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日銀は配当金ほしさのためにも巨額の上場投資信託(ETF)を持ち続けたいようです

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日本銀行の植田和男総裁は9日、金融緩和政策からの出口局面での保有する上場投資信託(ETF)の取り扱いについて、持ち続けることも選択肢になるとの見解を示した。衆院財務金融委員会で答弁した(9日付ブルームバーグ)。

 日銀がETFの買入を決めたのは、2010年10月5日の金融政策決定会合で、「包括的な金融緩和政策」を決定した際である。この際の公表文には下記のようにあった。

 「市場金利やリスク・プレミアムに幅広く働きかけるために、バランスシート上に基金を創設し、多様な金融資産の買入れ、およびこれと同じ目的を有する固定金利方式・共通担保資金供給オペレーションを行うことが適当と判断した。」

 リスク・プレミアムとは、あるリスク資産の期待収益率から、同じ期間の無リスク資産の期待収益率を引いた差のこと。つまりETFの買入は株価の上昇を促進させるためのものとの見方もできよう。

 2013年4月の異次元緩和と呼ばれた質的・量的緩和策を決定した際には、「資産価格のプレミアムに働きかける観点から、ETFおよびJ-REITの保有残高が、それぞれ年間約1兆円、年間約300億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」として買入額を大きく増加させていた。

 2023年6月13日の日経平均株価は33年ぶりの水準にまで上昇してきている。その意味では、十分に資産価格のプレミアムに働きかけるという目的は達成されている。

 しかし、日銀の植田総裁は7日、日銀が金融政策の正常化の過程で保有する上場投資信託(ETF)を処分した場合の財務への影響について、「ETFの配当金がない場合はその分収益が下がるので、全体の姿はやや厳しめになる」との見解を示した(7日付ブルームバーグ)。

 日銀は収益を得るためにETFを購入していたというのであろうか。日銀の思惑通りに株価も上昇し、配当収益も確保できたのなら、目標達成でETFの買入を停止するとともに残高の縮小を行うことが必要となろう。

 日銀がETF購入策を通じて株式を間接保有し「大株主」となっている姿は、海外中銀からみても異常な姿となろう。

 物価も上昇し、株価も上昇している今こそ、金融政策を正常な姿に戻す必要がある。どうやら日銀はETFの売却すらも考慮せず、頑として異常な金融政策を続けたいようである。果たしてそのようなことがいつまで続けられるであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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