺したりしないと思いますが、それでもやっぱり怖いですね。

ーー拳銃の話が出ましたが、刑事の方も拳銃などは習得されているのでしょうか?

得手不得手はありますが、一応柔道や拳銃訓練はすべてやらされます。逮捕術などもありますね。

初級・中級・上級の3つに分かれていて、僕の場合は拳銃中級・逮捕術上級などを持っています。

ーーかなり特殊なスキルですね。

そうなんですよ。鑑識検定というのもあって、写真・足跡・指紋・科学の4種があり、採取のやり方などを学ぶんですね。

僕は鑑識初級なんですが、警察を辞めてからはまったく使っていないです(笑)

ーー現場のリアルなお話をカジュアルにお伺いできて、大変おもしろかったです。本日はありがとうございました!