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妊娠と新型コロナQ&A 重症化のリスクは?出産への影響は?母乳はあげてもいい?

忽那賢志感染症専門医
(写真:ミラタス/アフロイメージマート)

妊娠中は特定の感染症にかかると重症化しやすくなったり、かかるとお腹の赤ちゃんに影響が出ることがあります。

新型コロナウイルス感染症は妊娠に悪影響を与えるのでしょうか。

新型コロナと妊娠に関して、よく寄せられる質問とその回答を記載しました。

Q1. 妊娠中に新型コロナに感染すると重症化しやすい?

A1. 現時点では、妊娠中に新型コロナに感染すると重症化しやすいと考えられます

妊娠中に呼吸器感染症(例えばインフルエンザ)に罹患すると重症化しやすいとされています。

4月の時点では、妊娠中に新型コロナに罹患した場合も重症化した事例はほとんどなかったため、妊娠は重症化のリスクファクターではないのではないかと考えられていました。

しかし、その後の感染者の増加に伴い、より大規模な報告が出てきました。

11000人の新型コロナに感染した妊婦を解析した報告によると、

- 90%以上が分娩前に回復

- 49%に肺炎がみられた

- 3割が酸素吸入を必要とした

- 13%が重症化

- 4%が集中治療室(ICU)に入室

- 3%が人工呼吸管理を受けた

- 0.8%がECMOを要した

- 0.6%が死亡した

とされます。

これは、

同じくらいの年齢の新型コロナに感染した非妊婦と比較して、

・ICUに入室するリスクが1.62倍

・人工呼吸管理のリスクが1.88倍

コロナに感染していない妊婦と比較して、

・死亡リスクが18倍

・ICUに入室するリスクが71.6倍

・早産のリスクが3.01倍

になるとのことです。

また、アメリカで新型コロナに罹った約40万人の15歳から44歳までの女性を解析した報告では、約2万人の妊娠している女性と、約39万人の妊娠していない女性が比較検討されました。

これによると、新型コロナ患者では、

妊娠している女性は、妊娠していない女性と比べて、

・5.4倍入院しやすい

・3.0倍集中治療が必要となる

・2.9倍人工呼吸器が必要となる

・2.4倍ECMOが必要となる

・1.7倍死亡しやすい

という結果でした。

約5倍も入院しやすい、というのは「妊婦さんは大事を取って入院しておきましょう」という判断が関与していそうですが、集中治療や人工呼吸器の使用、死亡の増加については実際に妊娠と関連していそうです。

妊娠中に新型コロナに感染することで重症化しやすくなる可能性があり、妊婦さんはより感染に注意した方が良いと言えそうです。

Q2. どういう背景の妊婦が新型コロナに感染すると重症化しやすい?

A2. 年齢、肥満、高血圧、糖尿病などの背景があると重症化しやすいようです

前述の11000人の新型コロナ感染妊婦の解析では、

・35歳以上

・BMI ≧ 30以上の肥満

・高血圧

・糖尿病

が重症化のリスク因子であったと報告されています。

こうした背景を持つ人が妊娠中に新型コロナに感染すると重症化しやすいため、特に感染対策を徹底するようにしましょう。

Q3. 妊婦が新型コロナに感染すると症状が長引きやすい?

A3. 妊婦さんだから特別に長引きやすいということはないようです

594人の新型コロナ感染妊婦の症状の推移(doi: 10.1097/AOG.0000000000004178より)
594人の新型コロナ感染妊婦の症状の推移(doi: 10.1097/AOG.0000000000004178より)

新型コロナ患者では、急性期の症状を過ぎた後も「LONG COVID」と呼ばれる症状が遷延することがあります。

日本からの報告でも、発症から60日経った後にも、嗅覚障害(19.4%)、呼吸苦(17.5%)、だるさ(15.9%)、咳(7.9%)、味覚障害(4.8%)があり、さらに発症から120日経った後にも呼吸苦(11.1%)、嗅覚障害(9.7%)、だるさ(9.5%)、咳(6.3%)、味覚障害(1.7%)が続いていました。

新型コロナに感染した妊婦に関しても、症状が遷延するか調べた研究があります。

594人の新型コロナに感染した妊婦は、

・症状が消失するまでの期間が中央値37日

・4人に1人は、症状発症から 8 週間以上経過しても症状が持続していた

ということで、妊婦だからといって特別に症状が長引きやすいということはないようです。

Q4. 妊娠の経過への影響は?

A4. 早産が増える可能性が示唆されています

前述の11000人の新型コロナ感染妊婦の解析では、

・新生児の95%以上は出生時の状態が良好

・65%が帝王切開で分娩

・17%が37週未満に分娩(早産)

とのことです。

アメリカの新型コロナに感染した妊婦から生まれた3,912人の新生児を解析した研究では、

・12.9%が早産(37 週未満)であり、アメリカでの推定値 10.2%よりも高かった

・32人が流産であったが、そのうち12人(0.3%)が妊娠20週未満で、20週以上が20人(0.4%)だった

・198例(5.7%)は妊娠週数と比較して小さかった

・9 人(0.2%)が病院で死亡した

・出生時に新型コロナウイルスのPCR検査が陽性であった16人の乳児のうち8人(50%)は早産であり、そのすべてがICUへの入院を必要とした。

と報告されており、新型コロナに感染していない妊婦と比べて早産は増える可能性がありそうです。

「自然流産は増えない」とする報告がいくつかありますが、まだ十分なデータがないようです。

一方、死産率は全国の3倍であった、という報告もあり死産は増える可能性があります。

Q5. 新型コロナに感染したら帝王切開した方が良い?

A5. 現時点では新型コロナに感染したからといって帝王切開が推奨されてはいません

イタリアからの報告では、帝王切開での分娩が母体の重症化につながる可能性が示唆されています。

82人の妊婦のうち41例(53%)が経膣分娩、37例(47%)が帝王切開分娩で、出産しました。

経膣分娩で分娩後に集中治療室に入った妊婦はいなかったのに対し、帝王切開分娩では5人(13.5%)が集中治療室への入院を必要とし、また経膣分娩の妊婦2人(4.9%)と、帝王切開分娩の妊婦8人(21.6%)が出産後に臨床的に悪化したとのことです。

ただし、この報告では症例数が少ないことから、アメリカ産婦人科学会は現時点では新型コロナに罹患しているからといって分娩の方法を変える必要はないとしています。

また、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会の3学会による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第5版) 」でも、現時点では

新型コロナウイルスに感染した方の産科的管理は通常に準じますが,対応医療機関における院内感染対策には十分留意してください. なお、感染拡大に応じ、施設によって原則帝王切開とすることもやむを得ないと考えます。

出典:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第5版)

という声明が出ています。

Q6. 母子感染は起こるの?

A6. 起こることはありますが、頻度は高くないようです

母子感染の頻度について検討した研究では、妊娠第三期の新型コロナ感染妊婦936人から生まれた新生児のうち、約3.2%(22/936)が新型コロナウイルスのPCR検査が陽性であったと報告されています。

こうした母子感染例のほとんどは、出生後に母親からの飛沫感染または接触感染によって感染した事例と考えられています。

しかし、出生前にすでに感染が成立していたと考えられる事例もこれまでに2例報告されています。

Q7. 母乳から新型コロナに感染することはあるの?

A7. 母乳から新型コロナウイルスが検出されることはありますが、母乳から感染するかどうかはまだ分かっていません

母乳からも新型コロナウイルスが検出された事例が報告されていますが、母乳を介した感染が起こり得るかどうかはまだ分かっていません。

WHOが行った調査では、46人の妊婦のうち3人の妊婦の母乳から新型コロナウイルスは検出されたものの、培養可能な生きたウイルスではなかったとのことです。

これらの結果や、母乳栄養のメリットを考慮して、WHOは新型コロナに感染した妊婦であっても母乳栄養を行うことを推奨しています。

Q8. 今シーズン、インフルエンザワクチンは打った方がいいの?打っても大丈夫?

A8. 1兆パーセント打った方が良いです

日本で流通しているインフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」と呼ばれる種類のワクチンであり、ウイルスの一部分をワクチンにしたものです。

不活化ワクチンであるインフルエンザワクチンはこれまでに世界中で何百万人に接種されており、安全性が証明されています。

妊娠中にインフルエンザワクチンを接種するメリットに関する研究も複数あります。

今シーズンは新型コロナも同時流行する可能性があり、少しでもインフルエンザにかかる可能性を減らすために必ずインフルエンザワクチンを打つようにしましょう。

Q9. 妊娠中に新型コロナに関して気をつけることは?

A9. ご本人が「こまめな手洗い」「3密を避ける」「屋内でのマスク着用」に気をつけることはもちろんのこと、周囲の人も妊婦さんに感染させないように感染対策を徹底しましょう

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は新型コロナウイルス感染症に関して、妊婦さんに以下のことを推奨しています。

新型コロナに感染するリスクを減らすために

・分娩前の受診の予約をスキップしないようにしましょう

・人との交流をできるだけ減らしましょう

・人と接する際には、新型コロナに感染しないようにしっかりと感染予防策をとりましょう

・少なくとも30日分の薬を確保しておきましょう

・新型コロナが流行している間、健康を維持し、自分自身のケアをする方法について、かかりつけの医療機関に相談しましょう

・医療上の緊急事態が発生した場合は、すぐに医療機関を受診してください

妊娠中のワクチン

・定期的なワクチン接種はあなたの健康を守るために重要な役割を果たします

・インフルエンザワクチンやTdapワクチンなど、妊娠中にいくつかのワクチンを受けることは、あなたと赤ちゃんを守るのに役立ちます

・妊娠している場合も、推奨されているワクチンを継続して受ける必要があります

新型コロナウイルス感染症と診断された場合の母乳育児

・母乳は多くの病気に対する抵抗力を生み、ほとんどの乳児にとって最良の栄養源です

・家族や医療従事者と、母乳育児を行うのか、どのように続けるかを決めましょう

・新型コロナに感染した母親から母乳を介して赤ちゃんにウイルスを感染させるかどうかはまだ良く分かっていませんが、今ある限られたデータからは、その可能性は低いと考えられます

・新型コロナに感染した母から子どもに母乳をあげる場合、

 ・専用の搾乳機を使用してください(共用しないこと)

 ・授乳中は布製のフェイスカバーを着用し、搾乳機に触れる前、および授乳する前に、石鹸と水で少なくとも20秒間手を洗ってください

 ・可能であれば、新型コロナに罹患しておらず、重症化のリスクが高くない、健康な同居者が代わりに乳児に母乳を与えた方が良いでしょう

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

※ 本投稿は奈良県立医科大学附属病院 産婦人科講師、日本産科婦人科学会専門医・指導医の成瀬 勝彦先生に監修いただきました

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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