新型コロナに集団免疫は期待できない? 罹患後数ヶ月で抗体が陰性になるという報告をどう解釈すべきか

(写真:つのだよしお/アフロ)

今や新型コロナウイルス感染症の感染者は870万人に達しており、このうち46万人(5.3%)の方が亡くなられています。

つまり9割以上の方は新型コロナウイルス感染症から回復していることになります。

一般的に、感染症に罹患し回復した人は一定の期間は感染しなくなることが多く、例えば麻しん(はしか)には一度罹ると生涯感染しないことが多いとされます。

一方、性感染症である梅毒は一度感染しても何度でも感染する感染症です。

新型コロナについては感染者に免疫ができるのか、できるとしたらどれくらい持続するのかに関心が寄せられていましたが、先日中国から抗体は長期間持続しない可能性があるという報告が発表されました。

集団免疫とは

スウェーデンは集団免疫を獲得することで流行を封じ込める方針を取っています。

これは政府によるロックダウンなどの強力な介入は行わず、新型コロナに対する免疫を持つ人を増やすことで集団免疫を早期に確立するという方針です。

そもそも集団免疫とは、集団の中に占める免疫を持つ人の割合を増やすことで、その集団の中で流行を起こさなくする作用を指します。

ある集団における、感染症Aの流行を防ぐための免疫獲得者の割合(集団免疫率)は、基本再生産数(R0; 一人の感染者から平均何人にうつすか)から算出されます。

集団免疫率(%)= (1-1/R0)×100

と計算されますので、例えば、麻しんではR0=12~18なので、91.7~94.5%の人が免疫を持つとその集団では流行しなくなるということになります。

つまり日本全体で94%の人が麻しんワクチン接種により免疫を持つようになれば日本国内では麻しんは流行しなくなるということです。

集団免疫の考え方(麻しんの場合 Wikipediaの図より筆者作成)
集団免疫の考え方(麻しんの場合 Wikipediaの図より筆者作成)

では、新型コロナの場合はどうでしょうか。

新型コロナの基本再生産数R0はこちらの研究では2.24~3.58となっていますので、先程の計算式に当てはめれば55.4~72.1%の人が感染すればその集団では感染は広がらないということになります。

しかし、これはあくまでも「新型コロナに感染すれば免疫ができる(=一度罹れば二度と感染しない)」という前提に立った場合の計算です。

新型コロナでは回復期にはすでに抗体は低下している

新型コロナに罹った人が次に罹りにくくなるかどうかはまだ人では確かめられていません。

しかし、新型コロナウイルスに感染させたアカゲザルは次には新型コロナウイルスに感染しないという動物実験があることから、ヒトでも少なくとも特定の期間は免疫ができるのではないかと推測されています。

ではどのくらいの期間免疫が持続するのかというのが次に注目されるポイントになります。

新型コロナ患者の急性期と回復期の抗体価と中和率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)
新型コロナ患者の急性期と回復期の抗体価と中和率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)

中国から急性期(呼吸器検体からウイルスが検出される時期)と回復期(退院から8週後)の抗体に関する報告がnature medicine誌に報告されました。

抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃する武器の一つです。

抗体の量が高ければ高い方がその病原体に対する抵抗力があることになるため、免疫の一つの指標になります。

今回報告された研究は無症候性感染者37名と有症状者37名の急性期・回復期それぞれの抗体価(抗体の量)を比較したものです。

これによると、無症候性感染者も有症状者も新型コロナ患者では回復期にはすでに抗体が低下し始めているとのことです。

つまり感染によって作られた抗体が、発症から数カ月後には低下するということです。

これは抗体の量だけではなく、中和活性という実際の抗ウイルス効果も同時に減衰することが確かめられています。

数ヶ月で抗体が減衰するというのは、他の感染症と比較してもかなり早いタイミングです。

例えばA型肝炎やEBウイルス感染症など一度感染するとIgG抗体は生涯陽性になるものもあります。

しかし、新型コロナでは回復期(退院から8週後)には無症候性感染者の40%、有症状者の12.9%でIgG抗体が陰性になるようです。

※なお筆者も回復者の抗体を測定し、血漿を保存して将来的な治療に役立てるための研究をしています。新型コロナ回復者の方でご自身の抗体測定にご興味のある方はこちらをご覧ください)。

新型コロナ患者で回復期に抗体が陰性化する割合(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)
新型コロナ患者で回復期に抗体が陰性化する割合(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6)

もう一点重要な点として、新型コロナから感染して回復した人がどれくらいいるのか、これまでは抗体測定によって評価できると考えられていましたが、抗体が早期に低下する人が一定の割合でいるとなると、どうやって既感染者を評価すればよいのか難しくなります。

よく報道であるような「東京で0.1%が抗体陽性」というような評価方法は、一度抗体が陽性になった人は長期間陽性が続くことを前提としていましたが、実は「現時点で抗体がある人」だけを拾っているだけで感染後時間経過とともに抗体が低下した人は拾えなくなる可能性があり、今後は既感染者を検出するためのより良い指標が必要となってきます。

新型コロナに何度も感染するかはまだ分からない

最も関心が寄せられるであろう点は、これらの抗体が陰性になった症例は再び新型コロナに感染するということでしょう。

これに関してはまだ何とも言えません。

抗体というのはヒトの免疫のうち「液性免疫」という免疫を見るための指標になりますが、ヒトの免疫には「液性免疫」だけでなく「細胞性免疫」というものもあり、液性免疫の指標である抗体は免疫の一部分を見ているに過ぎません。

また、一度感染すると次にウイルスに暴露した際にメモリー細胞から急速かつ大量の抗体が産生されることで発症を防ぐ既往抗体反応(anamnestic immune response)が起こることも前述のアカゲザルの実験で確認されています。

既往抗体反応(anamnestic immune response)筆者作成
既往抗体反応(anamnestic immune response)筆者作成

新型コロナにおいても一定の期間内の再感染であれば、抗体が陰性になっていたとしてもこの既往抗体反応が働き発症を防ぐことができるかもしれません。

ですので今回の研究結果によって抗体が早期に低下し、中には陰性になる事例があるからといって即「集団免疫むりぽ」とは言えません。

もし今後、実際に再感染した事例が報告されれば、抗体価の低下と再感染のリスクが相関すると言えるかもしれません。そうなると、集団免疫の実現は遠のくことになるでしょう。

なお、ヒトに感染するコロナウイルスとして以前から知られていたヒトコロナウイルスは、一度感染しても再感染することが知られており、これは抗体が早期に減少するためと考えられています。しかし再感染時にはウイルス排出期間が短くなったり、症状が軽減されるようです。ヒトが何度も新型コロナウイルスに感染するということになれば、感染するたびに徐々に病原性は軽減され、将来的には風邪の病原体の一つとしてヒトや動物の間を循環するようになるのかもしれません。

今の「コロナと共存する生活」が私たちにとって暫定的なものなのか、恒常的なものとして受け入れなければいけないのかは今後の情報を待つ必要がありますが、いずれにしても今の段階で私たちにできることは変わりません。

三密を避ける、こまめに手洗いをするなど個人個人にできる感染対策を地道に続けていきましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)