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蚊によってコロナは広がるのか?

忽那賢志感染症専門医
(写真:PantherMedia/イメージマート)

だんだんと暖かくなり、蚊が増えてくる季節になります。

蚊は日本脳炎やデング熱、マラリアなどを媒介することで感染症を広げる節足動物ですが、新型コロナウイルスを媒介することはあるのでしょうか?

蚊媒介感染症とは?

The World's Deadliest Animals(Gates Noteより)
The World's Deadliest Animals(Gates Noteより)

こちらは各生物が1年間に人間を死に至らしめている数のランキングです。

日本で生活していると、蚊に刺されることで感染症を意識することはあまりないかもしれません。

しかし、世界では未だに蚊が媒介する感染症は脅威であり、人類を最も死に至らしめている生物は蚊であり、年間80万人が蚊が媒介する感染症で亡くなっているとされます。

日本で発生しうる主な蚊媒介感染症とその特徴(筆者作成)
日本で発生しうる主な蚊媒介感染症とその特徴(筆者作成)

日本国内で今も流行している唯一の蚊媒介感染症は日本脳炎です。

と言っても近年は報告者数は年間10例未満となっていますが、これはワクチン接種によるものであり、日本脳炎ウイルスを持った蚊は西日本を中心に今も分布しています。

デング熱は主に熱帯地域で流行している感染症であり、日本では輸入感染症として年間300例程度が診断されていますが、2019年は海外渡航者が激減したことから年間45例にとどまっています。

国内では流行していませんが、デングウイルスを媒介する蚊(ヒトスジシマカ)が国内に分布しているため、海外でデング熱に感染した人が日本に帰国し、国内で蚊に吸血をされると国内流行につながる可能性があります。

2014年には70年ぶりのデング熱の国内流行が代々木公園を中心に起こったことは記憶に新しいところですし、2019年にも沖縄と東京で国内感染例が報告されています。

デング熱のヒト→蚊→ヒトへの伝播(筆者作成)
デング熱のヒト→蚊→ヒトへの伝播(筆者作成)

マラリアも主に輸入感染症として国内では診断されています。

年間60例程度が報告されていますが、昨年は20例にとどまりました。

デング熱とは違って、マラリアを媒介する蚊が国内にはほとんど分布していないので、国内で流行することはないと考えられています(ただし三日熱マラリアを媒介するシナハマダラカは国内分布しています)。

新型コロナは蚊によって広がるのか?

蚊とコロナウイルス(いらすとや)
蚊とコロナウイルス(いらすとや)

このように、特定のウイルスや原虫などの微生物は蚊を介して広がっていきます。

では新型コロナウイルスも蚊で広がることがあるのでしょうか?

結論としては、その可能性は極めて低いと考えられています。

新型コロナが蚊媒介感染症として成立するためにはいくつかの条件があります。

1. ヒトが感染した際に新型コロナウイルスが血液中に検出される

2. 新型コロナウイルスが蚊の体内で増殖される

3. 蚊からヒトの血液に注入された新型コロナウイルスがヒトの体内で増殖される

まず1についてですが、蚊が吸血した際に、血液中にウイルスが存在しなければ蚊の体内に入ることができません。

ヒトが感染した際に新型コロナウイルスが血液中に検出されるかどうかですが、205人の新型コロナ患者から採取された307の血液検体から新型コロナウイルスが検出されたのは3検体(1%)のみだった、という報告があります。

また、軽症・中等症では血液中に新型コロナウイルスが検出されることは稀です。

2については、「蚊の体内で新型コロナウイルスは増殖しない」ということが複数の研究で確認されていることが挙げられます(1, 2)。

蚊媒介感染症の条件として、蚊の体内で微生物が増幅されなければいけませんが、それはどうやら起こらないようです。

3の「ヒトの血液に注入された新型コロナウイルスがヒトの体内で増殖される」ですが、これは証明が難しいものの、例えば実験室で新型コロナウイルスを扱っていた方や病院内で新型コロナの検体を扱っていた方が針刺しをしてしまって新型コロナに感染した、というような事例があれば血液を介しての感染が起こり得るということになります。

しかし、現時点では針刺しで新型コロナ感染したという事例は報告されていません。

以上から、新型コロナが蚊を介して広がるということはほぼほぼないだろうと考えられます。

新型コロナの感染予防のためには、蚊の対策よりは、マスク着用、3密を避ける、こまめな手洗いを行うという基本的な感染対策を行うことが重要です。

ただし、蚊に刺されても新型コロナになることはないと思いますが、日本脳炎、デング熱など他の蚊媒介感染症には罹患する可能性があります。

ご自身の予防接種手帳に日本脳炎ワクチンの接種歴(通常4回)が記載されているかをご確認し、もしなければ接種を検討しましょう。

また日頃から虫除けなどを使って蚊に吸血されないようにしましょう。長袖長ズボンなどで肌の露出を出来るだけ避けるようにし、露出した部分には虫よけを塗布するようにしましょう。

虫除けはディートまたはイカリジンという成分を含むものが望ましいとされます。

露出した皮膚にこまめに虫除けを塗布しましょう
露出した皮膚にこまめに虫除けを塗布しましょう写真:Paylessimages/イメージマート

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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