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メガネをかけていると新型コロナに罹りにくくなる、という仮説

忽那賢志感染症専門医
(写真:CavanImages/イメージマート)

「メガネをかけていると新型コロナに罹りにくい」という研究

JAMA Ophthalmologyという医学誌に「メガネをかけていると新型コロナに罹りにくくなるかもしれない」という驚きの論文が掲載されましたのでご紹介します。

概要をざっくり説明しますと、

・中国・湖北省随州市のある病院に2020年1月27日から3月13日までの間に新型コロナウイルス感染症と診断され入院となった276人の検討

・このうち、近視のために日常的に1日8時間以上メガネをかけていたのは5.8%であった

・湖北省の近視患者の割合は31.5%であり、この新型コロナの入院患者のうち近視がある割合よりもはるかに高かった

というものです。

中国では近視の有病率が80%を超えており、メガネの着用は中国の全年齢層で一般的とのことですが、著者らは、新型コロナの流行以降に新型コロナ患者でメガネをかけている人が少ないことに気づいたそうです。

ちなみに私も新型コロナ患者をたくさん診てますが、そんなことには全く気づきませんでした。

そして、実際に患者のメガネ率を調べてみると確かに一般人口のメガネ率よりも低かった! → 「メガネをかけている人は新型コロナに罹りにくいかも!すごいこと発見しちゃったかもしんまい!」という流れです。

著者らはこれを発見したとき、さぞかし興奮したことでしょう。

なぜメガネをかけていると新型コロナに罹りにくくなるのか?

ではこの「メガネをかけている人は新型コロナに罹りにくい」という結果は、どのような理屈で説明できるのでしょうか?

確かにメガネをかけている人は、かけてない人と比べると自分の目を触りにくいかもしれません。

そうすると手に付着した新型コロナウイルスが目に入る可能性は、メガネをかけていない人よりも低いかもしれません。

新型コロナでは1〜12%くらいの頻度で結膜炎などの目の症状を呈することがあり、また実際に涙から新型コロナウイルスが検出されたという報告もあります。

日常診療で眼科医が新型コロナに罹患した事例も報告されており、おそらく目からの感染は新型コロナウイルスの侵入経路として無視できないものだろうと思います。

実際、国内外の新型コロナ感染対策のガイドラインを見ても、「目の保護」は強調されています。

新型コロナに立ち向かうため個人防護具を着用する忽那氏の勇姿(筆者の同僚撮影)
新型コロナに立ち向かうため個人防護具を着用する忽那氏の勇姿(筆者の同僚撮影)

このように、フェイスシールドまたはゴーグルなどでしっかりと目を覆うことが推奨されています。

これは患者さんの飛沫を目に浴びることを防ぐためです。

実際に、インドでは濃厚接触者となった新型コロナ患者の家族に訪問していた保健師が、フェイスシールドを着けるようになったら、それまでよりも感染が減ったという報告もあります。

目の保護には一定の意義があることは間違いないように思います。

この研究を受けて、どう判断すべきか

しかし、実際のところ、このメガネによる新型コロナの予防効果、どうなんでしょうかね・・・。

この「新型コロナ患者はメガネ率が低い」という臨床研究の結果をもって、「メガネやっべえ、よっしゃ全員メガネかけんべ」とメガネ屋さんに駆け込む必要はありませんし、メガネ関連の株を仕込む必要もありません。

なぜなら、これは一つの病院からの報告に過ぎませんし、研究の対象となった患者数も少ないので、ある病院の特殊な状況を拾っているだけなのかもしれません。

この「メガネ、新型コロナに有効説」を検証するためには、今回ご紹介した研究以外にも、メガネと新型コロナとの関係を検証する臨床研究が複数必要になるでしょう。

ただし、メガネの有無にかかわらず、日頃から目や鼻を触る習慣のある方は、感染リスクになりますので、これを機にご自身の習慣を見直してみてはいかがでしょうか?

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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