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新型コロナ再感染者の報告 どう解釈すれば良いのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

香港で新型コロナウイルスに再感染した事例が報告されました。これに続き、ヨーロッパでも2例の再感染事例が報告されています。

一度感染した人も再び感染しうるということは、どういったことを意味するのでしょうか?

香港での再感染事例

香港での再感染事例(https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1275を元に筆者作成)
香港での再感染事例(https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1275を元に筆者作成)

香港での再感染の事例は、33歳の香港在住の男性です。

3月26日にPCR検査で新型コロナウイルスが検出され、3月29日に入院となっています。

PCR検査が2回陰性となり、4月16日に退院されています。

その後、スペインに渡航しイギリス経由で香港に帰国した際に上海空港でスクリーニングのためのPCR検査を受けたところ陽性であったとのことです。

3月に陽性となったウイルスと、8月に陽性になったウイルスとを解析したところ、3月に陽性となったのは同時期にアメリカやイギリスで分離されていた株に近く、8月に陽性となったのは同時期にスイスやイギリスで分離されているウイルスであることが分かり、この2つはどちらも新型コロナウイルスではあるものの、別のウイルスであることが分かり、「再燃(もともとのウイルスが再増殖した)」ではなく「再感染(前回とは異なるウイルスに感染した)」であると判断されました。

これまでも退院後に再度新型コロナウイルス陽性となる方が確認されていましたが、例えば韓国での調査では、この再陽性の事例は同じウイルスの残骸を再び拾っているだけであって、別のウイルスに感染したわけではありませんでした。

South Korea Says Patients Who Retested Positive After Recovering Were No Longer Infectious

しかし、今回の香港の事例は間違いなく異なった新型コロナウイルスに感染しており、再感染であると言って良い事例と考えます。

感染症では、麻疹(はしか)のように、一度感染すると同じ感染症には二度と感染しなくなる感染症もありますが、新型コロナについてはそうとは言えないのかもしれません。

新型コロナでは感染から数カ月後には抗体が低下する人がいる

抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃する武器の一つです。

抗体の量が高ければ高い方がその病原体に対する抵抗力があることになるため、免疫の一つの指標になります。

一般的に、特定の微生物に感染した後はその微生物に対する抗体の中でもIgGという種類の抗体が長期間保持されます。

例えば、麻疹(はしか)では一度感染すると生涯に渡ってIgG抗体が維持されることもあります。

しかし、今回の新型コロナに2回感染した香港の事例では、2回目の感染の際にもIgG抗体は検出されなかったそうです。

一度感染しているのに、IgG抗体が検出されなかったのはなぜでしょうか?

実はこれまでに、新型コロナに感染した人の多くが感染後しばらくすると抗体が検出されなくなることが分かってきています。

新型コロナ患者の急性期と回復期の抗体価と中和率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)
新型コロナ患者の急性期と回復期の抗体価と中和率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)

図は、急性期(呼吸器検体からウイルスが検出される時期)と回復期(退院から8週後)の抗体の推移に関する中国から報告のものです。

この研究は無症候性感染者37名と有症状者37名の急性期・回復期それぞれの抗体価(抗体の量)を比較したものです。

この研究によると、無症候性感染者も有症状者も新型コロナ患者では回復期にはすでに抗体が低下し始めているとのことです。

つまり感染によって作られた抗体が、発症から数カ月後には低下するということです。

これは抗体の量だけではなく、中和活性という実際の抗ウイルス効果も同時に減衰することが確かめられています。

数ヶ月で抗体が減衰するというのは、他の感染症と比較してもかなり早いタイミングです。

特に軽症者や無症状者では抗体が十分にできないといった報告もあり、この研究では無症候性感染者の40%、有症状者の12.9%で回復期のIgG抗体が陰性であったとのことです。

新型コロナ患者で回復期に抗体が陰性化する割合(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)
新型コロナ患者で回復期に抗体が陰性化する割合(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)

感染免疫には抗体だけでなく、細胞性免疫と呼ばれるTリンパ球を中心とした免疫機構も関与しているため、抗体の低下が即再感染につながるわけではないと思われますが、少なくとも抗体の低下が再感染の要因の一つにはなると考えられます。

集団免疫は期待できない可能性が高くなった一方で、2回目以降の感染は軽症化する可能性も

今回の香港での再感染事例以外にも、ベルギーとオランダでも同様に再感染と考えられる事例が報告されています。

Two European Patients Reinfected With Coronavirus

これらの事例から推測されることは、

・新型コロナには何度も感染する可能性がある

・新型コロナに対する集団免疫を維持することは難しいかもしれない

・一度の接種で長期間免疫を維持することのできるワクチンの開発は難しいかもしれない

といった私たちにとって「ぴえん超えてぱおん」なことばかりですが、まだ再感染事例は世界で3例しか報告されていない稀な事例であり、再感染がどれくらいの頻度で起こり得るのかは、今後さらなる報告を待つ必要があります。

再感染が極めて稀な事象であるということであれば、上記の3つの懸念については杞憂となる可能性も残されています。

なお、ヒトに感染するコロナウイルスとして以前から知られているヒトコロナウイルスは、一度感染しても再感染することが分かっており、これは抗体が早期に減少するためと考えられています。しかし再感染時にはウイルス排出期間が短くなったり、症状が軽減されるようです。

香港の事例は、2回目の感染は無症状であったとのことです。ヒトが何度も新型コロナウイルスに感染するとしても、ヒトコロナウイルスと同様に感染するたびに徐々に病原性は軽減されるのであれば、ヒトが感染を繰り返すたびに徐々に重症度は下がっていき、将来的には風邪の病原体の一つとしてヒトや動物の間を循環するようになるのかもしれません。

今の「コロナと共存する生活」が私たちにとって暫定的なものなのか、恒常的なものとして受け入れなければいけないのかは今後のさらなる情報を待つ必要がありますが、いずれにしても今の段階で私たちにできることは変わりません。

最も大事なことは感染しないことであり、三密を避ける、屋内ではマスクを着用する、こまめに手洗いをするなど個人個人にできる感染対策を地道に続けていきましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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