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「コロナ、お前すげーわ」現場医師が見た5つの ”新型コロナ、ここがすごい”

國松淳和日本内科学会総合内科専門医, 日本リウマチ学会リウマチ専門医
(写真:Paylessimages/イメージマート)

私は東京都の都心の外れ・八王子市というところにある、あまり大きくはない総合病院に勤務するいち内科医です。

さて、コロナ。流行ってますね。コロナ、私も対応してますよとても。しかし私の専門は一般内科であり、あと少し炎症や免疫などを専門にはしていますが、感染症...ましてやコロナの専門家では当然ながらありません。

というか、新型コロナの専門家はいないようなもんですよね。感染症医ですら、ほんとは普段はコロナなんかを診るわけではなく、ダニ媒介感染症が専門だったりするわけです。また現在呼吸器科医の多くがコロナの前線へかり出されていますが、本来は肺がんや間質性肺炎の専門家だったりします。救急医も同様に最前線にいる形になっていますが、本来は外傷や広域災害が専門だったりするわけです(まあ広域災害みたいなものですけど)。

だからというわけではないですが、1年前にまず感じた印象と今とで、新型コロナへの考え方も変わってきたのも確かです。最初から誰もが「わかっていた」「訳知り」ではなかったわけですから。

いやいや、訳知り顔でドヤって言っておられた医者がたくさんいたじゃないですか、って? そうですね。そうかもしれません。だったら私が代わりに謝ります。ごめんなさい。

そしてさらに代表して(何の代表かはさておき)、今回の記事では私・國松が「コロナ、お前すげーわ」という点について、エビデンス分析というより診療現場感満載にまとめてみました。

■「コロナ、お前すげーわ」その1

 →『潜伏期間がほどよく長い』

潜伏期間というのは、ウイルスが体に侵入してから症状が出るまでの期間とお考えください。SARSコロナウイルス2(以下、新型コロナ)感染症では、潜伏期間は 1 〜14 日間とされていますが、5日前後くらいが多いようです。これは現場での感覚と合致しています。「前日1日外出してて冷えたので、そこでうつりました」と主張される患者さんがたまにおられますが、多分違いますね。

ところで皆さん、3日前の晩ご飯は何でしたか? と突然聞かれて即答できる人はおりますか? いないですね。私など昨日のお昼ですら何を食べたか即座に言えません。

新型コロナ感染症(Covid-19と呼びます)では、発症するざっくり3〜7日前にはすでにウイルスの侵入が完成していることになっていまして、逆に言えば、3〜7日間はまだ元気にしていたということになります。

新型コロナ感染症が、「リスク行動 →即日・翌日とかにすぐ発症」のような感染症であれば、けっこう意外と皆さん気をつけるんですよ。わかりやすいから。この感覚は臨床医だけのものでしたらすみません。でも何となくわかりますよね?

■「コロナ、お前すげーわ」その2

 →『最初はまさしく”ただのかぜ”にしかみえない』

その2はその1と関連します。

ハイ出ました、”コロナはただのかぜ”。このコロナ禍では「コロナはただのかぜか問題」が度々論争になりましたが、今回はそれではありません。

多くの新型コロナの病型(症状のパターン)において、初期症状はまさしく”ただのかぜ”にしかみえないことが多いんです。いや、これ本当です(あくまで初期です)。

すでにかかった方で、「いやそんなことない!コロナやばかった!」とおっしゃる人もいるかもしれませんが、それはそれでOKです。ただ、世の中にはネットなどで声をあげない人もいるんです。それは「割とあっさり治った人」たちだと私は思います。あっさり治って終わったのに、ネット上でものを言う必要ってありますかね。

・・・脱線しました。戻ります。

初期が”ただのかぜ”にしかみえないということの恐ろしさ、わかりますでしょうか。まず医療者に関してです。初期が”ただのかぜ”にしかみえなかったらどうなるでしょう。油断します。なんせ今までずっと見続けてきたかぜそのものですから。

次に患者さんです。症状が軽く感じたり「ああ、かぜだな」と思えば、まず様子をみると思いますが(ここまではいいです)、まさに軽いがゆえに、休息したり出勤・登校を控えることなく本来すべきことをしてしまいます。お仕事を持たない人でも、たとえば親の介護で施設に行って親に面会しておむつを置きにいくとかなども、症状が軽ければできてしまいます。そういえばこの1年、あれほど多かった「高齢者施設に入所中の高齢者の肺炎」が減りました。ああ、そういうことだったんですね(※筆者の感想です)。

■「コロナ、お前すげーわ」その3

 →『全員が重症化するわけではない』

その3はこれ、すぐに理解できますか? 「全員が重症化するわけではない」なら、そりゃいいじゃないと思われるかもしれません。そうではないのです。逆に考えてください。

もし仮に「新型コロナ感染→ほぼ全員が重症化・9割が死亡」とかいうウイルスだったらどうします? 完全に東京事変です。知事や厚生労働大臣になったつもりで考えてください。とんでもなく厳格な隔離と封鎖をして、ウイルス拡大を鎮圧するはずです。

新型コロナはそうではないのです。2020年12月16日時点での統計によれば、死亡率は60代で1.4%, 70代で4.8%, 80代以上で12.0%です。私たち医療者からすると十分恐ろしい死亡率ですが、例えば30代以下の死亡数が極めて低いことからすると、日頃元気に過ごしている世代ほど「特にとんでもなく恐ろしいウイルス」とは考えないかもしれません。しかもウイルスが蔓延した今、周りの身近な人が新型コロナにかかってもあっさり復帰している様子などを見てしまうとよりそう思うかもしれません。

もっと言うと、いくら中高年でも全員が「感染=重症化」というわけでもないというところが、私などは「コロナすごいなお前」と思ってしまいます。多くの人は大丈夫にさせておいて、ロシアンルーレット的に重症化させ、そして重症化した人を確実に集中治療室に追いやり、結果として重く医療を圧迫してくるきわめて狡猾なウイルスなのです。

■「コロナ、お前すげーわ」その4

 →『高齢になればなるほど死亡率が高い』

あれ。これはその3と同じではと思われましたよね。その4は少し意図が違います。先ほど若年者は死亡率が低いと申し上げました。新型コロナの恐ろしいところは、こういう若い元気な人を運び屋にするところです。

もし子供や若い人を重点的にアタックするウイルスなのであれば、それなりに気をつけるので、若い人も行動を抑制しますし、中高齢の方も子供や若者に近づかないように気をつけることができます。しかし新型コロナは、子供や若い人を運び屋に仕立て上げることができるウイルスなのです。子供はかわいいですもんね。じじばばは容易に近づきます。

■「コロナ、お前すげーわ」その5

 →『多くの人の、”命”ではなく”距離や会話”を奪うウイルス』

はい、最後は皆さんの制限された行動に関することです。すでにわかり切っていて、言うまでもないことかもしれません。

たとえばこういうコロナ禍のように社会が不安定になったとき、皆さんならどうしますか? たとえば震災などの大災害でもいいでしょう。

なんか、励まし合いません?

いや、そういう優等生みたいな話じゃなくて、コミュニケーションを多く取ろうとすると思うんですよ。あるいは、人は誰でも嫌なことや辛いことがあれば、人と会って顔を見て安心して、ゆっくりお話ししたいからお食事やお酒を飲みながら過ごしたりしますね。

新型コロナの野郎(失礼)の対策に関しては、これを控えろというわけです。でもそれにはわけがあって、「飛沫(ひまつ)」を介して感染しやすいことがわかっているからです。マスクをしながら食べたり飲んだりは、できませんよね。できる人おられますか? 食べたり飲んだりするときは、マスクを必ず外しているのです。誰でも。

だから、

・そういう場に行くことを避けろ

・行ってもあまりしゃべるな

・大人数はやめろ

という奇妙なお願いをせざるを得なくなっているのです。

以上、「コロナ、お前すげーわ」的な事柄をまとめてみました。

コロナ、お前は本当にすごいです。参りました。ここまでとは正直思いませんでした。私は(最初の頃)ずっと思い違いをしていました。

一般の皆さん、ならびに新型コロナウイルスの皆さん、すみませんでした。

1年前、少しでも大丈夫そうなことを言ってすみませんでした。

でも、専門家(私は内科臨床医という専門家)というのは、心中では断言口調では考えていないものです。医療現場がとても不確かなことは、コロナ前のずっと前から少なくとも臨床医は知り抜いていましたから、状況に応じて考えを変えるということはずっといつもしてきたつもりです。

1月11日現在、新型コロナの脅威は医療現場のとにかくあらゆるリソースを逼迫しています。もう私たちがもつかどうかは正直わかりませんが、もうコロナの野郎とは呼ばずに、類まれな狡猾さで私たちを本気にさせた病原体としてリスペクトするくらいの気持ちでやっていこうと思います。

日本内科学会総合内科専門医, 日本リウマチ学会リウマチ専門医

内科医(総合内科専門医・リウマチ専門医)/医書書き。2005年~現・国立国際医療研究センター病院膠原病科, 2011年~同院総合診療科。2018年~医療法人社団永生会南多摩病院総合内科・膠原病内科部長。不明熱や不定愁訴, 「うちの科じゃない」といった臨床問題を扱っているうちわけがわからなくなり「臓器不定科」を自称するようになる。不定, 不明, 難治性な病態の診断・治療が専門といえば専門。それらを通して得た経験と臨床知を本にして出版することがもう1つの生業になっており, 医学書の著作は多い。愛知県出身。座右の銘:特になし。※発信内容は個人のものであり, 所属した・している施設とは無関係です。

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