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FX(外国為替証拠金)取引の月間の円ドル売買額が初めて1000兆円超に。「ミセス・ワタナベ」の取引増

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日本の個人が手掛けるFX(外国為替証拠金)取引の円・ドル売買額が9月、単月として初めて1000兆円を超えた。銀行間の通貨取引に匹敵する水準となる(17日付日本経済新聞)。

 外国為替証拠金取引(FX)などの取引を活発に行う日本人個人投資家は「ミセス・ワタナベ」と呼ばれている。英国の経済誌が日本人に多い名字を冠して「ミセス・ワタナベ」と名付けたとされているが、当時の財務官が渡辺博史氏であったからなのかもしれない。

 その「ミセス・ワタナベ」の取引高が、銀行間の通貨取引に匹敵する規模となったというのは驚きである。しかも今回はこの取引も円安の要因と指摘されている。

 以前は円安が加速すると個人は反発を見込み、逆張りの円買いドル売りが入ることが多かった。しかし今回はドルを売ればスワップポイントの支払いが必要となるため、逆張りの円買いドル売りが出にくいとの指摘があった。

 スワップポイントとは「金利差調整分」とも呼ばれ、2か国間の金利差によって発生する利益となる。日米金利差の拡大で「スワップポイント」と呼ぶ売買する通貨の金利差による収入が増える。米国の金利が日本より高いため、ドルを買って翌日まで持ち越せば収入を得られる。反対のポジションでは支払いとなる。

 それだけではあるまい。日米金利差拡大の原因がはっきりしており、その原因が現状は解消できないと見込まれて、ポジションを傾けやすくなっている。FRBが利上げを継続し、日銀の黒田総裁は政策修正にすら動こうとしていない。黒田氏が総裁でいる限りにおいて、日銀のスタンスが変わることが考えづらくなっている。

 国際決済銀行(BIS)によると、銀行間取引による日本の外国為替市場の1営業日あたりの平均取引高は2019年4月時点で約3700億ドル(約55兆円)。銀行間取引と、個人のFX取引額がほぼ同額になった(17日付日本経済新聞)。

 個人によるFX取引は業者のヘッジなどを通じて、銀行間取引に基づく為替市場にも当然影響を与える。

 これは為替介入にも影響を与えよう。日銀のスタンスが変わらない限りは、ポジションの変更が考えづらい。むしろ為替介入時はドル買いのチャンスとも捉えられかねず、ますます介入の効果を相殺しかねない。

 逆張りスタンスの「ミセス・ワタナベ」の動きは、これまであまり重視してこなかった。しかし、今回のように理由ある順張りポジションで、なおかつスワップポイントによる差益も得られるポジション、それが銀行間の通貨取引に匹敵するとなれば、こちらを無視するわけにはいかなくなる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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